イケメンを観察していたら好きになってしまいました

「奇跡だ…」
 杉浦に勉強を教えてもらい、俺自身もいつも以上に勉強を重ねた末、俺は見事に補習を免れた。
 68点。
 とびきりいい数字ではないが、上出来だ。
「デートしような」
「うん」
 杉浦に飛びついて抱き合いたい気持ちを抑え、頷いた。
 凄い、やった。俺。
 俺をここまで引き上げるなんて、やはり杉浦はすごいやつだ。
 

⭐︎


 デートには水族館か動物園もいいなぁ。そんな話をしていると杉浦は『坂本の家に行きたい』と言い出した。
 『お家デートがいい』
 珍しい。杉浦もわがまま言うんだな。ちょっと残念だが仕方ない。俺は受け入れた。
 その話を長谷川と桜木にしたところ、その理由が分かった。
「あー、それあれだ。こいつと外で歩くと何かと面倒だからな」
 体育の授業中、持久走は苦手だ。
 スタート地点。それらしく足首や手首を回してみる。
「普通に歩いてるだけでこの前他校の女子に『写真撮ってください』ってな。この辺だと少し有名人だよな」
 なるほど、イケメンならではの苦労を俺は知らない。水族館などと浮かれた気持ちになって申し訳なかった。
「初めてのデートくらい邪魔されずに2人で過ごしたい」
「ちょ。杉浦。デートとか言うなよ。2人に怪しまれるだろ」
「俺は構わないけど」
 折角『デート』の言葉を『2人で遊びに行く』変えて話したというのに。
 まあ、長谷川も桜井も気になって無さそうだけど。

「杉浦も皆んなもさ、普通に俺置いてっていーから」

ーーー位置について!

「了解」「りょ」「…わかった」

ーーーヨーイ!

「坂本、ゴールで待ってる」
「うん」

ーーードン!

 一斉に走り出す。
 俺は一気に出遅れてしまい、3人の背中はあっという間に見えなくなってしまった。

 イケメンでスポーツもできて。
 凄いよなぁ。

 今日のコースはグラウンド1周してから校外にでる。そのまま川沿いを2周ぐるりと走って戻る10キロの超過酷なコース設定となっている。

 俺くらいのレベルだと周回遅れになるくらい容易いことだ。勉強もスポーツもできない、なかなか低スペックの俺。杉浦はどうしてこんな俺に優しいのだろう。
 さりげない優しさ、散りばめられた思いやり。モテる男がモテる由縁なのかもしれない。


「はあ、はあ…っ」
 杉浦の事を考えているうちに完全に呼吸を間違えた。
 息が上がり脇腹も痛い。
「もームリかも…」
 足を止めて道路脇の邪魔にならなそうな場所で座り込んだ。
 苦しい。
 もう、走れない。

「坂本?大丈夫?」
 この声は…杉浦?
 2週目の彼にどうやら追いつかれたようだ。
 額に汗が光っている。かっこよ。
「少し休んでるだけだから、先行けよ。構わず…いいからっ。今日、タイム測ってるし」
 呼吸を整えながら何とか伝えた。
「坂本を置いてけないだろ。歩ける?あっちの木陰に行こう」
 ごめん。歩けない、息が整わないんだ。

「え?坂本〜?どうした?」
 後方から同じく2週目の長谷川。
「具合悪そうだな。先生呼ぶか」
 桜木も合流した。
「だ、大丈夫だから。はあ…っ。はあっ…。少し休みたいだけ。行けよ…」
「長谷川、桜木。俺が残る。お前達は先に行って先生に伝えといて。俺がちゃんと坂本連れてくから」
「わかった」「じゃあな」
 2人に悪い事をした。
 俺に構う事でいくらかタイムが遅くなってしまった。
「杉浦も…行って。大丈夫だから…」
「行かないよ、坂本を1人にはしない」
 立てないでいる俺をヒョイと持ち上げた。
 え。お姫様抱っこ⁉︎
「え、あ。ちょ…。重いよ。下ろして。恥ずかしい」
 杉浦は俺を無視して歩く。少し先の木の木陰に置いてくれた。
 俺の隣に座り、
「肩持たれてろよ、楽だから」
 俺を体ごと引き寄せた。
 肩越しに、杉浦の香りがする。
 嗅いでいるうちに呼吸が平常になる。
「杉浦って…。意外と頑固なんだな」
「……ダメなところに入る?」
「まあ、授業さぼってんだから、ダメだろ。でも…俺的にはダメ、じゃない」
「そっか。ならよかった」
 不思議とダメなところも、欠点に思えない。
 杉浦の全て、好きにならない要素が見当たらなかった。