あっという間に修学旅行の当日が来た。
一日目は寝台車を体験した。閉鎖空間が割と好きな僕は、寝台のカーテンを早々に閉めて一人で興奮していた。
あの日、僕が先走って彼女がどうのという話をしてしまったので、椎名くんたちから言われたことと、その上で僕が思ったことを全て白状させられた。
望陽は、
「は? 余計なことすんなよ」
とぷりぷり怒っていた。
風太は、
「でも、それは多日登の意思だから――」
と言ったきり、言葉を続けなかった。
少し考えるような間があってから、急に怒ったような顔を上げた。
「ヤダ! 絶対ヤダ!」
風太には珍しく、大きな声を出して、僕の肩をガッと掴んだ。
「女の子なんて紹介してもらわないで!」
「え、紹介されても……僕は」
「いや、紹介されるのも嫌! 絶対断ってね」
いつもは望陽が言うようなことを、風太が真剣な顔で言ってきたので、僕は思わず赤面した。
そのことを思い出すと、今でも顔が熱くなる。
「いや、僕はてっきり、二人が修学旅行前に告白されたり、いい感じの人ができたのかと――」
そう言うと、望陽も風太も物凄い顔で、否定した。
「なんでわからないの?」
「よくそんなことが平気で言えるな」
などと、説教をくらってしまったくらいだ。
それから、三人で謝り合い、気持ちを切り替えて、スキップイソップの活動を頑張ろうという話になった。
実は僕には次の計画があった。
スキップイソップ育成計画にも書いているので、特にもったいぶるようなことはないのだけれど、さすがにその場では言い出せなかった。
修学旅行が終わったら再始動する。それが楽しみで、むしろ、修学旅行が早く終われとさえ思っていた。
修学旅行はスケジュール通り、滞りなく進んでいた。望陽と風太とはクラスが違うので、日程中、顔を合わせることはなかった。
二日目の自由行動は班で回った。みんなが彼女と過ごすのは、三日目の終日自由行動と決めていた。
磯山くん、椎名くん、小鳥遊くんと、それなりに楽しく過ごすが、途中で磯山くんの彼女たちと自然と合流し、合コンみたいになってしまったのは、多少辟易した。
「えー、多日登、前髪切りなよ」
「伸ばしてるの? せめてウルフとかにしたら、もっとイケメンになるのに」
などと、女子の遠慮のないボディタッチにひたすら困惑するばかりだった。
ホテルに戻ると、望陽と風太からメッセージが届いていた。
『明日、どの辺回るの?』
と望陽。
『女子と一緒に回ってた?』
と風太。
風太のメッセージからはなんだか圧のようなものを感じた。
三日目は朝から自由行動だった。予定通り、駅で別れ、待ち合わせ時間を確認する。
「多日登、本当にいいの? 良かったら、俺らと回る?」
磯山くんがそう気を遣ってくれたが、僕は丁重にお断りした。
一人でゆっくり見たいところもあったし、家族へのお土産も誰かの目を気にせず選びたかった。だから、むしろ好都合なのだが、三人はどこか申し訳なさそうだった。
三人を見送ってから、僕はフンスと鼻息荒く、スマホの、自分用の予定を書き込んだメモ帳を開いた時だった。
「多日登!」
後ろから声をかけられた。
振り向くと、望陽が息を切らせて駆けてきた。呆気にとられる僕の前まで来ると、望陽は大きく息を吐いた。
「はぁー、良かった。見つけられて!」
そう言うと、へらっと笑う。
「え、望陽、どうしたの?」
「多日登、行こ!」
困惑する僕の手を、望陽が引いた。
「えっ」
――これって、規約違反なのでは?
