今日は誠大と初めてのデートだ。
絶対遅刻しないよう、スマホのアラームの他、目覚ましもふたつかけておいた。
余裕で朝メシ食ってから、顔を洗って肌を整え、姉ちゃんに借りた服に着替える。
女装してトモダチをびっくりさせたいっていったら、なぜかすげー喜んでウィッグや小物も貸してくれたし、メイクまでしてくれた。
机に置かれた鏡のなかには、ショートボブの美少女がいる。
認めたくはねーけど、相当可愛いんじゃねーか、これは。
知り合いに会っても、オレだと気付かねーんじゃ。
誠大は気付くかな?
ワクワクしながら、もらった猫のピアスをつけ、完成だ。
待ち合わせ場所である、学校がある駅の連絡通路へ向かうと──
「いやぁ、君、可愛いよ。ホント可愛い。ね、これからどっか遊び行こう」
ウザいナンパ野郎にさっそく絡まれた。
何、これ? めっちゃデジャ・ビュ感じるんだけど。
「人待ってるので」
すっぱり断ってもヤツはめげない。
「お友達待ってるの? だったらお友達も一緒に遊ぼうよ」
「断る。俺は貴様と遊びたくない」
いきなり降ってきた低い男の声に、オレとナンパ野郎は揃って振り向き──ナンパ野郎だけ固まった。
そこには、とても堅気には見えない、どこぞの兵長あたりを彷彿とさせる、めちゃくちゃ眼光の鋭い男がいて、ナンパ野郎を見下ろす形でガンつけしている。
「待ち合わせしてたお友達?」
ナンパ野郎は、ひきつった顔でオレに確認する。
オレは、溢れてくる笑みをこらえきれずにいった。
「いえいえ、待ち合わせしてたカ・レ・シでーす」
「人のモンに手ぇ出すとはいい度胸だな」
ほんもんの怒りがたっぷり込められた視線と言葉は迫力マシマシで、怖いけど超カッコいい。
「失礼しました」
ナンパ野郎は尻尾を巻いて逃げ出した。
ホッと息をついた誠大は、メガネはかけずに前髪をかき揚げ、オレを上から下まで見下ろしてくる。
「……女装趣味はないっていってなかった?」
「ねーよ。でも、この格好なら手繋いで歩いたって誰も変に思わねーだろ?」
いってから、はたと気付く。
もしかして──!
「やっぱ変? 気持ち悪い? 似合わない?」
一緒に歩きたくねーとか思われてたらどうしよう。
テンションがズーンと下がり、頭が不安でいっぱいになる。
口元に左手をあて、チラチラ見上げながら尋ねると、いきなりぐいっと抱き寄せられた。
「可愛すぎて誰にも見せたくない」
文武両道に秀でてるだけあって、細く見えて逞しい腕や胸にドキドキが止まらない。
「メガネなくて見えてんのかよ」
平静を装い突っ込むと、誠大はオレから手を離し、自分の目を指し示す。
「コンタクトにしたんだ。ドライアイだからあまり使わないけど、この方がよく見えるから」
「じゃあ、さっきの目付きの悪さは近眼だからでなく?」
「……単にムカついただけ」
メガネのない誠大は、しかめっ面をやめた途端、目元がキラキラになって、イケメン度もレベルアップした。
初めて見た私服も大人っぽくてカッコいい。
誰にも見せたくないのは、オレだって同じだ。
「それで、今日はどこ行くの?」
デートしようと誘ったのはオレで、本当は隣の駅の近くにある神社のお祭りにでも行こうかと思ったんだけど──
「人気のないとこ行きたい」
思わずこぼれた本音に誠大は目を丸くし、それからやや緊張したような面持ちで口を開く。
「じゃあ、うちくる?」
「え?」
「旅行でしばらく誰もいないから、イヤじゃなければ、泊まっていっても……」
泊まりってことは、ひょっとして……。
あれこれ妄想が頭をよぎり、慌てて振り払う。
つっても、別にイヤなわけじゃない。
ただ、その……心構えというか、いろいろ準備が必要だよなって思っただけで。
「……泊まりたい。でもその前に、着替えとかメイク落としとか歯ブラシとか、いろいろ買いたい」
「……そうだね。食材も買わないと」
「料理出来るの?」
「まあ、一応」
やだ、オレの彼氏、スペック高すぎ。
「君の好きなもの作るけど、何がいい?」
「美味しけりゃなんでも好きだよ。つーか、誠大って、オレのこと全然名前で呼ばねーよな。なんで?」
オレの問いに、誠大はわずかに目を細める。
「君、名前で呼ばれるのイヤなんじゃなかった? 呼んだらブッ殺すとかいってたよね」
「本当によく知ってんな、オレのこと」
確かに、名前で呼ばれるのはイヤだ。
屈辱的だ。
でも!
「誠大になら構わねーけど。むしろ呼んで」
「え?」
「呼・ん・で」
じっと見上げてねだると、誠大は目に見えて動揺した。
瞳を揺らして頬を赤らめ、口を開け──
「り……り……ムリ!」
両腕を顔の前でクロスさせる。
「今はムリ!」
「なんでだよ!」
さらっとなんでもこなすのに、名前呼べないとか可愛すぎかよ。
まあ、新鮮な誠大を見られたからいっか。
明日までずーっと一緒にいられるわけだし、本当にふたりきりになったら呼んでくれるかな。
またひとつ楽しみが増えたかも。
オレは、誠大の手を掴んで指を絡め、まずは買い物へ行くことにした。
〈完〉
絶対遅刻しないよう、スマホのアラームの他、目覚ましもふたつかけておいた。
余裕で朝メシ食ってから、顔を洗って肌を整え、姉ちゃんに借りた服に着替える。
女装してトモダチをびっくりさせたいっていったら、なぜかすげー喜んでウィッグや小物も貸してくれたし、メイクまでしてくれた。
机に置かれた鏡のなかには、ショートボブの美少女がいる。
認めたくはねーけど、相当可愛いんじゃねーか、これは。
知り合いに会っても、オレだと気付かねーんじゃ。
誠大は気付くかな?
