俺たちの劇は、大成功に終わった。
役者全員が舞台で礼をし、舞台袖へ戻ってきた瞬間、クラス全員が一斉にワッと歓声を上げた。
「めっちゃよかった!」
「大成功じゃん!」
「王子様結婚してー!」
「じゃ、シンデレラはオレと結婚な! 東雲、すげぇ可愛かったよ!」
「それならオレは継母と結婚するかー」
全員笑顔でハイタッチをかわしまくる。
実はちょっとトラブったところもあったんだけど、たくさん練習した甲斐もあり、何とかいい感じで最後までやりきった。
「伊織! 王子様、最高だった!」
俺は笑顔で後ろから、伊織の尻を景気よくバシンと叩く。
「当然だ、この僕だぞ。——毎日稽古したからな」
俺へふり向いた伊織が、嬉しさと満足さがまじった顔ではにかむ。
「そうだな。毎日頑張ってた」
最初は推薦したことを後悔するくらい、どうしようもない棒読みの大根役者だったのに。
俺や辻󠄀相手に練習して、プリプリ怒りながらも佐和田の演技指導に従って。本当にお前は頑張ったよ。
「次の劇の準備があるから、さっさと撤収するぞー! ほら有栖川、お前はガラスの靴とクッション持って出て!」
「出口はあっち。一緒に行こうぜ」
伊織は佐和田に小道具を持たされ、従者役の奴に肩を組まれる。
これって、目標達成できたんじゃねぇかな?
俺の目論見通り、劇の練習をする中で、伊織と話す奴が増えた。
ケンカしつつも俺がビシビシ指導したので、伊織のワガママ坊っちゃんコミュニケーションが、以前より控え目になったし。
まだヤバイことも時々あるが、俺が担任から頼まれた『伊織をクラスに馴染ませる』という仕事は、もう十分果たせたんじゃないだろうか。
ならば最初に決めた期限通り、世話係という俺の任務は、文化祭終了と同時に無事完了するわけだ。
……三文安ボーイの世話係なんて、今でも嫌だ。だって伊織って本当にワガママで面倒臭くて、何度もふり回されて何度もケンカしたし。
なのに、今日でお役御免になることが、ほんの少しだけ寂しく感じるなんてなぁ。
俺に子供はいないけど、手のかかる子供が一人立ちする時の親って、こんな気分なのかもしれない。
*
クラス全員で小道具や大道具を持ち、体育館から教室へ戻る途中。
ガラスの靴を持つ王子姿の伊織は、すさまじい吸引力で、他校の女子たちを吸い寄せた。
「劇見ました! すごく素敵でした!」
「理想の王子様って感じで、ちょーメロかったですぅ!」
「あの、写真撮ってもいいですか? できればツーショも……」
「ズルい! 私も一緒に撮りたい!」
「彼女いますか!?」
「……いないし、募集もしていない」
自分を取り囲む、頬を赤く染めた女子たちに対し、王子様は冷たかった。
集客のため伊織には、「宣伝の時有栖川は、ひと言もしゃべらずニコニコしとけ」という指令が、監督から出されていた。
しかし本番を終えた今、もうその命令を守る必要がない、と伊織は判断したんだろうけど……もう少し愛想よくすりゃいいのに。
「用事があるから、それじゃ」
やや強引に女子の輪を抜ける塩対応な王子様を、「あ……」と残念そうな顔で見送る彼女たち。
あんな風に女の子たちに囲まれて騒がれたら、俺ならめちゃくちゃデレデレするだろうなぁ。まぁ普通顔の俺には、一生そんな機会はないんだけど。
「颯太、行くぞ」
もったいない、と思っている俺のところまで歩いてきて、伊織が言った。
「どこに?」
「教室に決まってるだろう」
伊織は白手袋をした手で俺の腕を掴み、周囲から向けられる視線も声も無視し、ズンズン歩いていく。
「さっき『写真撮ってもいいですか?』と伊織に言ってきた子、かなり可愛かったな。だからってわけじゃないけど、もう少し優しい対応してあげりゃよかったのに」
俺がこう言うと、先ほど伊織が女子に囲まれている間に俺と合流し、現在俺たちの後ろをついてきている理貴ちゃんが、珍しく悪ノリしてきた。
「連絡先、聞けばよかったのに」
「だよなぁ、理貴ちゃん。あれだけ可愛かったら、普通は聞くよな。せっかくのチャンス、生かそうぜー?」
「連絡しないから、聞く必要ない」
「素っ気ねぇし、もったいねぇ〜」
しつこく茶化しているのは俺なのに、何故か伊織は首を後へ向けて理貴ちゃんを険しい表情で数秒見た後、無言で進行方向に顔を戻した。
ん? どういうこと? 今何で伊織は俺じゃなく理貴ちゃんを、にらむ一歩手前みたいな表情で見たんだ?
