伊織が出ていった後、俺はしばらく玄関扉の前に立ちつくしていた。
追いかけなきゃと思うのだけど、追いかけて捕まえて何を言うんだ? と考えたら――分からなくて。
「……伊織が、俺を好き?」
口に出してみても現実感がなくて、頭の中がハテナマークだらけになる。
「えぇー……?」
俺は腕を組んで首をかしげ、つい先ほどのことを思い返す。
片思い相手から、「好きだ」「恋人になれ」と言われてしまった。
理貴ちゃんと俺がつきあってて、自動販売機の前でキスしてた、なんていうとんでもない誤解もされてたな。
あ! もしかして昨日の突然の世話係解任宣言は、これが理由だったのか?
まぁ今それは大事なことじゃないので、横に置いておこう。
「やっぱ変だよ」
性格以外は少女漫画のヒーローみたいなスペックの伊織が、コミュ力くらいしか取り柄がない平凡な俺を好きだなんて、あり得なさすぎる。
でもさっき現実に、告白されたんだよな……。
ええと、うーん……これはアレだ。さっき伊織にも言ったけど、俺のことが好きだなんて、一時の気の迷いか勘違いだろ。
だって、人は魅力的な人に惹かれる。それは魅力的な人自身だって同じ。
俺が小六の時に好きになった可愛い女子も、アイドルや俳優たちの熱愛相手も、全員美形。
たまにいる美女と野獣カップルは、美醜の差を埋められる程の何かしらの才能や財産を、野獣側が持っている。
でも俺は、特別な才能も莫大な財産も持っていない。
「……じゃあ、何でなんだよ?」
例え一時の気の迷いだとしても、どうして伊織は俺なんかに恋愛感情を抱いたんだ?
しばらく考えてみたが、自力では答えにたどり着けそうにないので、俺は自室に戻ってスマホを手にした。
親友だけど、今回理貴ちゃんに相談するのは、たぶんちょっとマズイ。ならば、天然コミュ強の東雲だな。
俺はスマホを操作し、東雲に電話をかけ、三コール目でつながった。
『もしもーし! どしたの、山っち? 熱は下がった?』
「……あー、うん。明日、学校行けるくらいには下がった」
『そうなんだ、よかった。イオリンが「お見舞いに行きたい」と言ったから、家の場所教えたんだけど、ダメだった?』
「ううん。伊織、さっき来て帰ったよ」
『そっか。——で、おれに何の用ー?』
「えっと……ちょっと聞きたいことがあって」
『聞きたいこと? 何?』
「……例えばの話なんだけどさ、すげー美形の奴がさ、不細工とか普通顔の奴を、好きになることってあると思う?」
東雲は少し黙った後、『何その質問』といぶかしげな声で言った。
「ま、漫画の話だよ! 伊織と少女漫画の話になってさ、少女漫画ってそういう展開がよくあるけど、現実じゃあり得ないよなって話!」
おそらく東雲は今日の学校の話とか、明日からの授業の話とかを想像してただろうから、そりゃ唐突にこんな話されたら違和感すごいよな。何とか誤魔化さないと。
『……まぁ、少女漫画は女の子の夢だからねぇ。けど、なくもないだろ』
「え?」
『電車ん中や街の中で、美女と野獣なカップル、時々だけど見るし』
「え? いる? いた?」
どうでもいい記憶として処理されすぎてて、俺は街中のカップルの顔が思い出せない。
「でもさ、普通はさ、美形だって美形が好きだろうから、美形同士でつきあうもんだろ。芸能人同士のカップルとか、まさにそれじゃん」
『普通、ねぇ……。全否定はしないけど、それってイオリンがからむ話だったりする?』
「全然! 全然からまない話だけど!? 何で!?」
ヤバ! テンパって全力で否定ってしまった。こんなの、伊織が関係してますと自白してるみたいなもんじゃん……。どうしよう?
