「結局は三人でいることが好きだったんだよな……」
僕も頷く。
「そうなんだよ、僕もこんな賭けに乗ったのって結局、二人と一緒にいたかったからなんだ」
「え、じゃあ、いやいやだったの?」
「それは違うよ。だって、僕も賭けを利用してたとこあるもん」
「黒っ……そんな人だと思わなかった、別れてくれる?」
「うん。別れよう」
こうして、三十分にも満たない望陽とのお付き合いは、あっけなく終わった。僕は、むしろ晴れやかな気持ちだった。
望陽を見る。その顔も、どこか吹っ切れたように見えた。しかし、本心はわからない。
ここで「本当に?」と掘り返すのも、野暮な気がした。
「さてと、風太を迎えに行くか」
僕を抱き上げるようにして、膝の上から下ろすと、望陽は立ち上がり、うーんと上半身を伸ばした。
「僕も――」
一緒に行くと言いかけて伸ばした手を僕はサッと引いた。その手を胸元で握って視線を伏せた。
「どした? 多日登」
望陽が振り返って僕を見る。
「あの……」
僕は少し言い淀んだ。なんと言っていいかわからない。
「いや、あの、風太、きっと怒ってるよね?」
僕の言葉に望陽がきょとんとした顔をした。
「あー、まあ、怒ってるというか、凹んでると思う」
「だ、だよね……」
「っていうかさ、多日登はどうしたいの?」
「え……」
「風太と付き合いたいの?」
「え、だって、今さら……」
「じゃあ、もう一回俺とチュウしてよ」
「えっ!! いや、別れたんだししないよ」
「でも、できなくない?」
「できなくは、ないかも?」
「はぁ……そこ多日登のバグってるとこだよねぇ……じゃあ、今から風太とキスするって考えたら?」
言われた瞬間、胸がボンッと跳ねた。顔が一気に赤くなる。
「ほら、もう答え出てんじゃん」
「……望陽、ごめん」
「や、ガチで謝らないで、悲しくなる……」
「ごめ……あ」
「もう、いいっていいって、とにかく一緒に風太探しに行こう!」
「うん」
僕は、差し出された望陽の手を取った。
風太は本校舎の裏側、グラウンドに続く外階段にいた。
「なんでこの場所わかった?」
ぶっきらぼうに言うが、目尻が少し赤くなっていた。それを確認した瞬間、僕の目からドバッと涙が流れた。
「えっ!」
「えっ!」
望陽も風太もドン引きしていた。そりゃあ、そうだろう、最初からフルスロットルの号泣なんだから。
それでも、涙は滝のように止まらなかった。まるで漫画だ。
「ごめ、ん……風太ぁあ。僕、ずっと風太が好きだったみたいぃ……」
「は?」
「えっ?」
涙と一緒に言葉も止まらなかった。今まで抑えていたものとか、不安だとかが一気に押し寄せてくる。
「み、望陽、と……キスして」
「えっ!?」
その言葉に、風太の肩がビクッと跳ねた。しかし、構っていられない。
「風太のこと、好き、す、好きだって、わかった……な、なのに、ぼ、僕、ゆ、優柔、不断っで……考えすぎ、て、なんか、変な方にい、いっちゃって……」
「落ち着け落ち着け」
望陽が僕の背中をさする。
「み、望陽、と、付き合って、い、いっぱい、キス、し、ちゃった」
――ガンッ
外階段のコンクリートの腰壁に風太が頭を打ち付けた鈍い音がした。
「や、何しに来たんだよ……俺にダメージ与えに来たのかよ」
「ち、違っ、ぼ、僕、風太が好き……風太が、好きなの……でも、もう、遅いよね……ごめんね。風太……ごめんね……望陽」
グズグズと泣きすぎて、もう言葉にもならない僕の肩を、望陽が支えるように抱いた。そして、やさしく誘導するように、風太の横まで連れて行ってくれる。
「だってさ」
望陽が優しく言って、僕の肩から手を離した。風太は「あー、もう!」と、くしゃくしゃと頭を掻いた。それから、思いっきり僕を引き寄せて、胸に抱いた。
「ガチで複雑だけど、ガチ嬉しい――」
