俺が少々ネガティブっていると、突然伊織が「ちょっと待って!」と俺の服を掴んだ。
「どうした?」
「暑くて喉乾いたから、手芸店と百均へは、あそこへ行ってからにしないか?」
伊織は少し離れた場所にある、映え写真によく使われるコーヒーチェーン店を指差した。
「先に買い物終わらせた方がよくね?」
まーたワガママかよ。坊っちゃんめ。
「先に休憩したい!」
……ん? ワガママ以外の何か——切実じみた必死さを伊織から感じるのは、俺の気のせいか?
「もう高校生なんだから、駄々っ子卒業しろよ」
「実際暑いし、オレも喉乾いたし、いいんじゃないか?」
「え」
何と理貴ちゃんが伊織に賛同した。
「そだね。おれも喉乾いたし。寄ろーよ」
東雲まで!?
「二人がいいならいいけど……」
俺が渋々承諾すると、伊織が「やった!」とジャンプして万歳した。お前は小学生か。
*
店内に入って注文の列に並び、しばらくして俺たちの番がきた。
「お待たせいたしました。ご注文をお伺い致します」
「伊織、お先にどうぞ」
俺は右隣に立つ伊織に注文順を譲ったのだが、伊織は注文カウンター上のメニュー表をガン見したまま、何も言わない。
「早く注文しろよ」
後ろに並んでいる人たちのことが気になり、俺は伊織の腕を軽く叩く。しかしそれでも伊織は黙ったまま。
「どうした?」
右を向いて伊織を見ると、伊織は何故か、追い詰められたようなけわしい顔をしていた。
「えっと……」
どうしてか言い淀む伊織に俺は、「新作を頼むんじゃなかったのかよ?」と、並んで待つ間に聞いていたことを言う。
「あぁ、うん、これ……」
伊織がぎこちなくメニュー表の写真を指差す。
「サイズはどうされますか?」
「さ、サイズ!?……ええと、サイズは……」
「イオリン。喉乾きまくってるならグランデ、そうでもないならトールにしとけばいーよ」
後ろにいた東雲が、俺と伊織の間に割り込み、フォローする。
「……じゃあ、トールで」
「かしこまりました。お連れ様は——」
*
全員注文した後、受け取りカウンターへ行ってドリンクを受け取り、俺たちは四人がけの席へ座った。
「有栖川ってもしかして、この店初めてか?」
席につくなり、たぶんそうなんだろうなぁと俺も思っていたことを、理貴ちゃんがズバリ聞いた。
「……そうだ」
伊織が赤面した顔を悔しげに顔を歪め、理貴ちゃんをにらむ。
理貴ちゃんも東雲も知らないんだから、配慮しようがないんだけど、田舎コンプレックスな伊織からしたら、地雷な質問だよな。
隠すのを協力してあげたいけど、さっきの見ちゃったら……無理だよ。
「マジか。珍しいな」
純粋に驚いた顔をする理貴ちゃん。仕方ないんだけど、残酷だ。
「そういうこともあるよ、理貴ちゃん」
「そうか? だいたい誰でも一回くらいは、来たことあるんじゃないかと思うんだが?」
俺のなけなしのフォローを、悪意なく木っ端微塵にするんだね……。
「——ぼ、僕が田舎者だからだよッ! ド田舎にこの店はないんだよッ! 悪いかッ!?」
眉をつり上げ、耳まで真っ赤にした伊織が、丸テーブルを叩く。
「へぇ、そうなのか。どうりで有栖川と同中だったって奴が、いないはずだ」
理貴ちゃんは、恥ずかしさと屈辱でキレている伊織が見えているはずなのに、とぼけた返事をする。
俺の親友って、デキる奴のはずなんだけど、たまにすごい天然を発揮するんだよな……。
「イオリン、怒らないで。イオリンの出身が田舎でも、絶対に笑ったりバカにしたりなんてしないから」
東雲様、再びのフォローありがとう!
