部活を終え電車で帰ると、駅の出口に黒塗りの車が停まっている。
俺の家は駅から少し離れた小高い場所にある。だから、夜は使用人の方に迎えに来てもらう。
玄関に入ってすぐ、花が変わっていることに気がついた。
桜と松虫草。
春の花なのに、もの悲しい。
父さんの作品は、どれもそう。
使用人の福井さんに「ただいま」と声を掛けると、夕食に父を呼んでほしいと頼まれた。仕事場では、畳に正座した父が花の茎を鋏で切っていた。少し白が混じり始めた髪は香油で後ろに撫でつけられ、静かな黒い目がよく見える。仕事をしているときの父は神聖に思えて、いつも声を掛けるのを躊躇ってしまう。けれども、自分抜きで夕飯を済ませたと聞くと露骨に拗ねてしまうので、仕方なく俺は父さんと呼んだ。
「夕飯、できてるって」
「優希っ!」
先程までの「先生」は何処に行ったのか、子供みたいに顔を輝かせると、手にしていた花と鋏を机の上に置き、足袋でバタバタと俺の下に駆け寄ってくる。
「遅かったじゃないか」
「いつもより二十分くらい遅いだけじゃん」
「いや、心配だ。優希は可愛いから変な奴に目をつけられないか、父さん心配で心配で」
「百八十センチ超えの男に可愛いはないだろ」
「可愛いぞ。目に入れても痛くないとはこのことだ」
「親バカっていうのはこのことだな。行こ」
廊下を歩き始めると、父が嬉しそうについてくる。
俺は父さんが好きだ。
仕事をしている姿も、父親としての姿も。
ずっと俺を守ってくれている。
だから俺も父さんを守りたい。
小さい頃から、そう思っていた。
俺の家は駅から少し離れた小高い場所にある。だから、夜は使用人の方に迎えに来てもらう。
玄関に入ってすぐ、花が変わっていることに気がついた。
桜と松虫草。
春の花なのに、もの悲しい。
父さんの作品は、どれもそう。
使用人の福井さんに「ただいま」と声を掛けると、夕食に父を呼んでほしいと頼まれた。仕事場では、畳に正座した父が花の茎を鋏で切っていた。少し白が混じり始めた髪は香油で後ろに撫でつけられ、静かな黒い目がよく見える。仕事をしているときの父は神聖に思えて、いつも声を掛けるのを躊躇ってしまう。けれども、自分抜きで夕飯を済ませたと聞くと露骨に拗ねてしまうので、仕方なく俺は父さんと呼んだ。
「夕飯、できてるって」
「優希っ!」
先程までの「先生」は何処に行ったのか、子供みたいに顔を輝かせると、手にしていた花と鋏を机の上に置き、足袋でバタバタと俺の下に駆け寄ってくる。
「遅かったじゃないか」
「いつもより二十分くらい遅いだけじゃん」
「いや、心配だ。優希は可愛いから変な奴に目をつけられないか、父さん心配で心配で」
「百八十センチ超えの男に可愛いはないだろ」
「可愛いぞ。目に入れても痛くないとはこのことだ」
「親バカっていうのはこのことだな。行こ」
廊下を歩き始めると、父が嬉しそうについてくる。
俺は父さんが好きだ。
仕事をしている姿も、父親としての姿も。
ずっと俺を守ってくれている。
だから俺も父さんを守りたい。
小さい頃から、そう思っていた。
