爽やかな秋晴れの空と共に迎えた、文化祭当日は日曜日。
今日は特別に、外部の人間も高校に入れて、文化祭を見て回れる。
そのため、朝から保護者や近隣の学校の生徒たちも入ってにぎわい、まさに校内はお祭り騒ぎって感じだ。
普段授業を受けている教室は展示で使用される他に、執事カフェのような模擬店にもなっており、廊下を歩けばたくさんの客と各クラスの呼び込みで、活気に満ちている。
俺たちのクラスの出し物は劇だから、教室は劇で使用する物が積んであるだけで、今ここにいる奴らは俺含めて全員、思い思いにまったりしているんだけど。
「一時はもうダメかと思ったが、無事間にあってよかった……」
助監督の野村が、教卓に肘をついて教室を見渡し、しみじみ言う。
「本番二日前に背景が一枚おしゃかになったり、小道具担当が進捗状況を誤魔化していたと発覚した時は、未完成で本番か!? と、あせったでござる」
辻󠄀が黒板にチョークでイタズラ書きしつつ言った言葉に、近くでスマホを触っていた俺は「本当にな」と強く同意した。
そこに佐和田が、「シンデレラと王子はいるかー?」と言いながら教室へ入ってきた。
「どっちもいるよー。何か用?」
窓際で伊織も含めた役者数人と、セリフチェックしていた東雲が答える。
「お、いたか! これから衣装に着替えて、二人で校内練り歩いて、劇の宣伝してこい」
——という監督命令により、伊織と東雲は王子服とドレスに着替え、俺は二人の補佐兼プラカード持ちとして、宣伝に同行することになった。
*
「午後二時から体育館でシンデレラの劇やりまーす! 見に来て下さーい!」
俺は『一年A組 ドキッ★男だらけの★シンデレラ』と書かれたプラカードを持って大声で宣伝しつつ、王子と姫の後ろを歩く。
「わ、ドレス綺麗!」
「てゆか叢雲高校って男子高だから、ドレス着てるの男子ってこと!? 可愛いすぎない!?」
「王子様、超イケメンでメロい! 推せる!」
「マジ王子様とシンデレラじゃん! 並んでるだけで絵画じゃん!」
二人を見た他校の女子たちがきゃいきゃい騒ぎ、同じ叢雲高校の奴らも、「お!」という感じで見てくる。
うんうん。目を引きつけられちゃうの、すげー分かる。
元から東雲は美少女系美少年な上、今日は彼の姉に教えてもらったというメイクをしているし。
伊織も女子受けする美形な上、西欧の血が四分の一入っていて色素が薄く、シンデレラの王子としてバッチリすぎるもんな。
まぁ東雲には双子の彼女がいるし、伊織はセリフ以外をしゃべらせたら、ワガママ坊っちゃんが出るんだけど。(そのため監督から、「宣伝の時有栖川は、ひと言もしゃべらずニコニコしとけ」という指示が出た)
「階段下りる時、ドレスの裾踏まないように気をつけて」
二階から一階へ下りる階段にさしかかったので、俺は前を歩く東雲に注意する。
ドレスの裾が床にすれて汚れないように、俺はプラカードを持っていない方の手で、後ろからドレスのスカートを軽く持ち上げる。
「あ、ストップ! 目にゴミ入ったかも!」
踊り場まで下りた時、東雲は右目を押さえ、踊り場の壁にある大きな鏡に駆け寄った。
俺と伊織は「大丈夫か?」と心配しながら東雲に近寄り——俺たち三人の姿が鏡に映る。
美形と美形と、相対的に不細工になる普通顔の俺。
鏡が映し出す、よく知っている今更すぎる現実に、何故か俺はダメージを受けた。
は? 俺ってば、何で自分が美形じゃないことに傷ついてんの? マジ意味不明なんだが?
伊織も東雲も、芸能界に入っていないだけのアイドルかモデルみたいなもん、と初対面の時から思ってて、理解もしてるのに。突然どうしたよ、俺?
