閉鎖生態系ver.2.0

 騒がしい。
 高等部に上がったとはいえ、中等部からの持ち上がりだ。
 それなのに、どいつもこいつも浮かれていやがる。
 くだらない話に興じるクラスメイトを見渡すと、妃奈子と目が合った。嬉しそうに手を振ってきたので、俺も柔らかな笑顔で振り返した。途端に彼女は顔を赤くし前を向く。
 家柄、容姿、性格。
 俺の許婚として申し分ないが、それだけ。
 全部決められている。
 彼女と結婚する。
 父の会社を継ぐ。
 跡取りを作る。
 死ぬ。
 俺はそういう生き物。
 だからせめて、卒業までの三年間は俺の自由にさせてもらう。
「なあ」
 とはいえ、特にやりたいこともない。
 どうせ俺は飼い殺しだ。
「なあってば」
 こいつらも良家の子息だろうに、こんな腑抜け共が跡継ぎとは先代連中も哀れだな。
 まぁ、俺が優秀すぎるだけかもしれんが。
「おーい。聞いてる?」
「何なんだ、貴様はさっきからっ!」
「うわっっ。……びっくりした。俺、ビビりだからやめてくれよ」
 振り返ると、妙な体勢で固まっている男が座っていた。
 黒い髪。
 丸い目。
 よく日に焼けた肌。
 知らない顔だ。
 ということは、覚える価値のないような奴。そんな男に何度も背中をつつかれていたとは不愉快この上ない。
「知るか。人の背中を何度もつつきやがって」
「だって、お前全然こっち見てくれねぇんだもん」
 不服であると訴えたいのか、その男は両手でバンバンと机を叩いた。
 うるさい。
「見るまでもないからな」
「ひでー。やっぱ金持ちって性格悪いんだな。俺、この学校でやっていけるか俄然不安になってきた」
「この学校?」
 この俺を悪しざまに言った事はさておき、そいつの発した単語に引っかかった。
「ああ。俺、外部組だから」
 なぜかピースサインをしてきた。
 その指に何の関係がある。
「へぇ」
「明らかに興味なさそうだな」
「ないからな」
「うっ……真正面から言われると傷つく……」
 胸に両手を当てると、大袈裟に顔を歪める。
「そもそも誰なんだ、貴様は」
「おっ? 俺に興味持ってくれた感じ?」
 男はパッと顔を輝かせ、首を傾げた。
「っていうか、貴様って言う人本当にいるんだ。ウケる」
 にやにやした笑みを浮かべ始めた。
 まずい。
 こめかみの血管が切れそうだ。
 どうせ同じクラスという一年きりの付き合いだろうが、それまで俺の全身の血管は無事で済むだろうか。
「質問に答えろ」
「はいはい。では、改めまして」
 わざとらしい咳払いを一つすると、屈託なく笑った。

「俺、京本洋紀」

 片手を差し出される。

「加賀美悠星くん、俺と友達になってくれよ」