「そうだぞ、伊織。少なくとも俺らは絶対笑ったりなんかしないから、落ち着け」
「だとしても!——誰にも言うなよ」
伊織は相手を呪い殺さんばかりの低い声と表情で、俺たちを見回す。
「大丈夫! 言わないって。ね、リッキーと山っち?」
東雲の言葉に、「もちろんだ」と、理貴ちゃんがクソ真面目な顔でうなずく。
「命賭けるか?」
「命賭けて、言わないって約束する」
隣に座る俺が伊織の肩に腕を回し、彼の目を見て真剣に言うと、お坊ちゃまはやっと怒りと屈辱の表情をといた。まぁまだご機嫌ナナメではあるようだけど。
「機嫌直せよ。誰でも初回はあんなもんだ」
俺はそれなりにこの店を利用するが、いまだにメニュー名はよく分からないモノも多いし、サイズの呼び方は独特だし、カスタムとか言われてもさっぱり分からないし。
「な、理貴ちゃん」
「ああ。颯ちゃんも昔、カップサイズ聞かれて固まってたな」
「は!? 理貴ちゃんだって昔、『あったかいフラペチーノが飲みたい』って言ってたの、覚えてんぞ!」
「ヤバ! あったかいフラペチーノってヤバ!」
プフー! と東雲が吹き出す。
「つーわけだから、誰でも最初はそんなもん。気にすんな」
「ふーん」
声にはまだ棘があったが、伊織の口角がわずかに上がった。機嫌、直ったっぽいな。
「で、初体験のお味はどうですか?」
俺の言葉に伊織はカップを持ち、ストローに口をつけ——緑がかった茶色の目を見開いた。
「甘くて冷たくて美味しい!」
「そりゃよかった」
伊織がニコニコスマイルでもう一口飲む。
王子様系イケメンなんだけど、小さい子供みたいで可愛いな。
「友達と絶対来たい店だったから、今日やっと来られて嬉しい」
「どうした?」
「暑くて喉乾いたから、手芸店と百均へは、あそこへ行ってからにしないか?」
伊織は少し離れた場所にある、映え写真によく使われるコーヒーチェーン店を指差した。
「先に買い物終わらせた方がよくね?」
まーたワガママかよ。坊っちゃんめ。
「先に休憩したい!」
……ん? ワガママ以外の何か——切実じみた必死さを伊織から感じるのは、俺の気のせいか?
「もう高校生なんだから、駄々っ子卒業しろよ」
「実際暑いし、オレも喉乾いたし、いいんじゃないか?」
「え」
何と理貴ちゃんが伊織に賛同した。
「そだね。おれも喉乾いたし。寄ろーよ」
東雲まで!?