もしかして——もしかして伊織は、理貴ちゃんに恋しちゃってる……とか?
好きな相手に悪ノリされたから、腹が立って悲しくて、あんな表情をした……とか?
理貴ちゃんは以前、忙しい俺のために「オレも有栖川の世話係やるよ」と申し出てくれて以降、積極的に伊織の世話を焼いてくれているから、最近二人の接点多いし。
あれ?……それってもしかして理貴ちゃんも、伊織のことが好きだったりするのか……?
いやいや! まさか! だって理貴ちゃんの好みは、グラマラスお姉様だぞ。
……でも、まったく的外れな、俺の勘違い邪推でもない気がするんだよな。特に、『伊織が理貴ちゃんを好きなのでは?』という疑惑は。
だって伊織って、俺にはワガママ言ってからんでくるのに、理貴ちゃん相手だと、かなり素直に対応するんだよな。
理貴ちゃんも伊織の相手してる時、他の奴らに対してより、丁寧な気がするし。
やっぱ二人って、お互いのことが好きなんじゃ?
そう確信した途端、胃が急に重くなって、俺は軽く気分が悪くなった。
……なんでショック受けてんだよ、俺。
世界ってそういうもんじゃん。人は魅力的な人が好きで、それは魅力的な人だって同じ。
だから美人女優とイケメン俳優、人気アイドル同士なんかの美形ペアが、よく熱愛報道されてるわけ。
ほら、先月の昼ズトークで読まれたお悩み相談にも、そのまんまのあったじゃん。大人気アイドル・ピィたんの熱愛報道相手、若手俳優だったじゃん。
少数の美形ペアじゃない場合は、美形じゃない方が、美形と釣りあいがとれるくらいの、何らかの優れた才能を持っている。
平凡な人間を美形が選ぶなんて、漫画やドラマの中だけ。
魅力も才能も足りていない普通の人間は、特別な人間に選ばれない。
そういえば今日の昼前、さっそく他校の女子とカップルになったクラスメイトが、出来たてほやほやの彼女を自慢していたな。
彼女が嫌がるだろうなと思ってチラ見しかしてないけど、ぱっと見て「釣りあってるな」と思う、普通同士の組みあわせだった。
だからやっぱり、そういうものなんだ。
小六の夏、俺がクラスで一番可愛い女子に告白したらフラれて、俺をフったその子は隣のクラスのイケメンとつきあったしさ。
交際経験はまだないけど、平凡で凡人の俺は、平凡で凡人な子とつきあうんだろうな。それが世界の摂理だから。
「颯太? 何ぼーっとしてる?」
伊織が俺の顔の前で、ひらひらと手をふる。
「やめろ。ぼーっとなんてしてないし」
俺はムッとし、伊織の手首を掴んで止めた。そんな俺へ、伊織は何か言いたげな目を向けてくる。
言いたいことがあるなら、はっきり言えよ。察してもらおうとするな!
