俺が伊織の世話係に任命されてから十一日たった、金曜日の昼休み。
トイレから教室へ戻ってきた俺は、シンデレラ劇の監督である佐和田に声をかけられた。
「役者組はまだ台本完成してないせいで、他の係の手伝いばっかで暇してるだろ。というわけで、今日手芸店に行って、衣装用の布を買ってきてくれないか?」
「衣装係は今何してんの?」
俺が尋ねると、佐和田は苦笑いしながら答えた。
「衣装の型紙作りが思ったより大変で、えらいこっちゃだよ。だから頼む。これ、買物メモと衣装代」
「しゃぁねぇな。ま、俺も着るものだし、はじめてのおつかいに行ってきてやるよ」
俺が佐和田から、買物メモとお金が入ったジップロックを受け取ると、自分の席から一連のやり取りを見ていた理貴ちゃんが言った。
「デカいショッピングモールにある手芸店で買物するんだろ? なら俺も行く。大道具、絵の具やハケが足りてないから」
というわけで俺と理貴ちゃんは、荷物持ち要員として東雲と伊織にも声をかけ、放課後に買物へ行くことになった。
*
全授業終了後、俺たち四人は学校近くのバス停からバスに乗り、劇に使う物の買い出しに出かけた。
下らない話をしていると、あっという間にバスは目的地に着き、俺たちはバスから降りた。
目的地である、この巨大ショッピングモールは、ここらで一番大きくて新しい商業施設だ。
今日は金曜日で、現在夕方ということもあり、俺たち含めて制服姿の学生が、結構な数ウロウロしていた。
「カオリン、手芸店はどこにあるんだ?」
「おれも知らなーい。リッキーは絵の具買うんだよね。どこで買うの? 百均?」
「画材店か文具店で買おうと思っていたんだが、予算のことを考えたら、百均の方がいいのか?」
普段用のない店に用があるので、俺たちは入口にある案内板の前で、目当ての店がどこにあるかを探す。
「もし百均なら俺、場所分かるから、そっち先行く?」
俺が後ろにいる理貴ちゃんへふり返る途中、少し離れた場所に立つ女子高生三人と、一瞬目があった。
「オレ一人で百均行って絵の具買って、手芸店行ってるお前らに後から合流した方が、時間の無駄がなくてよくないか?」
「じゃ、そうする?」
俺は理貴ちゃんへ返事をしながら心の中で、「そりゃ見るよね」と肩をすくめた。
黙っていれば王子様みたいな美形の伊織。ちょい強面だが男前な顔立ちの理貴ちゃん。美少女系美少年の東雲。
種類の違うイケメンが三人が、一箇所に固まっているんだから、女子高生もガン見するわな。
つまり、さっき俺が女子高生と目があったと思ったのは気のせい。モブ顔の俺なんかを見てるわけないんだから。
毎日顔あわせているせいで感覚が麻痺していたが、彼ら三人はイケメンという貴重種なのだ。
「地図見ると、手芸店と百均は同じ方向にあるから、途中まで一緒に行こ」
東雲が先頭に立って歩き始めたので、俺含む残りも後に続く。
「——顔面格差すげー」
歩きだしてすぐにあった、服屋のショーウィンドウ。
そこにうっすら映った、自分とイケメンたちを見てしまった俺の口から、自嘲する言葉がぽろりと出た。
「何か言ったか?」
「何も言ってないけど?」
聞いてきた伊織に、俺はさらりと嘘をつく。
非美形が美形になるには、大金を払って整形手術するしかないが、そこまでする美への執念やガッツは俺にない。
なら顔の造形について、アレコレ考えるだけ無駄。モブ顔の俺は、取り敢えず清潔感を維持しとけばいい。
……とは思うんだけど。こうやって現実を突きつけられると、その非情さに、愚痴の一つもついこぼれちゃうよね! っていう。
所詮平等は人間が作ったもので、世の中は不平等で不条理。
俺は王子様でもお姫様でもなく、シンデレラに魔法をかける魔法使い役。
魔法使い役でも、かつて気弱でコミュ障だった俺からしたら、随分な出世で成長じゃないか。
