有栖川伊織は、俺の世界の外にいる

つつがなく本日の授業はすべて終わり——ホームルーム。
「夏休み前に、文化祭でウチのクラスはシンデレラの劇をやることと、東雲がシンデレラをやることが決まりました。そういうことで今日は、東雲以外の人が何をやるかを決めまーす」
学級委員の俺は教卓の横に立ち、やる気なく言った。
「監督と演出は演劇部の佐和田と野村、脚本は文芸部の辻󠄀がやってくれるそうだから、それ以外を決める。シンデレラ以外の演者と、大道具・小道具と衣装係だな」
俺の席に座った担任が補足する。
「まず、シンデレラ以外の演者を決めます」
俺はチョークで黒板に、まだ決まっていない役を書き出す。
王子。魔法使い。継母。姉二人……などなど、すべて書き終えた俺はふり返ってみんなに提案した。
「俺、王子様役は有栖川がいいんじゃないかと思うんだけど、どうよ?」
クラス中の目が伊織に向けられ、伊織は俺からの突然の推薦に、びっくり顔で俺を見た。
「王子役をやりたい人がいるならその人優先だけど、いないなら、有栖川ってイケメンだからぴったしじゃね? と思って」
昼飯時に伊織に地雷を踏まれた俺は、午後の授業の間じゅうずっと、どうすれば一日も早く伊織の世話係を卒業できるか? を考えていた。
そして俺は東雲が、『文化祭に限らないけど学校行事ってさ、普段しゃべらない人とも接点もてるイベントじゃん。よく知らない相手でも、準備とか一緒にしてたら、イベントが終わった時には友達になってる……ってこと、あるあるじゃね?』と、言っていたことを思い出した。
そこから俺は、『王子役なら目立つし、目立つことでみんなと話す機会も増える。すると伊織が友達を作るチャンスも増える!』と考えを展開し、伊織を推薦することにしたのだ。
「おれも有栖川がいいと思う!」
自分がやりたくないからの同意なのだろうが、渡辺が大声で賛成すると、教室のあちこちから賛同する声が上がる。
「有栖川はうちのクラスで一番顔いいから、おれも賛成!」
「王子様って感じで、見た目ぴったりだしな」
「女子受けよさそうなイケメンだし、適任じゃん」
俺の思惑を察したらしい担任が、「有栖川、どうだ? 王子役やってみないか?」と、妙にテカテカした顔で伊織の意思を確認する。
「昔、別の劇だけど、王子役をやったことがあるから——いいよ」
伊織は少し悩む仕草を見せたが、OKをくれた。
「よっ、イケメン! 頑張れよ!」
「さすが顔整いだけある」
「まぁ似合うし」
拍手が起きて伊織の王子役が決定したので、俺は身体を黒板へと反転させ、『王子』の下に『有栖川』と書いた。
どうか俺の思惑通りになりますように! 文化祭が終わった時、伊織に友達ができていますように!

その後、俺は魔法使い役に立候補した。
理由は、伊織のワガママ坊っちゃんっぷりを発揮させないための監視と、もし発揮してしまった時に素早くフォローするためだ。
理貴ちゃんは、渡辺や美樹本らと同じ、大道具の係になった。