俺は伊織が言いたい『何か』が何なのか、考えない。考えたところで、どうせ俺には関係のないことだ。
役者全員が舞台で礼をし、舞台袖へ戻ってきた瞬間、クラス全員が一斉にワッと歓声を上げた。
「めっちゃよかった!」
「大成功じゃん!」
「王子様結婚してー!」
「じゃ、シンデレラはオレと結婚な! 東雲、すげぇ可愛かったよ!」
「それならオレは継母と結婚するかー」
全員笑顔でハイタッチをかわしまくる。
実はちょっとトラブったところもあったんだけど、たくさん練習した甲斐もあり、何とかいい感じで最後までやりきった。
「伊織! 王子様、最高だった!」
俺は笑顔で後ろから、伊織の尻を景気よくバシンと叩く。
「当然だ、この僕だぞ。——毎日稽古したからな」
俺へふり向いた伊織が、嬉しさと満足さがまじった顔ではにかむ。
「そうだな。毎日頑張ってた」
最初は推薦したことを後悔するくらい、どうしようもない棒読みの大根役者だったのに。
俺や辻󠄀相手に練習して、プリプリ怒りながらも佐和田の演技指導に従って。本当にお前は頑張ったよ。
「次の劇の準備があるから、さっさと撤収するぞー! ほら有栖川、お前はガラスの靴とクッション持って出て!」
「出口はあっち。一緒に行こうぜ」
伊織は佐和田に小道具を持たされ、従者役の奴に肩を組まれる。
これって、目標達成できたんじゃねぇかな?
俺の目論見通り、劇の練習をする中で、伊織と話す奴が増えた。
ケンカしつつも俺がビシビシ指導したので、伊織のワガママ坊っちゃんコミュニケーションが、以前より控え目になったし。
まだヤバイことも時々あるが、俺が担任から頼まれた『伊織をクラスに馴染ませる』という仕事は、もう十分果たせたんじゃないだろうか。
ならば最初に決めた期限通り、世話係という俺の任務は、文化祭終了と同時に無事完了するわけだ。
……三文安ボーイの世話係なんて、今でも嫌だ。だって伊織って本当にワガママで面倒臭くて、何度もふり回されて何度もケンカしたし。
なのに、今日でお役御免になることが、ほんの少しだけ寂しく感じるなんてなぁ。
俺に子供はいないけど、手のかかる子供が一人立ちする時の親って、こんな気分なのかもしれない。
*
クラス全員で小道具や大道具を持ち、体育館から教室へ戻る途中。
ガラスの靴を持つ王子姿の伊織は、すさまじい吸引力で、他校の女子たちを吸い寄せた。
「劇見ました! すごく素敵でした!」
「理想の王子様って感じで、ちょーメロかったですぅ!」
「あの、写真撮ってもいいですか? できればツーショも……」
「ズルい! 私も一緒に撮りたい!」
「彼女いますか!?」
「……いないし、募集もしていない」
自分を取り囲む、頬を赤く染めた女子たちに対し、王子様は冷たかった。
集客のため伊織には、「宣伝の時有栖川は、ひと言もしゃべらずニコニコしとけ」という指令が、監督から出されていた。
しかし本番を終えた今、もうその命令を守る必要がない、と伊織は判断したんだろうけど……もう少し愛想よくすりゃいいのに。
「用事があるから、それじゃ」
やや強引に女子の輪を抜ける塩対応な王子様を、「あ……」と残念そうな顔で見送る彼女たち。
あんな風に女の子たちに囲まれて騒がれたら、俺ならめちゃくちゃデレデレするだろうなぁ。まぁ普通顔の俺には、一生そんな機会はないんだけど。
「颯太、行くぞ」
もったいない、と思っている俺のところまで歩いてきて、伊織が言った。
「どこに?」
「教室に決まってるだろう」
伊織は白手袋をした手で俺の腕を掴み、周囲から向けられる視線も声も無視し、ズンズン歩いていく。
「さっき『写真撮ってもいいですか?』と伊織に言ってきた子、かなり可愛かったな。だからってわけじゃないけど、もう少し優しい対応してあげりゃよかったのに」
俺がこう言うと、先ほど伊織が女子に囲まれている間に俺と合流し、現在俺たちの後ろをついてきている理貴ちゃんが、珍しく悪ノリしてきた。
「連絡先、聞けばよかったのに」
「だよなぁ、理貴ちゃん。あれだけ可愛かったら、普通は聞くよな。せっかくのチャンス、生かそうぜー?」
「連絡しないから、聞く必要ない」
「素っ気ねぇし、もったいねぇ〜」
しつこく茶化しているのは俺なのに、何故か伊織は首を後へ向けて理貴ちゃんを険しい表情で数秒見た後、無言で進行方向に顔を戻した。
ん? どういうこと? 今何で伊織は俺じゃなく理貴ちゃんを、にらむ一歩手前みたいな表情で見たんだ?
