満ち足りた私は彼から離れると、彼の鞄からボディシートを取り出した。
「少しもらうよ」
ソファに転がる彼の身体を丁寧に拭うと、周囲に散らばる服を彼に着せてあげていく。
「身体、痛むだろう。ごめんね、初めてがソファだなんて。次からはベッドを使おう」
「……つぎ?」
「ああ。私としては明日にでもと思うが、君の身体が心配だからね。何日空ければいいか調べておくよ」
労るように頭を撫でると、彼はしくしくと泣き始めてしまった。私はその涙を指で拭う。
やはり身体への負担が大きかったのだろう。それなのに、私のために頑張ってくれたと思うと愛おしくて堪らない。彼の負担を少しでも減らすため、知識や道具を増やさなければ。先はまだまだ長いな。
私は身支度を整え、彼のスマホを手にした。画面に彼の顔をかざしロックを解除すると、彼の使用人に電話を掛ける。
「もしもし。京本くんのご自宅ですか? はい。加賀美です。兄の方の。ちょっとまだ京本くんがうちにいるのですが、もう夜も遅いので迎えに来ていただけませんか? ……はい。それで大丈夫です。……いえ、こちらこそ、彼にはいつも良くしてもらっているので。……はい、ありがとうございます」
通話を終え、スマホを鞄の中にしまう。
「スマホ、鞄の中だからね」
返事はない。
目は薄く開いているものの、どこを見ているのか定かでない。
私は自分のスマホで、ソファに沈む彼の写真を撮った。
「あっ。しまった。さっきの撮っておけば良かったね。まぁ、次でいいか」
私は鏡台に向かうと、櫛と香油で自分の髪を整えた。そして、それらを持って彼のもとに戻ると、乱れた髪を丁寧に整えてやる。
「やはり君はカッコいいな。人気な訳だ」
彼の隣に腰掛ける。
「記念」
自分のスマホで彼とのツーショットを複数枚撮影した。すぐに写真を確認すると、どれも良く撮れていた。我ながら画になる。
「ほら、見なよ。やっぱり私たちってお似合いだと思わないか」
返事はない。
彼に写真を全て送ってあげた。
私は彼の鞄を肩に下げると、そっと立たせる。一向に歩き出そうとしないので、彼の腰に手を回すと、そのまま、ゆっくり外へ向かった。
裏口から出ると、辺りは既に真っ暗だった。
冬が近づいてきたのだろう、上着なしだとかなり寒い。
「寒いね」
「……」
「送ってあげる。行こうか」
とぼとぼ歩く彼の隣を、支えながら歩く。
これからは私が彼を支えていくのだと思うと、寒さなどどうでもよくなるほど胸が温かくなった。
私は彼に口づけた。
その瞬間彼の目に光が宿り、パンッという乾いた音と共に左頬がじわりと痛み始めた。
彼が私に平手打ちをしたのだ。
怯えた猫のようにこちらを睨んでいる。
私は慌てて謝った。
「ごめん、外でなんて。恥ずかしかっただろう。君を見ていると抑えられなくなったんだ」
彼は目を丸くした。
それから項垂れると、目から光が再び消えた。
駅前で彼の好きなスポーツドリンクを買った。何だか危ない気がしたので、私も一緒に改札を通り、電車に並んで座った。
スポーツドリンクを一口飲ませてあげると、よく冷えたそれを彼の目元に当てる。
「着くまで冷やすといい」
彼の両腕は力なく垂れている。
最寄り駅に着く頃、瞼の赤みはだいぶ引いており安心した。
出口まで送り届けると、車の前に彼の使用人が立っていた。
「京本くん、少し疲れてしまっているので、お家でゆっくりさせてあげてください」
「承知いたしました。ここまで坊っちゃんを送っていただき、本当にありがとうございます」
「いえ。当然のことをしたまでです」
私は笑顔で頭を下げる。
「ユウ。またね」