「まつ毛とれた!」
「そりゃよかった。じゃ、進むぞ」
ふり返って笑う東雲に俺も笑い返して、俺は鏡の前からいち早く逃げ出し——ちょうど階段を上がってきていた、同学年の奴らの会話を聞いてしまった。
「A組の顔整いの、東雲と有栖川じゃん」
「王子と姫、お似合いすぎる」
分かるー! と再び盛大に賛同した俺の心は、また何故か意味不明にチクリと痛んだ。
*
時刻は午後一時をすぎ、シンデレラ劇の上演まで残り一時間を切った。
「衣装着替え終わった?」
「今着てるところ」
俺が教室で魔法使いの衣装に着替えていると、宣伝後も王子衣装を着っぱなしの伊織が、こちらへやってきた。
「ファスナー上げようか?」
「頼む」
伊織が俺の背後に回り、黒ワンピースのファスナーをジャッと上げる。
「はい、しめたよ」
「ありがと。——伊織、本当にその衣装似合いすぎだな」
ふり返った俺は、改めてまじまじと伊織を見て、感想を述べる。
王子衣装は白を基調に作られており、金色の装飾が華やかで、本当に伊織によく似合っていた。
「さすが王子様」
俺がふざけて軽く肩パンチすると、伊織は得意気にニヤリと笑った。
「そりゃ僕はイケメンだからな」
自信満々で言った直後、伊織は何故か急に軽く顔をしかめた。
「どうかしたか?」
「颯太の髪に寝癖がついてる」
「マジ? でもまぁセーフだろ。魔法使いは帽子かぶるから」
「そういう問題じゃない」
「美意識低くてごめーん」と、ふざけようとした俺の頭に伊織が手を伸ばし、俺の髪を手ぐしで整える。
「ちょ、いいって」
「よくない。じっとしてろ」
何で芸能界じゃなく在野にいるんだ? と疑問に思わされる美形と、壁ドンと同じかそれよりも近い距離から真正面で向きあい——不覚にもドキドキしてしまう。
心拍数を元に戻せよ、俺! 相手は顔がいいといっても、中身は三文安ワガママ坊っちゃんだぞ!?
「うん、これで少しはマシになった」
伊織が目を細め、満足げに微笑む。
「……どーも」
俺がキラキラなご尊顔を視界から外すために目を伏せると、近くで着替えていた継母役の奴が「有栖川。俺の衣装のファスナーも上げてくれよ」と言ったので、伊織が俺から離れていく。
白く長い指に髪を整えられる感覚は、ちょっと気持ちよかったかも……と、名残惜しく思うのやめようよ、俺。
今日は特別に、外部の人間も高校に入れて、文化祭を見て回れる。
そのため、朝から保護者や近隣の学校の生徒たちも入ってにぎわい、まさに校内はお祭り騒ぎって感じだ。
普段授業を受けている教室は展示で使用される他に、執事カフェのような模擬店にもなっており、廊下を歩けばたくさんの客と各クラスの呼び込みで、活気に満ちている。
俺たちのクラスの出し物は劇だから、教室は劇で使用する物が積んであるだけで、今ここにいる奴らは俺含めて全員、思い思いにまったりしているんだけど。
「一時はもうダメかと思ったが、無事間にあってよかった……」
助監督の野村が、教卓に肘をついて教室を見渡し、しみじみ言う。
「本番二日前に背景が一枚おしゃかになったり、小道具担当が進捗状況を誤魔化していたと発覚した時は、未完成で本番か!? と、あせったでござる」
辻󠄀が黒板にチョークでイタズラ書きしつつ言った言葉に、近くでスマホを触っていた俺は「本当にな」と強く同意した。
そこに佐和田が、「シンデレラと王子はいるかー?」と言いながら教室へ入ってきた。
「どっちもいるよー。何か用?」
窓際で伊織も含めた役者数人と、セリフチェックしていた東雲が答える。
「お、いたか! これから衣装に着替えて、二人で校内練り歩いて、劇の宣伝してこい」
——という監督命令により、伊織と東雲は王子服とドレスに着替え、俺は二人の補佐兼プラカード持ちとして、宣伝に同行することになった。
*
「午後二時から体育館でシンデレラの劇やりまーす! 見に来て下さーい!」
俺は『一年A組 ドキッ★男だらけの★シンデレラ』と書かれたプラカードを持って大声で宣伝しつつ、王子と姫の後ろを歩く。
「わ、ドレス綺麗!」
「てゆか叢雲高校って男子高だから、ドレス着てるの男子ってこと!? 可愛いすぎない!?」