「うぅぅぅ~」
僕はもう呻くことしかできなかった。風太の胸に抱かれて、しゃくりあげながら、とにかく泣いた。そんな僕の頭を風太は優しく撫でてくれた。
望陽と風太は、しばらく僕が泣き止むのを待ってくれていた。だが、一向に泣き止まない僕を見かねたらしく、風太が僕と一緒にその場に座り込んだ。自分の胸に僕の背中を預けさせてから、望陽に顔を向けた。
「っていうか、お前ら付き合ったんじゃないの?」
「うん。付き合ったよ」
「じゃあ、なにこの茶番……」
「いや、もう別れた」
「早っ!」
「あー、まあ、怒らないで聞いて欲しいんだけど――」
望陽の前振りに、風太の身体が少しだけ強張った。
「あの……多日登と百回くらいキスしてて、俺気付いたんだよね」
「ひゃっ……!!」
「うぅ……百回……盛りすぎ……二、いや、三十回ぐらい」
「そ、それでも三十……」
風太がガクッと項垂れたせいで、後頭部に風太のおでこが当たった。
「いてっ」
「だから、ちょっと怒らないで聞いてって」
「怒ってない……凹んでる」
「ごめんて」
「いいから、早く続けて」
「だから、多日登とキスしてるうちに、俺も気付いたんだよ」
「何がだよ」
「多日登のことは好きだけど、それに負けないくらいお前のことが好きだって」
「…………え」
風太の声は機械音声のように無機質だった。短い沈黙が下りる。
「……えっ?」
次にそう漏らしたのは望陽だった。どうやら、自分の失言に気付いたらしい。
「や、違う違う! ダチとして!! 相方として!!」
「あ、あぁ、あー、そうだよねっ!」
望陽だけじゃなく、なぜか風太も異様に慌てていた。
「で、多日登は――そうだな。風太とは違って、ぶっちゃけえっち目線でも本気で好きだった。だけど、それより、相方――や、多日登は相方ではないけど、仲間として大切にしたいって方が勝っちゃったんだよね」
少し照れくさそうに、望陽は耳の後ろの髪を指でせわしなく梳いた。
風太が深いため息をついてまた項垂れる。僕のこめかみにおでこが当たった。
「いてっ」
「本当に、お前ってズルいよな~」
風太が望陽を睨んだ。それは、少し拗ねたような視線だった。
「なんで?」
「だって、多日登なんてチョロいから、なんだかんだ押し切ったら物に出来たんじゃないの?」
「あーね」
「ちょっと! 本人いるんですけど!」
今のディスりで、すっかり涙は引っ込んだ。
「冗談冗談」
風太はそう言って笑ったが、冗談にしても少し刺があるように感じた。まあ、しょうがないか。
ついさっきまで相方を選んで、キスしてたやつが、コロッと態度を変えて「好きだ」と言ってきても、信じられるはずがない。
そう思うと、また泣けてきた。
「……言い訳させて欲しい」
鼻を啜りながら、僕は情けなく眉尻も目尻もヘロっと垂らした。
「どうぞ」
なんとも言えない様子の風太に代わって、望陽が承諾してくれた。
「確かに、僕はチョロい。最初は風太のことが気になってたくせに、自分の中で色んな言い訳して、その気持ちに向き合わなかった」
「うん……まあ、それはわからないでもない」
「そのうち望陽に触れられたりして、なんだか望陽のことも好きかもって揺れて、本当にチョロい……だから、今更なのは分かってる」
「うんうん。チョロくて参っちゃうよ」
風太が頷きながら、首を下げた。落ちてきた影に、何気なく顎を上げて振り向くと、ふんわりと風太の唇が重なった。
「はっ!?」
思わず声を上げたのは望陽だった。
「いやいやいやいや! 目の前でいきなり何やってんだよ!」
「うるせぇ! お前、さっき三十回もしたんだろ!!」
「だからって、俺がいる前ですんなよ!」
「当てつけだ! バカっ!!」
え、風太との実質的ファーストキス、望陽への当てつけ? そんなのあり!?