もしかして——もしかして伊織は、理貴ちゃんに恋しちゃってる……とか?
好きな相手に悪ノリされたから、腹が立って悲しくて、あんな表情をした……とか?
理貴ちゃんは以前、忙しい俺のために「オレも有栖川の世話係やるよ」と申し出てくれて以降、積極的に伊織の世話を焼いてくれているから、最近二人の接点多いし。
あれ?……それってもしかして理貴ちゃんも、伊織のことが好きだったりするのか……?
いやいや! まさか! だって理貴ちゃんの好みは、グラマラスお姉様だぞ。
……でも、まったく的外れな、俺の勘違い邪推でもない気がするんだよな。特に、『伊織が理貴ちゃんを好きなのでは?』という疑惑は。
だって伊織って、俺にはワガママ言ってからんでくるのに、理貴ちゃん相手だと、かなり素直に対応するんだよな。
理貴ちゃんも伊織の相手してる時、他の奴らに対してより、丁寧な気がするし。
やっぱ二人って、お互いのことが好きなんじゃ?
そう確信した途端、胃が急に重くなって、俺は軽く気分が悪くなった。
……なんでショック受けてんだよ、俺。
世界ってそういうもんじゃん。人は魅力的な人が好きで、それは魅力的な人だって同じ。
だから美人女優とイケメン俳優、人気アイドル同士なんかの美形ペアが、よく熱愛報道されてるわけ。
ほら、先月の昼ズトークで読まれたお悩み相談にも、そのまんまのあったじゃん。大人気アイドル・ピィたんの熱愛報道相手、若手俳優だったじゃん。
少数の美形ペアじゃない場合は、美形じゃない方が、美形と釣りあいがとれるくらいの、何らかの優れた才能を持っている。
平凡な人間を美形が選ぶなんて、漫画やドラマの中だけ。
魅力も才能も足りていない普通の人間は、特別な人間に選ばれない。
そういえば今日の昼前、さっそく他校の女子とカップルになったクラスメイトが、出来たてほやほやの彼女を自慢していたな。
彼女が嫌がるだろうなと思ってチラ見しかしてないけど、ぱっと見て「釣りあってるな」と思う、普通同士の組みあわせだった。
だからやっぱり、そういうものなんだ。
小六の夏、俺がクラスで一番可愛い女子に告白したらフラれて、俺をフったその子は隣のクラスのイケメンとつきあったしさ。
交際経験はまだないけど、平凡で凡人の俺は、平凡で凡人な子とつきあうんだろうな。それが世界の摂理だから。
「颯太? 何ぼーっとしてる?」
伊織が俺の顔の前で、ひらひらと手をふる。
「やめろ。ぼーっとなんてしてないし」
俺はムッとし、伊織の手首を掴んで止めた。そんな俺へ、伊織は何か言いたげな目を向けてくる。
言いたいことがあるなら、はっきり言えよ。察してもらおうとするな!
俺は伊織が言いたい『何か』が何なのか、考えない。考えたところで、どうせ俺には関係のないことだ。