「王子様、超イケメンでメロい! 推せる!」
「マジ王子様とシンデレラじゃん! 並んでるだけで絵画じゃん!」
二人を見た他校の女子たちがきゃいきゃい騒ぎ、同じ叢雲高校の奴らも、「お!」という感じで見てくる。
うんうん。目を引きつけられちゃうの、すげー分かる。
元から東雲は美少女系美少年な上、今日は彼の姉に教えてもらったというメイクをしているし。
伊織も女子受けする美形な上、西欧の血が四分の一入っていて色素が薄く、シンデレラの王子としてバッチリすぎるもんな。
まぁ東雲には双子の彼女がいるし、伊織はセリフ以外をしゃべらせたら、ワガママ坊っちゃんが出るんだけど。(そのため監督から、「宣伝の時有栖川は、ひと言もしゃべらずニコニコしとけ」という指示が出た)
「階段下りる時、ドレスの裾踏まないように気をつけて」
二階から一階へ下りる階段にさしかかったので、俺は前を歩く東雲に注意する。
ドレスの裾が床にすれて汚れないように、俺はプラカードを持っていない方の手で、後ろからドレスのスカートを軽く持ち上げる。
「あ、ストップ! 目にゴミ入ったかも!」
踊り場まで下りた時、東雲は右目を押さえ、踊り場の壁にある大きな鏡に駆け寄った。
俺と伊織は「大丈夫か?」と心配しながら東雲に近寄り——俺たち三人の姿が鏡に映る。
美形と美形と、相対的に不細工になる普通顔の俺。
鏡が映し出す、よく知っている今更すぎる現実に、何故か俺はダメージを受けた。
は? 俺ってば、何で自分が美形じゃないことに傷ついてんの? マジ意味不明なんだが?
伊織も東雲も、芸能界に入っていないだけのアイドルかモデルみたいなもん、と初対面の時から思ってて、理解もしてるのに。突然どうしたよ、俺?
「まつ毛とれた!」
「そりゃよかった。じゃ、進むぞ」
ふり返って笑う東雲に俺も笑い返して、俺は鏡の前からいち早く逃げ出し——ちょうど階段を上がってきていた、同学年の奴らの会話を聞いてしまった。
「A組の顔整いの、東雲と有栖川じゃん」
「王子と姫、お似合いすぎる」
分かるー! と再び盛大に賛同した俺の心は、また何故か意味不明にチクリと痛んだ。
*
時刻は午後一時をすぎ、シンデレラ劇の上演まで残り一時間を切った。
「衣装着替え終わった?」
「今着てるところ」
俺が教室で魔法使いの衣装に着替えていると、宣伝後も王子衣装を着っぱなしの伊織が、こちらへやってきた。
「ファスナー上げようか?」
「頼む」
伊織が俺の背後に回り、黒ワンピースのファスナーをジャッと上げる。
「はい、しめたよ」
「ありがと。——伊織、本当にその衣装似合いすぎだな」
ふり返った俺は、改めてまじまじと伊織を見て、感想を述べる。
王子衣装は白を基調に作られており、金色の装飾が華やかで、本当に伊織によく似合っていた。
「さすが王子様」
俺がふざけて軽く肩パンチすると、伊織は得意気にニヤリと笑った。
「そりゃ僕はイケメンだからな」
自信満々で言った直後、伊織は何故か急に軽く顔をしかめた。
「どうかしたか?」
「颯太の髪に寝癖がついてる」
「マジ? でもまぁセーフだろ。魔法使いは帽子かぶるから」
「そういう問題じゃない」
「美意識低くてごめーん」と、ふざけようとした俺の頭に伊織が手を伸ばし、俺の髪を手ぐしで整える。
「ちょ、いいって」
「よくない。じっとしてろ」
何で芸能界じゃなく在野にいるんだ? と疑問に思わされる美形と、壁ドンと同じかそれよりも近い距離から真正面で向きあい——不覚にもドキドキしてしまう。
心拍数を元に戻せよ、俺! 相手は顔がいいといっても、中身は三文安ワガママ坊っちゃんだぞ!?
「うん、これで少しはマシになった」
伊織が目を細め、満足げに微笑む。
「……どーも」
俺がキラキラなご尊顔を視界から外すために目を伏せると、近くで着替えていた継母役の奴が「有栖川。俺の衣装のファスナーも上げてくれよ」と言ったので、伊織が俺から離れていく。
白く長い指に髪を整えられる感覚は、ちょっと気持ちよかったかも……と、名残惜しく思うのやめようよ、俺。