『ふーん、そう』
さすが天然コミュ強の東雲、神すぎる。
俺が嘘をついていることを絶対に気づいているのに、追求してこない。察し力と気遣いがすごくて、助かります……。
「……もし仮に、美形の奴が普通顔の奴を好きになったとして」
東雲の高いコミュ力を信じつつ、俺はもうバレてもいいか、と若干開き直る。
「その普通顔の奴が、美形が自分なんかを好きになるのはおかしい! と思うのは、変だと思う?」
東雲は『うーん』とうなって、少し黙った後、『別に変じゃないんじゃね?』と言った。
「だよな!」
東雲の答えに、俺は笑顔でほっと胸をなで下ろす。
『ただその普通顔の奴が、「自分は普通顔だから」という理由だけで、自分の価値を低く見積もりすぎてる可能性もあるけど』
「それはないだろ」
俺は俺に、客観的に妥当な評価を下せている自信がある。
『本当に?』
「本当に」
東雲は『ふぅん』とだけ言った。
多少の例外はあるけど、やはり俺の考え方はそんなにおかしくない。
人は魅力的な人に惹かれる。魅力的な人も、魅力的な人に惹かれる。世界って、そういうもんだ。
『困ったチャンだねぇー』
唐突に東雲が、あきれを含む声で言った。
「誰が? 何が? 伊織のこと?」
『イオリンじゃないよ。誰のことだと思う?』
「誰って……」
『——あ、別の人から電話かかってきたから、電話切っていい?』
「あ、うん。よく分からん電話につきあってくれてありがと」
『どういたしまして。それじゃ明日、学校で。バイバーイ』
プツリと電話が切られる。俺はスマホを机の上へ置き、ベッドへ寝転がった。
東雲と話したことで、俺の考えが大間違いということはなさそうだ、と確信できた。
だってやっぱり、美形と平凡じゃ持ってる魅力度が釣りあわなくて、美形が平凡を選ぶ理由がない。
東雲に質問しはぐったが——
何故ハイスペ伊織が、ロースペ俺に告白してきたのか? は、時間切れで東雲に聞けなかったな。伊織が俺に見出した魅力って何だ?
俺の取り柄……意識してきたえてるコミュ力くらいしか、思いつかない。
俺は人見知りを克服し、初対面でも誰とでもある程度、楽しく話せるようになった。
担任が俺に伊織の世話係を頼んできたのだって、その辺を見込まれたからだ。
実際に一ヶ月半強、俺が世話を焼いた結果、伊織はクラスに結構馴染んだ。
「……なるほど」
俺は小さくうなずく。
俺が平均以上なのはコミュ力しかないけど、伊織はそれを、自分との魅力の差を埋められるくらい価値があると感じたんだな。
そう考えればつじつまがあって納得できる!……とスッキリしようとしたのに、新しい疑問が脳内に浮かんでしまう。
「じゃあ俺がコミュ障になったら、どうなるんだ?」
例えば明日から俺が、人とまともに話せなくなったとする。
そうしたら伊織は、俺を嫌いになるのだろうか? 俺は伊織にとってどうでもいい人間に、即格下げされるのだろうか?
「……もしそうなら、冷たすぎねーか?」
今まで好きだった相手が、評価していた部分を失ったからって、そんな簡単に即好きじゃなくなるものか?
少なくとも俺は、そんなことはない。
もし理貴ちゃんが急に勉強ができなくなっても、運動音痴になっても、ずっと親友だ。
伊織だって同じだ。もし明日、伊織が普通顔以下になったら、「一晩の間に何があった?!」と驚くだろう。でも、それだけだ。俺は伊織を嫌いにならない。
というか客観的に見て、伊織が持つ最大の美点は美貌だと思うが、俺はそれ理由でアイツを好きになったんじゃないし。
伊織って意外に素直だったり、努力家だったり、小さい子が相手だと面倒見が良かったりするところとかが、いいなって。
もちろん、あの整った顔も好きの一つではあるけど、好きの中に占める割合は大きくない。
「……ちょっと待て」
俺が世話係を始める前の伊織は、社会不適合者の札を貼りたくなるくらい、マジでヤベー奴だった。
そのヤバさは、伊織が以前から持つ複数の美点じゃ、カバーしきれないほど酷かった。
世話係に任命された初期、俺は伊織の言動を何度も叱り、何度もケンカをした。
……伊織、よくそんな相手を好きになったな……。
いや俺だって、お礼すらろくに言えなかったモンスターを、よく好きになったな? なんだけど。
「……あれ?」
俺は違和感を覚え、その違和感の正体を捕まえようとしたんだが――
「ハックショイ!」
そのタイミングで俺は大きなくしゃみをし、違和感の正体はくしゃみと一緒に飛んでいって、捕まえ損ねてしまった。
追いかけなきゃと思うのだけど、追いかけて捕まえて何を言うんだ? と考えたら――分からなくて。
「……伊織が、俺を好き?」
口に出してみても現実感がなくて、頭の中がハテナマークだらけになる。
「えぇー……?」
俺は腕を組んで首をかしげ、つい先ほどのことを思い返す。
片思い相手から、「好きだ」「恋人になれ」と言われてしまった。
理貴ちゃんと俺がつきあってて、自動販売機の前でキスしてた、なんていうとんでもない誤解もされてたな。
あ! もしかして昨日の突然の世話係解任宣言は、これが理由だったのか?