そう思いながらも、僕の顔は今にも火を吹きそうなくらいボボボボと熱くなっていた。
「で、好きな人とのキスはどうですか?」
心底どうでも良さそうな口調の望陽に僕は視線だけを向けた。
「あ、あの……ぜぜぜ、なんか全然違う……今、心臓が爆発しそうです!」
僕が言い終わるが早いか、望陽は額を手のひらで押さえて項垂れた。
「エグイって、ガチで傷つく」
僕も頷く。
「そうなんだよ、僕もこんな賭けに乗ったのって結局、二人と一緒にいたかったからなんだ」
「え、じゃあ、いやいやだったの?」
「それは違うよ。だって、僕も賭けを利用してたとこあるもん」
「黒っ……そんな人だと思わなかった、別れてくれる?」
「うん。別れよう」
こうして、三十分にも満たない望陽とのお付き合いは、あっけなく終わった。僕は、むしろ晴れやかな気持ちだった。
望陽を見る。その顔も、どこか吹っ切れたように見えた。しかし、本心はわからない。
ここで「本当に?」と掘り返すのも、野暮な気がした。
「さてと、風太を迎えに行くか」
僕を抱き上げるようにして、膝の上から下ろすと、望陽は立ち上がり、うーんと上半身を伸ばした。
「僕も――」
一緒に行くと言いかけて伸ばした手を僕はサッと引いた。その手を胸元で握って視線を伏せた。
「どした? 多日登」
望陽が振り返って僕を見る。
「あの……」
僕は少し言い淀んだ。なんと言っていいかわからない。
「いや、あの、風太、きっと怒ってるよね?」
僕の言葉に望陽がきょとんとした顔をした。
「あー、まあ、怒ってるというか、凹んでると思う」
「だ、だよね……」
「っていうかさ、多日登はどうしたいの?」
「え……」
「風太と付き合いたいの?」
「え、だって、今さら……」
「じゃあ、もう一回俺とチュウしてよ」
「えっ!! いや、別れたんだししないよ」
「でも、できなくない?」
「できなくは、ないかも?」
「はぁ……そこ多日登のバグってるとこだよねぇ……じゃあ、今から風太とキスするって考えたら?」
言われた瞬間、胸がボンッと跳ねた。顔が一気に赤くなる。
「ほら、もう答え出てんじゃん」
「……望陽、ごめん」
「や、ガチで謝らないで、悲しくなる……」
「ごめ……あ」
「もう、いいっていいって、とにかく一緒に風太探しに行こう!」
「うん」
僕は、差し出された望陽の手を取った。
風太は本校舎の裏側、グラウンドに続く外階段にいた。
「なんでこの場所わかった?」
ぶっきらぼうに言うが、目尻が少し赤くなっていた。それを確認した瞬間、僕の目からドバッと涙が流れた。
「えっ!」
「えっ!」
望陽も風太もドン引きしていた。そりゃあ、そうだろう、最初からフルスロットルの号泣なんだから。
それでも、涙は滝のように止まらなかった。まるで漫画だ。
「ごめ、ん……風太ぁあ。僕、ずっと風太が好きだったみたいぃ……」
「は?」
「えっ?」
涙と一緒に言葉も止まらなかった。今まで抑えていたものとか、不安だとかが一気に押し寄せてくる。
「み、望陽、と……キスして」
「えっ!?」
その言葉に、風太の肩がビクッと跳ねた。しかし、構っていられない。
「風太のこと、好き、す、好きだって、わかった……な、なのに、ぼ、僕、ゆ、優柔、不断っで……考えすぎ、て、なんか、変な方にい、いっちゃって……」
「落ち着け落ち着け」
望陽が僕の背中をさする。
「み、望陽、と、付き合って、い、いっぱい、キス、し、ちゃった」
――ガンッ
外階段のコンクリートの腰壁に風太が頭を打ち付けた鈍い音がした。
「や、何しに来たんだよ……俺にダメージ与えに来たのかよ」
「ち、違っ、ぼ、僕、風太が好き……風太が、好きなの……でも、もう、遅いよね……ごめんね。風太……ごめんね……望陽」
グズグズと泣きすぎて、もう言葉にもならない僕の肩を、望陽が支えるように抱いた。そして、やさしく誘導するように、風太の横まで連れて行ってくれる。
「だってさ」
望陽が優しく言って、僕の肩から手を離した。風太は「あー、もう!」と、くしゃくしゃと頭を掻いた。それから、思いっきり僕を引き寄せて、胸に抱いた。
「ガチで複雑だけど、ガチ嬉しい――」
「うぅぅぅ~」
