少し肌寒くなってきたので、僕らはパソコン教室に戻って来た。
僕は、泣き疲れて、くたっと壁にもたれていた。
「じゃあ、俺は多日登が、もう少し回復したら送っていくけど、望陽はどうする?」
「じゃあ、待ってる間、ネタ合わせする?」
「え、あ、じゃあ、さっきの続きから」
二人は並んで先ほどの続きから、ネタの確認を始めた。僕はその様子をただぼんやりと見ていた。
ああ、良かった。スキップイソップは元通りだ。また、僕のせいで壊れかけた。
そう思うと、やっぱり、僕はこれ以上、ここにいるべきではないのかもしれないという思いが湧いてくるのだった。
もし、風太が僕を許してくれて、付き合うことが出来たらなおさら――
「ところで、風太と多日登は付き合ったことになったの?」
あまりに唐突に望陽がそんなことを言い出した。風太が少しバツが悪そうに、僕をちらりと見る。
「え、あ……それは、まだ、ちゃんと話し合いたい」
「うぇっ!? なんで!? 好き同士なのに?」
「でも……」
「…………え、もしかして、俺のこと気にしてる!?」
「そりゃあ、気にするだろ!?」
「なんで!?」
「気まずいだろ」
「誰が?」
「望陽が!」
「えー、なにそれ、めんどくせぇ」
望陽がうんざりしたように大きく仰け反った。バネみたいにビヨンっと上体を戻した反動で「あのさー」と、風太に詰め寄った。
「俺がなんのために身を引いたと思ってんの?」
「それは……」
「俺は、お前らが好きなの! 恋愛とかそういうの全部、すっ飛ばして、お前ら二人と一緒にいたいの!」
望陽の言葉にギュッと胸が詰まる。だったら、なおさら、僕たちが付き合うわけにはいかないのではないか。風太も同じ考えに至ったのか、確かめるように一度、僕を見た。
「じゃあ、やっぱり俺が多日登と付き合っちゃったら……その……」
それに望陽は「くぁあああ」と、動物的な呻き声を上げて天を仰いだ。
「お前ら、俺がなんのために当て馬になったと思ってんだ」
「あ、当て馬?」
知らない単語に僕は思わず首をかしげた。
「や、好きでなったわけじゃないよ、結果的にそうなっただけだけれどもっ!」
「当て馬?」
風太も知らない単語らしい。キョトンとする僕たちの顔を望陽が苛立った様子で交互に見た。
「あのね、多分、俺は多日登と付き合ったとしても、一生風太のことが頭に浮かぶだろうし、俺に気ぃ遣って、二人が付き合わないとかなるのも、一生引きずると思う!」
「え、じゃあ、どうすればいいの?」
「知らねぇよ! でも少なくとも、俺は一番近くでお前らを祝福するし、その傍でお前らよりも幸せになってやるってのを、見せつけたいよ」
「……ちょ、やめて、いいやつすぎるだろ」
「いいやつじゃねぇよ! 多日登と百回キスしないと気付けなかったんだから!」
「それも、やめて、俺に効く……」
「百回は盛りすぎ」
僕は膝を抱えた。望陽の気持ちが嬉しいのはもちろんあるが、安直に自分がいなくなれば――なんて逃げに走ろうとしていたことを恥じた。
「じゃあ、今まで通りでいいってことね?」
風太が照れたような顔を隠すようにふいっと顔を背けた。
「まあ、今まで通りってわけじゃないかもしんないけど」
「いや、今まで通り、多日登を笑わせる勝負は継続」
「は?」
望陽と僕の声が重なった。なんで、そうなるんだろう。
「いや、それは違――」
望陽の言葉を風太が手で制する。
「もちろん、もう賞品はなし。笑わせたら付き合うとかじゃなく、それに、笑わせたら終わりでもなく、何度でも何回でも多日登を笑わせるために張り合ってはいきたい」
その言葉に望陽が、ハッとしたように目を見開いた。
「そうだった。俺たちのきっかけって――」
望陽と風太が僕を見る。
そういえば言っていたな。中等部のレクの時に、全然笑わなかった僕を笑わせてやりたいって思ったのがきっかけかもしれないって――
僕は急に照れくささが込み上げてきて、膝に顔を埋めた。
「じゃあ、これからまた三人でやれるってこと?」
「俺はそうしたいけど」
そこで二人の会話は途切れた。そっと顔を上げると、望陽と風太が僕を見ていた。
「え、僕?」
望陽と風太がうんうん頷いた。
「え……だって、僕のせいで、その……それに、僕なんかが――」
言い淀む僕に望陽が大きなため息をついた。
「また、僕なんかって始まった」
「僕が抜ければ――みたいなろくでもないこと考えてると思った」
風太も続く。
図星をつかれて、僕は膝を抱いた腕に力を込めて、更に縮こまった。
「……いいの?」
僕が上目遣いで二人の表情を窺った。
「前も言ったけど、多日登がいなかったら、俺ら未だにステージにも立ててなかった」
望陽の言葉に、風太も頷いた。
「俺は、三人でやりたい。できれば、この先も……」
風太はその先に続く言葉を飲み込んだようだった。それが気になりはしたが――
「ありがとう。僕も、二人と一緒にやりたい」
「よしっ!」
望陽が元気な声を上げた。
「今日から、またスキップイソップ再始動だ!」
「おー」
風太が棒読みで拳を上げるのを見て、僕も「おー」と遠慮がちに拳を上げた。
その瞬間、壁付けのスピーカーから帰宅を促すアナウンスが流れた。