まぁ今それは大事なことじゃないので、横に置いておこう。
「やっぱ変だよ」
性格以外は少女漫画のヒーローみたいなスペックの伊織が、コミュ力くらいしか取り柄がない平凡な俺を好きだなんて、あり得なさすぎる。
でもさっき現実に、告白されたんだよな……。
ええと、うーん……これはアレだ。さっき伊織にも言ったけど、俺のことが好きだなんて、一時の気の迷いか勘違いだろ。
だって、人は魅力的な人に惹かれる。それは魅力的な人自身だって同じ。
俺が小六の時に好きになった可愛い女子も、アイドルや俳優たちの熱愛相手も、全員美形。
たまにいる美女と野獣カップルは、美醜の差を埋められる程の何かしらの才能や財産を、野獣側が持っている。
でも俺は、特別な才能も莫大な財産も持っていない。
「……じゃあ、何でなんだよ?」
例え一時の気の迷いだとしても、どうして伊織は俺なんかに恋愛感情を抱いたんだ?
しばらく考えてみたが、自力では答えにたどり着けそうにないので、俺は自室に戻ってスマホを手にした。
親友だけど、今回理貴ちゃんに相談するのは、たぶんちょっとマズイ。ならば、天然コミュ強の東雲だな。
俺はスマホを操作し、東雲に電話をかけ、三コール目でつながった。
『もしもーし! どしたの、山っち? 熱は下がった?』
「……あー、うん。明日、学校行けるくらいには下がった」
『そうなんだ、よかった。イオリンが「お見舞いに行きたい」と言ったから、家の場所教えたんだけど、ダメだった?』
「ううん。伊織、さっき来て帰ったよ」
『そっか。——で、おれに何の用ー?』
「えっと……ちょっと聞きたいことがあって」
『聞きたいこと? 何?』
「……例えばの話なんだけどさ、すげー美形の奴がさ、不細工とか普通顔の奴を、好きになることってあると思う?」
東雲は少し黙った後、『何その質問』といぶかしげな声で言った。
「ま、漫画の話だよ! 伊織と少女漫画の話になってさ、少女漫画ってそういう展開がよくあるけど、現実じゃあり得ないよなって話!」
おそらく東雲は今日の学校の話とか、明日からの授業の話とかを想像してただろうから、そりゃ唐突にこんな話されたら違和感すごいよな。何とか誤魔化さないと。
『……まぁ、少女漫画は女の子の夢だからねぇ。けど、なくもないだろ』
「え?」
『電車ん中や街の中で、美女と野獣なカップル、時々だけど見るし』
「え? いる? いた?」
どうでもいい記憶として処理されすぎてて、俺は街中のカップルの顔が思い出せない。
「でもさ、普通はさ、美形だって美形が好きだろうから、美形同士でつきあうもんだろ。芸能人同士のカップルとか、まさにそれじゃん」
『普通、ねぇ……。全否定はしないけど、それってイオリンがからむ話だったりする?』
「全然! 全然からまない話だけど!? 何で!?」
ヤバ! テンパって全力で否定ってしまった。こんなの、伊織が関係してますと自白してるみたいなもんじゃん……。どうしよう?