彼は手を振り返してくれなかった。
「少しもらうよ」
ソファに転がる彼の身体を丁寧に拭うと、周囲に散らばる服を彼に着せてあげていく。
「身体、痛むだろう。ごめんね、初めてがソファだなんて。次からはベッドを使おう」
「……つぎ?」
「ああ。私としては明日にでもと思うが、君の身体が心配だからね。何日空ければいいか調べておくよ」
労るように頭を撫でると、彼はしくしくと泣き始めてしまった。私はその涙を指で拭う。
やはり身体への負担が大きかったのだろう。それなのに、私のために頑張ってくれたと思うと愛おしくて堪らない。彼の負担を少しでも減らすため、知識や道具を増やさなければ。先はまだまだ長いな。
私は身支度を整え、彼のスマホを手にした。画面に彼の顔をかざしロックを解除すると、彼の使用人に電話を掛ける。
「もしもし。京本くんのご自宅ですか? はい。加賀美です。兄の方の。ちょっとまだ京本くんがうちにいるのですが、もう夜も遅いので迎えに来ていただけませんか? ……はい。それで大丈夫です。……いえ、こちらこそ、彼にはいつも良くしてもらっているので。……はい、ありがとうございます」
通話を終え、スマホを鞄の中にしまう。
「スマホ、鞄の中だからね」
返事はない。
目は薄く開いているものの、どこを見ているのか定かでない。
私は自分のスマホで、ソファに沈む彼の写真を撮った。
「あっ。しまった。さっきの撮っておけば良かったね。まぁ、次でいいか」
私は鏡台に向かうと、櫛と香油で自分の髪を整えた。そして、それらを持って彼のもとに戻ると、乱れた髪を丁寧に整えてやる。
「やはり君はカッコいいな。人気な訳だ」
彼の隣に腰掛ける。
「記念」
自分のスマホで彼とのツーショットを複数枚撮影した。すぐに写真を確認すると、どれも良く撮れていた。我ながら画になる。
「ほら、見なよ。やっぱり私たちってお似合いだと思わないか」
返事はない。
彼に写真を全て送ってあげた。
私は彼の鞄を肩に下げると、そっと立たせる。一向に歩き出そうとしないので、彼の腰に手を回すと、そのまま、ゆっくり外へ向かった。
裏口から出ると、辺りは既に真っ暗だった。
冬が近づいてきたのだろう、上着なしだとかなり寒い。
「寒いね」
「……」
「送ってあげる。行こうか」
とぼとぼ歩く彼の隣を、支えながら歩く。
これからは私が彼を支えていくのだと思うと、寒さなどどうでもよくなるほど胸が温かくなった。
私は彼に口づけた。
その瞬間彼の目に光が宿り、パンッという乾いた音と共に左頬がじわりと痛み始めた。
彼が私に平手打ちをしたのだ。
怯えた猫のようにこちらを睨んでいる。
私は慌てて謝った。
「ごめん、外でなんて。恥ずかしかっただろう。君を見ていると抑えられなくなったんだ」
彼は目を丸くした。
それから項垂れると、目から光が再び消えた。
駅前で彼の好きなスポーツドリンクを買った。何だか危ない気がしたので、私も一緒に改札を通り、電車に並んで座った。
スポーツドリンクを一口飲ませてあげると、よく冷えたそれを彼の目元に当てる。
「着くまで冷やすといい」
彼の両腕は力なく垂れている。
最寄り駅に着く頃、瞼の赤みはだいぶ引いており安心した。
出口まで送り届けると、車の前に彼の使用人が立っていた。
「京本くん、少し疲れてしまっているので、お家でゆっくりさせてあげてください」
「承知いたしました。ここまで坊っちゃんを送っていただき、本当にありがとうございます」
「いえ。当然のことをしたまでです」
私は笑顔で頭を下げる。
「ユウ。またね」
彼は手を振り返してくれなかった。