ワクワクしながら、もらった猫のピアスをつけ、完成だ。
待ち合わせ場所である、学校がある駅の連絡通路へ向かうと──
「いやぁ、君、可愛いよ。ホント可愛い。ね、これからどっか遊び行こう」
ウザいナンパ野郎にさっそく絡まれた。
何、これ? めっちゃデジャ・ビュ感じるんだけど。
「人待ってるので」
すっぱり断ってもヤツはめげない。
「お友達待ってるの? だったらお友達も一緒に遊ぼうよ」
「断る。俺は貴様と遊びたくない」
いきなり降ってきた低い男の声に、オレとナンパ野郎は揃って振り向き──ナンパ野郎だけ固まった。
そこには、とても堅気には見えない、どこぞの兵長あたりを彷彿とさせる、めちゃくちゃ眼光の鋭い男がいて、ナンパ野郎を見下ろす形でガンつけしている。
「待ち合わせしてたお友達?」
ナンパ野郎は、ひきつった顔でオレに確認する。
オレは、溢れてくる笑みをこらえきれずにいった。
「いえいえ、待ち合わせしてたカ・レ・シでーす」
「人のモンに手ぇ出すとはいい度胸だな」
ほんもんの怒りがたっぷり込められた視線と言葉は迫力マシマシで、怖いけど超カッコいい。
「失礼しました」
ナンパ野郎は尻尾を巻いて逃げ出した。
ホッと息をついた誠大は、メガネはかけずに前髪をかき揚げ、オレを上から下まで見下ろしてくる。
「……女装趣味はないっていってなかった?」
「ねーよ。でも、この格好なら手繋いで歩いたって誰も変に思わねーだろ?」
いってから、はたと気付く。
もしかして──!
「やっぱ変? 気持ち悪い? 似合わない?」
一緒に歩きたくねーとか思われてたらどうしよう。
テンションがズーンと下がり、頭が不安でいっぱいになる。
口元に左手をあて、チラチラ見上げながら尋ねると、いきなりぐいっと抱き寄せられた。
「可愛すぎて誰にも見せたくない」
文武両道に秀でてるだけあって、細く見えて逞しい腕や胸にドキドキが止まらない。
「メガネなくて見えてんのかよ」
平静を装い突っ込むと、誠大はオレから手を離し、自分の目を指し示す。
「コンタクトにしたんだ。ドライアイだからあまり使わないけど、この方がよく見えるから」
「じゃあ、さっきの目付きの悪さは近眼だからでなく?」
「……単にムカついただけ」
メガネのない誠大は、しかめっ面をやめた途端、目元がキラキラになって、イケメン度もレベルアップした。
初めて見た私服も大人っぽくてカッコいい。
誰にも見せたくないのは、オレだって同じだ。
「それで、今日はどこ行くの?」
デートしようと誘ったのはオレで、本当は隣の駅の近くにある神社のお祭りにでも行こうかと思ったんだけど──
「人気のないとこ行きたい」
思わずこぼれた本音に誠大は目を丸くし、それからやや緊張したような面持ちで口を開く。
「じゃあ、うちくる?」
「え?」
「旅行でしばらく誰もいないから、イヤじゃなければ、泊まっていっても……」
泊まりってことは、ひょっとして……。
あれこれ妄想が頭をよぎり、慌てて振り払う。
つっても、別にイヤなわけじゃない。
ただ、その……心構えというか、いろいろ準備が必要だよなって思っただけで。
「……泊まりたい。でもその前に、着替えとかメイク落としとか歯ブラシとか、いろいろ買いたい」
「……そうだね。食材も買わないと」
「料理出来るの?」
「まあ、一応」
やだ、オレの彼氏、スペック高すぎ。
「君の好きなもの作るけど、何がいい?」
「美味しけりゃなんでも好きだよ。つーか、誠大って、オレのこと全然名前で呼ばねーよな。なんで?」
オレの問いに、誠大はわずかに目を細める。
「君、名前で呼ばれるのイヤなんじゃなかった? 呼んだらブッ殺すとかいってたよね」
「本当によく知ってんな、オレのこと」
確かに、名前で呼ばれるのはイヤだ。
屈辱的だ。
でも!
「誠大になら構わねーけど。むしろ呼んで」
「え?」
「呼・ん・で」
じっと見上げてねだると、誠大は目に見えて動揺した。
瞳を揺らして頬を赤らめ、口を開け──
「り……り……ムリ!」
両腕を顔の前でクロスさせる。
「今はムリ!」
「なんでだよ!」
さらっとなんでもこなすのに、名前呼べないとか可愛すぎかよ。
まあ、新鮮な誠大を見られたからいっか。
明日までずーっと一緒にいられるわけだし、本当にふたりきりになったら呼んでくれるかな。
またひとつ楽しみが増えたかも。
オレは、誠大の手を掴んで指を絡め、まずは買い物へ行くことにした。
〈完〉