トイレから教室へ戻ってきた俺は、シンデレラ劇の監督である佐和田に声をかけられた。
「役者組はまだ台本完成してないせいで、他の係の手伝いばっかで暇してるだろ。というわけで、今日手芸店に行って、衣装用の布を買ってきてくれないか?」
「衣装係は今何してんの?」
俺が尋ねると、佐和田は苦笑いしながら答えた。
「衣装の型紙作りが思ったより大変で、えらいこっちゃだよ。だから頼む。これ、買物メモと衣装代」
「しゃぁねぇな。ま、俺も着るものだし、はじめてのおつかいに行ってきてやるよ」
俺が佐和田から、買物メモとお金が入ったジップロックを受け取ると、自分の席から一連のやり取りを見ていた理貴ちゃんが言った。
「デカいショッピングモールにある手芸店で買物するんだろ? なら俺も行く。大道具、絵の具やハケが足りてないから」
というわけで俺と理貴ちゃんは、荷物持ち要員として東雲と伊織にも声をかけ、放課後に買物へ行くことになった。
*
全授業終了後、俺たち四人は学校近くのバス停からバスに乗り、劇に使う物の買い出しに出かけた。
下らない話をしていると、あっという間にバスは目的地に着き、俺たちはバスから降りた。
目的地である、この巨大ショッピングモールは、ここらで一番大きくて新しい商業施設だ。
今日は金曜日で、現在夕方ということもあり、俺たち含めて制服姿の学生が、結構な数ウロウロしていた。
「カオリン、手芸店はどこにあるんだ?」
「おれも知らなーい。リッキーは絵の具買うんだよね。どこで買うの? 百均?」
「画材店か文具店で買おうと思っていたんだが、予算のことを考えたら、百均の方がいいのか?」
普段用のない店に用があるので、俺たちは入口にある案内板の前で、目当ての店がどこにあるかを探す。
「もし百均なら俺、場所分かるから、そっち先行く?」
俺が後ろにいる理貴ちゃんへふり返る途中、少し離れた場所に立つ女子高生三人と、一瞬目があった。
「オレ一人で百均行って絵の具買って、手芸店行ってるお前らに後から合流した方が、時間の無駄がなくてよくないか?」
「じゃ、そうする?」
俺は理貴ちゃんへ返事をしながら心の中で、「そりゃ見るよね」と肩をすくめた。
黙っていれば王子様みたいな美形の伊織。ちょい強面だが男前な顔立ちの理貴ちゃん。美少女系美少年の東雲。
種類の違うイケメンが三人が、一箇所に固まっているんだから、女子高生もガン見するわな。
つまり、さっき俺が女子高生と目があったと思ったのは気のせい。モブ顔の俺なんかを見てるわけないんだから。
毎日顔あわせているせいで感覚が麻痺していたが、彼ら三人はイケメンという貴重種なのだ。
「地図見ると、手芸店と百均は同じ方向にあるから、途中まで一緒に行こ」
東雲が先頭に立って歩き始めたので、俺含む残りも後に続く。
「——顔面格差すげー」
歩きだしてすぐにあった、服屋のショーウィンドウ。
そこにうっすら映った、自分とイケメンたちを見てしまった俺の口から、自嘲する言葉がぽろりと出た。
「何か言ったか?」
「何も言ってないけど?」
聞いてきた伊織に、俺はさらりと嘘をつく。
非美形が美形になるには、大金を払って整形手術するしかないが、そこまでする美への執念やガッツは俺にない。
なら顔の造形について、アレコレ考えるだけ無駄。モブ顔の俺は、取り敢えず清潔感を維持しとけばいい。
……とは思うんだけど。こうやって現実を突きつけられると、その非情さに、愚痴の一つもついこぼれちゃうよね! っていう。
所詮平等は人間が作ったもので、世の中は不平等で不条理。
俺は王子様でもお姫様でもなく、シンデレラに魔法をかける魔法使い役。
魔法使い役でも、かつて気弱でコミュ障だった俺からしたら、随分な出世で成長じゃないか。