僕は、泣き疲れて、くたっと壁にもたれていた。
「じゃあ、俺は多日登が、もう少し回復したら送っていくけど、望陽はどうする?」
「じゃあ、待ってる間、ネタ合わせする?」
「え、あ、じゃあ、さっきの続きから」
二人は並んで先ほどの続きから、ネタの確認を始めた。僕はその様子をただぼんやりと見ていた。
ああ、良かった。スキップイソップは元通りだ。また、僕のせいで壊れかけた。
そう思うと、やっぱり、僕はこれ以上、ここにいるべきではないのかもしれないという思いが湧いてくるのだった。
もし、風太が僕を許してくれて、付き合うことが出来たらなおさら――
「ところで、風太と多日登は付き合ったことになったの?」
あまりに唐突に望陽がそんなことを言い出した。風太が少しバツが悪そうに、僕をちらりと見る。
「え、あ……それは、まだ、ちゃんと話し合いたい」
「うぇっ!? なんで!? 好き同士なのに?」
「でも……」
「…………え、もしかして、俺のこと気にしてる!?」
「そりゃあ、気にするだろ!?」
「なんで!?」
「気まずいだろ」
「誰が?」
「望陽が!」
「えー、なにそれ、めんどくせぇ」
望陽がうんざりしたように大きく仰け反った。バネみたいにビヨンっと上体を戻した反動で「あのさー」と、風太に詰め寄った。
「俺がなんのために身を引いたと思ってんの?」
「それは……」
「俺は、お前らが好きなの! 恋愛とかそういうの全部、すっ飛ばして、お前ら二人と一緒にいたいの!」
望陽の言葉にギュッと胸が詰まる。だったら、なおさら、僕たちが付き合うわけにはいかないのではないか。風太も同じ考えに至ったのか、確かめるように一度、僕を見た。
「じゃあ、やっぱり俺が多日登と付き合っちゃったら……その……」
それに望陽は「くぁあああ」と、動物的な呻き声を上げて天を仰いだ。
「お前ら、俺がなんのために当て馬になったと思ってんだ」
「あ、当て馬?」
知らない単語に僕は思わず首をかしげた。
「や、好きでなったわけじゃないよ、結果的にそうなっただけだけれどもっ!」
「当て馬?」
風太も知らない単語らしい。キョトンとする僕たちの顔を望陽が苛立った様子で交互に見た。
「あのね、多分、俺は多日登と付き合ったとしても、一生風太のことが頭に浮かぶだろうし、俺に気ぃ遣って、二人が付き合わないとかなるのも、一生引きずると思う!」
「え、じゃあ、どうすればいいの?」
「知らねぇよ! でも少なくとも、俺は一番近くでお前らを祝福するし、その傍でお前らよりも幸せになってやるってのを、見せつけたいよ」
「……ちょ、やめて、いいやつすぎるだろ」
「いいやつじゃねぇよ! 多日登と百回キスしないと気付けなかったんだから!」
「それも、やめて、俺に効く……」
「百回は盛りすぎ」
僕は膝を抱えた。望陽の気持ちが嬉しいのはもちろんあるが、安直に自分がいなくなれば――なんて逃げに走ろうとしていたことを恥じた。
「じゃあ、今まで通りでいいってことね?」
風太が照れたような顔を隠すようにふいっと顔を背けた。
「まあ、今まで通りってわけじゃないかもしんないけど」
「いや、今まで通り、多日登を笑わせる勝負は継続」
「は?」
望陽と僕の声が重なった。なんで、そうなるんだろう。
「いや、それは違――」
望陽の言葉を風太が手で制する。
「もちろん、もう賞品はなし。笑わせたら付き合うとかじゃなく、それに、笑わせたら終わりでもなく、何度でも何回でも多日登を笑わせるために張り合ってはいきたい」
その言葉に望陽が、ハッとしたように目を見開いた。
「そうだった。俺たちのきっかけって――」
望陽と風太が僕を見る。
そういえば言っていたな。中等部のレクの時に、全然笑わなかった僕を笑わせてやりたいって思ったのがきっかけかもしれないって――
僕は急に照れくささが込み上げてきて、膝に顔を埋めた。
「じゃあ、これからまた三人でやれるってこと?」
「俺はそうしたいけど」
そこで二人の会話は途切れた。そっと顔を上げると、望陽と風太が僕を見ていた。
「え、僕?」
望陽と風太がうんうん頷いた。
「え……だって、僕のせいで、その……それに、僕なんかが――」
言い淀む僕に望陽が大きなため息をついた。
「また、僕なんかって始まった」
「僕が抜ければ――みたいなろくでもないこと考えてると思った」
風太も続く。
図星をつかれて、僕は膝を抱いた腕に力を込めて、更に縮こまった。
「……いいの?」
僕が上目遣いで二人の表情を窺った。
「前も言ったけど、多日登がいなかったら、俺ら未だにステージにも立ててなかった」
望陽の言葉に、風太も頷いた。
「俺は、三人でやりたい。できれば、この先も……」
風太はその先に続く言葉を飲み込んだようだった。それが気になりはしたが――
「ありがとう。僕も、二人と一緒にやりたい」
「よしっ!」
望陽が元気な声を上げた。
「今日から、またスキップイソップ再始動だ!」
「おー」
風太が棒読みで拳を上げるのを見て、僕も「おー」と遠慮がちに拳を上げた。
その瞬間、壁付けのスピーカーから帰宅を促すアナウンスが流れた。
