「相談いい?」
「ああ、勿論」
ソファに座った彼に、「話してごらん」と促す。
サッカー部の件以降、すっかり「相談相手」の座を確保した私は完全に油断していた。
「同じクラスの女子に告白されたんだけどさ、酒井って子」
「あの世話焼きでよく喋る子か」
「そうそう」
「いつも通り、気持ちは嬉しいと穏便に断ればいいんじゃないか。あの子なら、そこまで気不味くもならないだろう」
「そうだけどさ、付き合ってみてもいいかなって」
聞き間違いかと思った。
「……え?」
「女子の中だと一、二番目に仲良いし。友達の延長って感じだと思うけど、良い奴だって知ってるから」
「……ああ?」
「口悪いけど、俺の事よく心配してくれるし」
付き合う?
彼が?
その女と?
……は?
「……あれを見て、よくそんな事が言えるね」
「まあな。でもやっぱ俺、家族に憧れがあるんだよな。結婚して子ども生まれて、家族守って」
「……君の父親は、男と関係を持っているだろ」
「それ言われたら反論できないけどさ、俺は父さんと違うし、不倫なんてしない」
無邪気に笑う。
「ましてや男となんてな。俺は絶対無理」
世界が崩れる音がした。
「……やめておいたらどうだ」
自分でも驚くほど冷たい声だった。
「え?」
「釣り合わない。釣り合わないよ、彼女では君に」
「ハル?」
「彼女は容姿が良い方ではない。君の隣に相応しくないよ。それに、毒にも薬にもならない、判で押したような性格。面白みに甚だ欠ける。第一、彼女は君の何を知っている? 君が何を苦しみ、どう乗り越えようとしているか知っているのか?」
言葉が止まらない。
「知るわけないだろ。恋人の父親が男と不倫しているなんて事実、ただの少女に背負えるはずがない。彼女には無理だ。君の事を碌に知らないような女に、恋人の座なんて安々と渡してはいけない。それに――」
「おい」
怒りに満ちた声に、はっとした。
私は何を。
「何でそんな酷い事言うんだよ。酒井がお前に何かしたのか?」
「いや……」
口を開いたが、その続きは出てこなかった。
「酒井は可愛いだろ。人の見た目にケチつけるとか最低だよ、お前。あと、女って言うな」
冷たい目で睨まれる。
丁寧に積み上げてきたものが、硝子細工みたく一瞬で粉々に砕け散った気がした。
「……もしかして、お前、好きなのか?」
好き?
私が。
私が、誰を好きだというのか。
「酒井のこと」
違う。
あんな女、誰が好きになるものか。
私が想いを寄せる相手なんて、そんなの決まっている。
「あ……」
そうだ。
私は知っていた。
ずっと、知らないふりをしていた。
だって、父と先生が、あの光景が、あの声が。
怖くて仕方がなかったから。
自分も、ああなってしまうのではないかって。
「悪いな。いくら俺に取られるのが嫌だからって、そいつを悪く言う奴には渡せんわ」
待って。
「……ミツもだけどさ、お前ら、何か最近怖ぇよ」
待って待って待って。
「しばらく俺に関わんな」
「ああ、勿論」
ソファに座った彼に、「話してごらん」と促す。
サッカー部の件以降、すっかり「相談相手」の座を確保した私は完全に油断していた。
「同じクラスの女子に告白されたんだけどさ、酒井って子」
「あの世話焼きでよく喋る子か」
「そうそう」
「いつも通り、気持ちは嬉しいと穏便に断ればいいんじゃないか。あの子なら、そこまで気不味くもならないだろう」
「そうだけどさ、付き合ってみてもいいかなって」
聞き間違いかと思った。
「……え?」
「女子の中だと一、二番目に仲良いし。友達の延長って感じだと思うけど、良い奴だって知ってるから」
「……ああ?」
「口悪いけど、俺の事よく心配してくれるし」
付き合う?
彼が?
その女と?
……は?
「……あれを見て、よくそんな事が言えるね」
「まあな。でもやっぱ俺、家族に憧れがあるんだよな。結婚して子ども生まれて、家族守って」
「……君の父親は、男と関係を持っているだろ」
「それ言われたら反論できないけどさ、俺は父さんと違うし、不倫なんてしない」
無邪気に笑う。
「ましてや男となんてな。俺は絶対無理」
世界が崩れる音がした。
「……やめておいたらどうだ」
自分でも驚くほど冷たい声だった。
「え?」
「釣り合わない。釣り合わないよ、彼女では君に」
「ハル?」
「彼女は容姿が良い方ではない。君の隣に相応しくないよ。それに、毒にも薬にもならない、判で押したような性格。面白みに甚だ欠ける。第一、彼女は君の何を知っている? 君が何を苦しみ、どう乗り越えようとしているか知っているのか?」
言葉が止まらない。
「知るわけないだろ。恋人の父親が男と不倫しているなんて事実、ただの少女に背負えるはずがない。彼女には無理だ。君の事を碌に知らないような女に、恋人の座なんて安々と渡してはいけない。それに――」
「おい」
怒りに満ちた声に、はっとした。
私は何を。
「何でそんな酷い事言うんだよ。酒井がお前に何かしたのか?」
「いや……」
口を開いたが、その続きは出てこなかった。
「酒井は可愛いだろ。人の見た目にケチつけるとか最低だよ、お前。あと、女って言うな」
冷たい目で睨まれる。
丁寧に積み上げてきたものが、硝子細工みたく一瞬で粉々に砕け散った気がした。
「……もしかして、お前、好きなのか?」
好き?
私が。
私が、誰を好きだというのか。
「酒井のこと」
違う。
あんな女、誰が好きになるものか。
私が想いを寄せる相手なんて、そんなの決まっている。
「あ……」
そうだ。
私は知っていた。
ずっと、知らないふりをしていた。
だって、父と先生が、あの光景が、あの声が。
怖くて仕方がなかったから。
自分も、ああなってしまうのではないかって。
「悪いな。いくら俺に取られるのが嫌だからって、そいつを悪く言う奴には渡せんわ」
待って。
「……ミツもだけどさ、お前ら、何か最近怖ぇよ」
待って待って待って。
「しばらく俺に関わんな」
