後日、ひょっこり彼が教室に現れた。
「坂本と仲直りできた。お前のおかげ。ありがと」
そう言うと、饅頭を渡してきた。
どうやら、あの一件で私の好物が饅頭だと勘違いしたらしい。
別に好きでも嫌いでもない。でもこれは、何を渡せば私が喜ぶか、彼が考えてくれた証だ。だから、どんな贈り物よりも嬉しかった。
食べるのが惜しく保存しようかと思ったが、自分の身体へ取り込むのが一番だと気づき、その場で食べた。
「やっぱ食いしん坊だな。そんな好きか」
「……ああ」
そんな彼は今、私の隣に座っているのだが。
「え? いや、それはないって……うん。あははっ。お前さー」
電話に夢中なのだった。
彼とソファで話していると、例の坂本くんから電話が掛かってきたので、「ちょっと出ていい?」と頼まれた私は了承した。
そして、もう十分ほど経つ。
私は手にした本に視線を落としているが、文字をなぞるだけで一行も頭に入らない。
彼はまだ楽しそうに喋っている。
今は私との時間なのに。
坂本くんとは毎日部活で会うだろう。こんな事になるなら、仲直りなんてさせなければ良かった。
ギリ、と自分の歯が鳴った。
第一、人を待たせて長電話なんて、非常識じゃあないか?
仲直りできたのは私のおかげ。それなのに、私を差し置いて坂本くんを優先するなんて、礼儀がなっていない。
彼はまだ高校二年生だ。知らない事も多い。
私が教えてあげなければ。
「あいつ、そういうとこあるよな。この間もさ――って、え?」
私は彼からスマホを取り上げると、通話終了ボタンを押した。
彼が呆然と私を見つめる。
「……え? な、何してんの?」
私はスマホを返すと、溜息をついた。
「長いから切った」
「いや、だって……」
「人が隣にいるのに長電話なんて、非常識だと思わないのか? 急ぎの話でもないだろう。明日の部活中に話せばいい」
「だからって、他人のスマホ取り上げて、いきなり切るのはないだろっ」
「じゃあ、どうすれば良かった?」
「ちょっと待ってくれれば」
「私はいつまで待てば良かったのかな? あと何分と君は決めていた?」
「それは……でも」
「でも?」
彼は俯いた。
「……ごめん。でも、もう勝手に切るなよ……」
しょんぼりしている姿が、飼い主に叱られた犬みたいで、愛らしい。
それだけで、先程の苛立ちが嘘のように萎んでいく。
「君を責めている訳じゃない。ただ、この先君が注意を受けるくらいなら、今私が教えてあげた方がいいと思っただけだ」
私は目を伏せた。
「私の事、嫌いになってしまったかな」
すると、慌てたように彼は首を横に振った。
「なってないって。お前がいるのに長電話して悪かったよ。でも、次からは普通に言えよな」
「わかってくれて嬉しいよ」
私は柔らかく微笑んだ。
この一件の後も、電話が掛かってくることがあった。
「出ていい?」
「五分だけだよ」
五分経つと、音を立てて本を閉じる。
彼は慌てて電話を切る。
これを何度か繰り返した。
やがて、私といるとき彼は電話に出なくなった。
着信があると、まず彼は私をちらりと見る。
私が微笑むと、彼は赤い通話拒否ボタンを押し、「今、無理」と送る。
そして、その画面を私に見せてくるのだ。
「偉いね。ありがとう」
私は咄嗟に手で口元を隠した。
「どうした?」
「何でもないよ」
きっと、彼に見せられない表情をしている。
「坂本と仲直りできた。お前のおかげ。ありがと」
そう言うと、饅頭を渡してきた。
どうやら、あの一件で私の好物が饅頭だと勘違いしたらしい。
別に好きでも嫌いでもない。でもこれは、何を渡せば私が喜ぶか、彼が考えてくれた証だ。だから、どんな贈り物よりも嬉しかった。
食べるのが惜しく保存しようかと思ったが、自分の身体へ取り込むのが一番だと気づき、その場で食べた。
「やっぱ食いしん坊だな。そんな好きか」
「……ああ」
そんな彼は今、私の隣に座っているのだが。
「え? いや、それはないって……うん。あははっ。お前さー」
電話に夢中なのだった。
彼とソファで話していると、例の坂本くんから電話が掛かってきたので、「ちょっと出ていい?」と頼まれた私は了承した。
そして、もう十分ほど経つ。
私は手にした本に視線を落としているが、文字をなぞるだけで一行も頭に入らない。
彼はまだ楽しそうに喋っている。
今は私との時間なのに。
坂本くんとは毎日部活で会うだろう。こんな事になるなら、仲直りなんてさせなければ良かった。
ギリ、と自分の歯が鳴った。
第一、人を待たせて長電話なんて、非常識じゃあないか?
仲直りできたのは私のおかげ。それなのに、私を差し置いて坂本くんを優先するなんて、礼儀がなっていない。
彼はまだ高校二年生だ。知らない事も多い。
私が教えてあげなければ。
「あいつ、そういうとこあるよな。この間もさ――って、え?」
私は彼からスマホを取り上げると、通話終了ボタンを押した。
彼が呆然と私を見つめる。
「……え? な、何してんの?」
私はスマホを返すと、溜息をついた。
「長いから切った」
「いや、だって……」
「人が隣にいるのに長電話なんて、非常識だと思わないのか? 急ぎの話でもないだろう。明日の部活中に話せばいい」
「だからって、他人のスマホ取り上げて、いきなり切るのはないだろっ」
「じゃあ、どうすれば良かった?」
「ちょっと待ってくれれば」
「私はいつまで待てば良かったのかな? あと何分と君は決めていた?」
「それは……でも」
「でも?」
彼は俯いた。
「……ごめん。でも、もう勝手に切るなよ……」
しょんぼりしている姿が、飼い主に叱られた犬みたいで、愛らしい。
それだけで、先程の苛立ちが嘘のように萎んでいく。
「君を責めている訳じゃない。ただ、この先君が注意を受けるくらいなら、今私が教えてあげた方がいいと思っただけだ」
私は目を伏せた。
「私の事、嫌いになってしまったかな」
すると、慌てたように彼は首を横に振った。
「なってないって。お前がいるのに長電話して悪かったよ。でも、次からは普通に言えよな」
「わかってくれて嬉しいよ」
私は柔らかく微笑んだ。
この一件の後も、電話が掛かってくることがあった。
「出ていい?」
「五分だけだよ」
五分経つと、音を立てて本を閉じる。
彼は慌てて電話を切る。
これを何度か繰り返した。
やがて、私といるとき彼は電話に出なくなった。
着信があると、まず彼は私をちらりと見る。
私が微笑むと、彼は赤い通話拒否ボタンを押し、「今、無理」と送る。
そして、その画面を私に見せてくるのだ。
「偉いね。ありがとう」
私は咄嗟に手で口元を隠した。
「どうした?」
「何でもないよ」
きっと、彼に見せられない表情をしている。