「二人がいいならいいけど……」
俺が渋々承諾すると、伊織が「やった!」とジャンプして万歳した。お前は小学生か。
*
店内に入って注文の列に並び、しばらくして俺たちの番がきた。
「お待たせいたしました。ご注文をお伺い致します」
「伊織、お先にどうぞ」
俺は右隣に立つ伊織に注文順を譲ったのだが、伊織は注文カウンター上のメニュー表をガン見したまま、何も言わない。
「早く注文しろよ」
後ろに並んでいる人たちのことが気になり、俺は伊織の腕を軽く叩く。しかしそれでも伊織は黙ったまま。
「どうした?」
右を向いて伊織を見ると、伊織は何故か、追い詰められたようなけわしい顔をしていた。
「えっと……」
どうしてか言い淀む伊織に俺は、「新作を頼むんじゃなかったのかよ?」と、並んで待つ間に聞いていたことを言う。
「あぁ、うん、これ……」
伊織がぎこちなくメニュー表の写真を指差す。
「サイズはどうされますか?」
「さ、サイズ!?……ええと、サイズは……」
「イオリン。喉乾きまくってるならグランデ、そうでもないならトールにしとけばいーよ」
後ろにいた東雲が、俺と伊織の間に割り込み、フォローする。
「……じゃあ、トールで」
「かしこまりました。お連れ様は——」
*
全員注文した後、受け取りカウンターへ行ってドリンクを受け取り、俺たちは四人がけの席へ座った。
「有栖川ってもしかして、この店初めてか?」
席につくなり、たぶんそうなんだろうなぁと俺も思っていたことを、理貴ちゃんがズバリ聞いた。
「……そうだ」
伊織が赤面した顔を悔しげに顔を歪め、理貴ちゃんをにらむ。
理貴ちゃんも東雲も知らないんだから、配慮しようがないんだけど、田舎コンプレックスな伊織からしたら、地雷な質問だよな。
隠すのを協力してあげたいけど、さっきの見ちゃったら……無理だよ。
「マジか。珍しいな」
純粋に驚いた顔をする理貴ちゃん。仕方ないんだけど、残酷だ。
「そういうこともあるよ、理貴ちゃん」
「そうか? だいたい誰でも一回くらいは、来たことあるんじゃないかと思うんだが?」
俺のなけなしのフォローを、悪意なく木っ端微塵にするんだね……。
「——ぼ、僕が田舎者だからだよッ! ド田舎にこの店はないんだよッ! 悪いかッ!?」
眉をつり上げ、耳まで真っ赤にした伊織が、丸テーブルを叩く。
「へぇ、そうなのか。どうりで有栖川と同中だったって奴が、いないはずだ」
理貴ちゃんは、恥ずかしさと屈辱でキレている伊織が見えているはずなのに、とぼけた返事をする。
俺の親友って、デキる奴のはずなんだけど、たまにすごい天然を発揮するんだよな……。
「イオリン、怒らないで。イオリンの出身が田舎でも、絶対に笑ったりバカにしたりなんてしないから」
東雲様、再びのフォローありがとう!
「そうだぞ、伊織。少なくとも俺らは絶対笑ったりなんかしないから、落ち着け」
「だとしても!——誰にも言うなよ」
伊織は相手を呪い殺さんばかりの低い声と表情で、俺たちを見回す。
「大丈夫! 言わないって。ね、リッキーと山っち?」
東雲の言葉に、「もちろんだ」と、理貴ちゃんがクソ真面目な顔でうなずく。
「命賭けるか?」
「命賭けて、言わないって約束する」
隣に座る俺が伊織の肩に腕を回し、彼の目を見て真剣に言うと、お坊ちゃまはやっと怒りと屈辱の表情をといた。まぁまだご機嫌ナナメではあるようだけど。
「機嫌直せよ。誰でも初回はあんなもんだ」
俺はそれなりにこの店を利用するが、いまだにメニュー名はよく分からないモノも多いし、サイズの呼び方は独特だし、カスタムとか言われてもさっぱり分からないし。
「な、理貴ちゃん」
「ああ。颯ちゃんも昔、カップサイズ聞かれて固まってたな」
「は!? 理貴ちゃんだって昔、『あったかいフラペチーノが飲みたい』って言ってたの、覚えてんぞ!」
「ヤバ! あったかいフラペチーノってヤバ!」
プフー! と東雲が吹き出す。
「つーわけだから、誰でも最初はそんなもん。気にすんな」
「ふーん」
声にはまだ棘があったが、伊織の口角がわずかに上がった。機嫌、直ったっぽいな。
「で、初体験のお味はどうですか?」
俺の言葉に伊織はカップを持ち、ストローに口をつけ——緑がかった茶色の目を見開いた。
「甘くて冷たくて美味しい!」
「そりゃよかった」
伊織がニコニコスマイルでもう一口飲む。
王子様系イケメンなんだけど、小さい子供みたいで可愛いな。
「友達と絶対来たい店だったから、今日やっと来られて嬉しい」