咄嗟にそう思って、脚がその場から動かなくなった。結果、軽く抵抗するようになってしまった僕に振り返り、望陽は少し困ったように眉を下げた。
「ダメ……? 今日だけ、お願い」
――ダメ? と言われても、僕が決めていいものだろうか。
風太の顔が浮かぶ。
答えられずにいる僕に、望陽が留守番を命じられた大型犬のような視線を向けてきた。
「今日は、スキップイソップも全部なしで、普通の高校二年生として多日登と過ごしたい。お願い」
そんな顔をされたら弱い。でも、これだけは言っておかなくてはならなかった。
「抜け駆けになるんじゃないの?」
言ってみて、なんだか自分が随分お高く留まっているみたいで恥ずかしかった。
「うん、わかってる。でも、お願い。今日だけ。風太に言ってもいいし、減点してくれてもいいし――でも、今日だけは休戦で、お願い」
そんな顔で何度もお願いと言われて、断ることはできなかった。僕は頷いた。
「よっしゃっ!」
望陽は軽く飛び上がり、握っていた手を、指を絡めるように握り直した。僕は耳まで赤くなるのを感じていた。
ふと見ると、少しだけ前を歩く、望陽の耳も赤くなっていた。
一日目は寝台車を体験した。閉鎖空間が割と好きな僕は、寝台のカーテンを早々に閉めて一人で興奮していた。
あの日、僕が先走って彼女がどうのという話をしてしまったので、椎名くんたちから言われたことと、その上で僕が思ったことを全て白状させられた。
望陽は、
「は? 余計なことすんなよ」
とぷりぷり怒っていた。
風太は、
「でも、それは多日登の意思だから――」
と言ったきり、言葉を続けなかった。
少し考えるような間があってから、急に怒ったような顔を上げた。
「ヤダ! 絶対ヤダ!」
風太には珍しく、大きな声を出して、僕の肩をガッと掴んだ。
「女の子なんて紹介してもらわないで!」
「え、紹介されても……僕は」
「いや、紹介されるのも嫌! 絶対断ってね」
いつもは望陽が言うようなことを、風太が真剣な顔で言ってきたので、僕は思わず赤面した。
そのことを思い出すと、今でも顔が熱くなる。
「いや、僕はてっきり、二人が修学旅行前に告白されたり、いい感じの人ができたのかと――」
そう言うと、望陽も風太も物凄い顔で、否定した。
「なんでわからないの?」
「よくそんなことが平気で言えるな」
などと、説教をくらってしまったくらいだ。
それから、三人で謝り合い、気持ちを切り替えて、スキップイソップの活動を頑張ろうという話になった。
実は僕には次の計画があった。
スキップイソップ育成計画にも書いているので、特にもったいぶるようなことはないのだけれど、さすがにその場では言い出せなかった。
修学旅行が終わったら再始動する。それが楽しみで、むしろ、修学旅行が早く終われとさえ思っていた。
修学旅行はスケジュール通り、滞りなく進んでいた。望陽と風太とはクラスが違うので、日程中、顔を合わせることはなかった。
二日目の自由行動は班で回った。みんなが彼女と過ごすのは、三日目の終日自由行動と決めていた。
磯山くん、椎名くん、小鳥遊くんと、それなりに楽しく過ごすが、途中で磯山くんの彼女たちと自然と合流し、合コンみたいになってしまったのは、多少辟易した。
「えー、多日登、前髪切りなよ」
「伸ばしてるの? せめてウルフとかにしたら、もっとイケメンになるのに」
などと、女子の遠慮のないボディタッチにひたすら困惑するばかりだった。
ホテルに戻ると、望陽と風太からメッセージが届いていた。
『明日、どの辺回るの?』
と望陽。
『女子と一緒に回ってた?』
と風太。
風太のメッセージからはなんだか圧のようなものを感じた。
三日目は朝から自由行動だった。予定通り、駅で別れ、待ち合わせ時間を確認する。
「多日登、本当にいいの? 良かったら、俺らと回る?」
磯山くんがそう気を遣ってくれたが、僕は丁重にお断りした。
一人でゆっくり見たいところもあったし、家族へのお土産も誰かの目を気にせず選びたかった。だから、むしろ好都合なのだが、三人はどこか申し訳なさそうだった。
三人を見送ってから、僕はフンスと鼻息荒く、スマホの、自分用の予定を書き込んだメモ帳を開いた時だった。
「多日登!」
後ろから声をかけられた。
振り向くと、望陽が息を切らせて駆けてきた。呆気にとられる僕の前まで来ると、望陽は大きく息を吐いた。
「はぁー、良かった。見つけられて!」
そう言うと、へらっと笑う。
「え、望陽、どうしたの?」
「多日登、行こ!」
困惑する僕の手を、望陽が引いた。
「えっ」
――これって、規約違反なのでは?
咄嗟にそう思って、脚がその場から動かなくなった。結果、軽く抵抗するようになってしまった僕に振り返り、望陽は少し困ったように眉を下げた。
「ダメ……? 今日だけ、お願い」
――ダメ? と言われても、僕が決めていいものだろうか。
風太の顔が浮かぶ。
答えられずにいる僕に、望陽が留守番を命じられた大型犬のような視線を向けてきた。
「今日は、スキップイソップも全部なしで、普通の高校二年生として多日登と過ごしたい。お願い」
そんな顔をされたら弱い。でも、これだけは言っておかなくてはならなかった。
「抜け駆けになるんじゃないの?」
言ってみて、なんだか自分が随分お高く留まっているみたいで恥ずかしかった。
「うん、わかってる。でも、お願い。今日だけ。風太に言ってもいいし、減点してくれてもいいし――でも、今日だけは休戦で、お願い」
そんな顔で何度もお願いと言われて、断ることはできなかった。僕は頷いた。
「よっしゃっ!」
望陽は軽く飛び上がり、握っていた手を、指を絡めるように握り直した。僕は耳まで赤くなるのを感じていた。
ふと見ると、少しだけ前を歩く、望陽の耳も赤くなっていた。
