夏休みにはロマンスのヒロイン?

 あの日からオレたちは朝同じ電車で通い、帰りも一緒に帰って勉強をみてもらうようになった。
 誠大(まさひろ)は意外と話しやすいし、教え方も講師よりうまい。

 夏期講習前期最終日、今日は勉強を見てもらう必要はなかったけど、いつものお礼におごらせてと、バーガーショップへ寄り道していた。

「そうそう、こないだ同じ教室の子に数式の解き方聞かれたんだけど、誠大に教わってたから、ちゃんと教えてやれたんだ」
「そう、良かったね」
「いやぁ、念のため勉強しといて本当良かったわ。おかげで女子にいいとこみせられたよ」

 シェイクをすすりながらいうと、誠大のポテトをつまんでいた手が止まった。

「……君は、女の子にいいとこみせたくて勉強してたの?」

 眉間に寄った皺のせいか、咎めるような響きを感じ、オレはムッとして答える。

「いいじゃん別に。誠大だって、可愛い女の子と仲良くなりてーとか、彼女欲しいとか思うだろ?」
「思わないけど、君はその……恋愛対象として女の子が好きなの?」
「あ? そんなんあ──」

 当たり前、といおうとして思い出した。
 やべ、オレ、女だと思われてるんだった。

「違う違う。好きなのは、お、オトコで、女の子とは友達として仲良くなりたいだけだよ」
「へぇ……」

 へぇのあとの沈黙がなんか怖い。
 嘘ついてるのバレてる?

 どぎまぎしてると、不意に誠大が手を伸ばしてきてオレの頬に触れ、親指でスッと口元をなぞった。

「な、何?」
「ついてた」

 さらっといい、「もう暗くなるし、そろそろ帰らない?」と提案してくる。

「ああ、うん。そうだな」

 オレは動揺を隠し、トレイの上を空にすることに集中した。
 食べ終わると、誠大はごく自然にオレのトレイも一緒に持って片付けに行く。

 なんだよ、自分だって女の子 (オレ) に超優しいじゃんか。
 電車の中や道歩いてるとき、オレが人にぶつかったりしねーようこっそり気ぃ使ってんの、知ってんだからな。

 彼女欲しいと思わないとかいってたけど、本当は下心あるんじゃねーの?
 つってもまあ、オレじゃ彼女になってやることは出来ねーけど。

 ズキンと胸が痛んだのは、罪悪感のせい?

 もしオレが男だとわかったら、コイツはどうするんだろう?
 もう優しくしてくんねーのかな?

 また胸が痛んだけど、余計なことは考えないようにして、オレたちは店を出た。

「そういや、明日から塾しばらく休みだけど、誠大は何するの?」

 並んで駅まで歩きながら尋ねると、「勉強かな」と即答された。

「さっすが、休みの日も勉強とか、学年一位は違うな」
「君は?」
「オ……わたしは、手付かずな夏休みの宿題でも片付けよっかなって」
「それって、勉強じゃないの?」
「……だな」

 確かに勉強だ。
 今年の夏は勉強しか、してねー気がする。
 受験生だった去年の方が、まだ遊んでたよな。
 ダチと、お祭り行ったり、花火行ったり。

 駅の通路内にも、いろんなイベントのポスターが貼られている。

 星空と光の祭りだとか、今週末に開催されるものも多い。

「どうかした?」

 思わず足を止めたオレに合わせ、誠大もポスターへ目を向ける。

「……行きたいの?」
「え?」

 ここで行きたいっつったら、一緒に行く流れになる? ならない?

「んー……ちょっと気になっただけ」

 言葉を濁し歩き出す。
 改札は、もう目の前だ。

「あ、宿題でわからないとこあったら、いつでも聞いて」
「……ありがと、それじゃあ」

 しばらく会えねーけど、それ以上何もいえないまま、オレはいつものように手を振って誠大と別れた。