僕はもう呻くことしかできなかった。風太の胸に抱かれて、しゃくりあげながら、とにかく泣いた。そんな僕の頭を風太は優しく撫でてくれた。
望陽と風太は、しばらく僕が泣き止むのを待ってくれていた。だが、一向に泣き止まない僕を見かねたらしく、風太が僕と一緒にその場に座り込んだ。自分の胸に僕の背中を預けさせてから、望陽に顔を向けた。
「っていうか、お前ら付き合ったんじゃないの?」
「うん。付き合ったよ」
「じゃあ、なにこの茶番……」
「いや、もう別れた」
「早っ!」
「あー、まあ、怒らないで聞いて欲しいんだけど――」
望陽の前振りに、風太の身体が少しだけ強張った。
「あの……多日登と百回くらいキスしてて、俺気付いたんだよね」
「ひゃっ……!!」
「うぅ……百回……盛りすぎ……二、いや、三十回ぐらい」
「そ、それでも三十……」
風太がガクッと項垂れたせいで、後頭部に風太のおでこが当たった。
「いてっ」
「だから、ちょっと怒らないで聞いてって」
「怒ってない……凹んでる」
「ごめんて」
「いいから、早く続けて」
「だから、多日登とキスしてるうちに、俺も気付いたんだよ」
「何がだよ」
「多日登のことは好きだけど、それに負けないくらいお前のことが好きだって」
「…………え」
風太の声は機械音声のように無機質だった。短い沈黙が下りる。
「……えっ?」
次にそう漏らしたのは望陽だった。どうやら、自分の失言に気付いたらしい。
「や、違う違う! ダチとして!! 相方として!!」
「あ、あぁ、あー、そうだよねっ!」
望陽だけじゃなく、なぜか風太も異様に慌てていた。
「で、多日登は――そうだな。風太とは違って、ぶっちゃけえっち目線でも本気で好きだった。だけど、それより、相方――や、多日登は相方ではないけど、仲間として大切にしたいって方が勝っちゃったんだよね」
少し照れくさそうに、望陽は耳の後ろの髪を指でせわしなく梳いた。
風太が深いため息をついてまた項垂れる。僕のこめかみにおでこが当たった。
「いてっ」
「本当に、お前ってズルいよな~」
風太が望陽を睨んだ。それは、少し拗ねたような視線だった。
「なんで?」
「だって、多日登なんてチョロいから、なんだかんだ押し切ったら物に出来たんじゃないの?」
「あーね」
「ちょっと! 本人いるんですけど!」
今のディスりで、すっかり涙は引っ込んだ。
「冗談冗談」
風太はそう言って笑ったが、冗談にしても少し刺があるように感じた。まあ、しょうがないか。
ついさっきまで相方を選んで、キスしてたやつが、コロッと態度を変えて「好きだ」と言ってきても、信じられるはずがない。
そう思うと、また泣けてきた。
「……言い訳させて欲しい」
鼻を啜りながら、僕は情けなく眉尻も目尻もヘロっと垂らした。
「どうぞ」
なんとも言えない様子の風太に代わって、望陽が承諾してくれた。
「確かに、僕はチョロい。最初は風太のことが気になってたくせに、自分の中で色んな言い訳して、その気持ちに向き合わなかった」
「うん……まあ、それはわからないでもない」
「そのうち望陽に触れられたりして、なんだか望陽のことも好きかもって揺れて、本当にチョロい……だから、今更なのは分かってる」
「うんうん。チョロくて参っちゃうよ」
風太が頷きながら、首を下げた。落ちてきた影に、何気なく顎を上げて振り向くと、ふんわりと風太の唇が重なった。
「はっ!?」
思わず声を上げたのは望陽だった。
「いやいやいやいや! 目の前でいきなり何やってんだよ!」
「うるせぇ! お前、さっき三十回もしたんだろ!!」
「だからって、俺がいる前ですんなよ!」
「当てつけだ! バカっ!!」
え、風太との実質的ファーストキス、望陽への当てつけ? そんなのあり!?
そう思いながらも、僕の顔は今にも火を吹きそうなくらいボボボボと熱くなっていた。
「で、好きな人とのキスはどうですか?」
心底どうでも良さそうな口調の望陽に僕は視線だけを向けた。
「あ、あの……ぜぜぜ、なんか全然違う……今、心臓が爆発しそうです!」
僕が言い終わるが早いか、望陽は額を手のひらで押さえて項垂れた。
「エグイって、ガチで傷つく」