『ふーん、そう』
さすが天然コミュ強の東雲、神すぎる。
俺が嘘をついていることを絶対に気づいているのに、追求してこない。察し力と気遣いがすごくて、助かります……。
「……もし仮に、美形の奴が普通顔の奴を好きになったとして」
東雲の高いコミュ力を信じつつ、俺はもうバレてもいいか、と若干開き直る。
「その普通顔の奴が、美形が自分なんかを好きになるのはおかしい! と思うのは、変だと思う?」
東雲は『うーん』とうなって、少し黙った後、『別に変じゃないんじゃね?』と言った。
「だよな!」
東雲の答えに、俺は笑顔でほっと胸をなで下ろす。
『ただその普通顔の奴が、「自分は普通顔だから」という理由だけで、自分の価値を低く見積もりすぎてる可能性もあるけど』
「それはないだろ」
俺は俺に、客観的に妥当な評価を下せている自信がある。
『本当に?』
「本当に」
東雲は『ふぅん』とだけ言った。
多少の例外はあるけど、やはり俺の考え方はそんなにおかしくない。
人は魅力的な人に惹かれる。魅力的な人も、魅力的な人に惹かれる。世界って、そういうもんだ。
『困ったチャンだねぇー』
唐突に東雲が、あきれを含む声で言った。
「誰が? 何が? 伊織のこと?」
『イオリンじゃないよ。誰のことだと思う?』
「誰って……」
『——あ、別の人から電話かかってきたから、電話切っていい?』
「あ、うん。よく分からん電話につきあってくれてありがと」
『どういたしまして。それじゃ明日、学校で。バイバーイ』
プツリと電話が切られる。俺はスマホを机の上へ置き、ベッドへ寝転がった。
東雲と話したことで、俺の考えが大間違いということはなさそうだ、と確信できた。
だってやっぱり、美形と平凡じゃ持ってる魅力度が釣りあわなくて、美形が平凡を選ぶ理由がない。
東雲に質問しはぐったが——
何故ハイスペ伊織が、ロースペ俺に告白してきたのか? は、時間切れで東雲に聞けなかったな。伊織が俺に見出した魅力って何だ?
俺の取り柄……意識してきたえてるコミュ力くらいしか、思いつかない。
俺は人見知りを克服し、初対面でも誰とでもある程度、楽しく話せるようになった。
担任が俺に伊織の世話係を頼んできたのだって、その辺を見込まれたからだ。
実際に一ヶ月半強、俺が世話を焼いた結果、伊織はクラスに結構馴染んだ。
「……なるほど」
俺は小さくうなずく。
俺が平均以上なのはコミュ力しかないけど、伊織はそれを、自分との魅力の差を埋められるくらい価値があると感じたんだな。
そう考えればつじつまがあって納得できる!……とスッキリしようとしたのに、新しい疑問が脳内に浮かんでしまう。
「じゃあ俺がコミュ障になったら、どうなるんだ?」
例えば明日から俺が、人とまともに話せなくなったとする。
そうしたら伊織は、俺を嫌いになるのだろうか? 俺は伊織にとってどうでもいい人間に、即格下げされるのだろうか?
「……もしそうなら、冷たすぎねーか?」
今まで好きだった相手が、評価していた部分を失ったからって、そんな簡単に即好きじゃなくなるものか?
少なくとも俺は、そんなことはない。
もし理貴ちゃんが急に勉強ができなくなっても、運動音痴になっても、ずっと親友だ。
伊織だって同じだ。もし明日、伊織が普通顔以下になったら、「一晩の間に何があった?!」と驚くだろう。でも、それだけだ。俺は伊織を嫌いにならない。
というか客観的に見て、伊織が持つ最大の美点は美貌だと思うが、俺はそれ理由でアイツを好きになったんじゃないし。
伊織って意外に素直だったり、努力家だったり、小さい子が相手だと面倒見が良かったりするところとかが、いいなって。
もちろん、あの整った顔も好きの一つではあるけど、好きの中に占める割合は大きくない。
「……ちょっと待て」
俺が世話係を始める前の伊織は、社会不適合者の札を貼りたくなるくらい、マジでヤベー奴だった。
そのヤバさは、伊織が以前から持つ複数の美点じゃ、カバーしきれないほど酷かった。
世話係に任命された初期、俺は伊織の言動を何度も叱り、何度もケンカをした。
……伊織、よくそんな相手を好きになったな……。
いや俺だって、お礼すらろくに言えなかったモンスターを、よく好きになったな? なんだけど。
「……あれ?」
俺は違和感を覚え、その違和感の正体を捕まえようとしたんだが――
「ハックショイ!」
そのタイミングで俺は大きなくしゃみをし、違和感の正体はくしゃみと一緒に飛んでいって、捕まえ損ねてしまった。
