結局、あの後、真剣な話し合いになってしまい、望陽と風太の意見も合わせて、僕のキスと恋人権争奪戦のルールが確定してしまった。
まず、前提条件はスキップイソップの活動中であることと、三人が揃っている場であること。これは絶対だった。
まあ、そこまでは僕の提案に含まれてるからいい。ただ、そのネタ中という条件からは割と広がってしまった。
活動中で三人がいれば、ネタ出し、稽古、撮影、反省会、いつでもOK。更に、ギャグや、アドリブ、動きなど方法も自由。
まあ、わざとらしく笑わせてやるぞみたいな雰囲気を感じた時点で、僕は絶対笑わない自信があるのでそれは、まあ、いいとしよう。
少しだけ嬉しかったのは、二人が、
「苦笑とか、呆れ笑いじゃなくて、本当に面白くて自然と笑いが漏れた時に限る」
と言ってくれたことだった。
それだけで、なんだか、口元が綻びそうになった。危ない危ない……
ここは気を引き締めなければならない。
「ただし、これだけは約束して。もし、僕のせいで漫才が壊れたり、僕をいいわけに好きなお笑いができなかったなんて言ったら、その時点で僕は抜ける。勝負も終わり。いいよね?」
二人の顔を真っすぐ見ながら、僕は最後にこう言った。
僕の決意にも似た表明を受け取って、二人は爽やかに笑って頷いた。
これで、一応は一件落着かな? と思っていたら、まだ、二人は真剣な顔を見合わせている。
「あと、抜け駆けなし」
「抜け駆けって?」
風太の言葉に、望陽は軽く顎を上げた。僕は少しだけ冷や冷やしながらその様子を見守っていた。
「触ったり、口説いたり、口以外でもキスはなし」
「いや、普通に友達同士のスキンシップじゃん」
「もう、意味が違う。なしっ」
「じゃあ、二人きり自体なし!」
「そこまで?」
「我慢できる自信ない」
「お前が!?」
どうやら、二人の間での約束も決まったらしい。そこでようやくこの話は一旦収束となった。
なんで、僕なんかがいいのか――それはずっと謎だが。望陽と風太なら、いくらでもモテるだろう。もし、本来の恋愛対象が女性なら、何故、男の――ましてや、僕みたいなやつを好きになったりするんだろう。
今回も何度となくしてきた自問で締めくくろうとしていた時、ふとある思いが頭に浮かんだ。
もし、どちらかが本当に好みの子に告白されたら? 恋人ができたら? どちらかが降りるといったら?
この関係は終わってしまうのだろうか?
いつものパソコン教室。いつもの席。三人で色々と議論している中で、影が集まるように望陽の膝に女の子が現れる。顔は影のように黒いままだったけれど、巻き毛で、派手な印象の女の子だった。
ふと、風太を見ると、その横にも女の子が座っている。同じく顔はない。黒髪ストレートの清楚な印象の子だった。風太の手はさりげなく彼女の腰に置かれていた。
二人とも、もう僕を見ていなかった。
「――と? 多日登!?」
声にハッとして、顔を上げた。見ると、望陽の顔が間近にあった。その目は心配そうに僕を見つめていた。
「おいっ! 近い!」
「触ってない! 口説いてない! キスしようとしてない!」
「ダメ! ちゃんとパーソナルスペースは守れ!」
「もー、うるせぇなぁ。多日登、なんか顔色悪いんだけど!?」
「えっ」
風太も慌てて駆け寄って来た。
「大丈夫? 熱中症とかじゃない?」
風太の手が首元に触れた。
「あ……」
「あっ! ズル! 規約違反!」
小さく呻いた、僕の横で、望陽がぎゃあぎゃあ騒ぐ。
「これは確認作業だから――」
呆れる風太の手をそっと外して、僕は、小さく頷いた。
「そうかも……ちょっとだけ横になるね」
そう言って、僕はその場を逃げ出した。
途端に顔がカッと熱くなる。
何を考えているんだ――風太や望陽がいつか僕以外の誰かを見ることになるなんて、ちょっと嫌だななんて――
しかし、このルールはしっかり決めて良かった。
望陽と風太はかなり、お笑いの方に集中してくれるようになった。あの僕をめぐる不毛な言い合いも、最初のうちだけで、それも次第になくなってきた。
「じゃあ、明日は丸々動画撮影に使って、明後日の午前中に発送。施設の最終確認して、翌日帰宅で大丈夫かな?」
僕は初日に二人に渡してドン引きされた、旅のしおりをめくった。
「はーい」
二人も自分用のしおりを確認しつつ、返事をした。望陽も風太も、ドン引きしていた割には、合宿中に書き込みなどもしてくれたりしていて嬉しい。
予定通り、翌日は、動画審査のための動画を撮った。
どうせなら景色のいいところで、と、保養所近くの眺めのいい場所で撮ったりもしたが、肝心の音声が聞こえづらかったりなどもあり、結局、保養所の宴会場のステージで撮ることになった。
動画を確認すると、本命の一本目と予備で撮った二本目も、かなり出来が良かった。
「うわ、やば……俺、結構自信あるかも」
望陽が感慨深そうに、額を押さえた。
正直な感想を言えば、僕もかなり手応えを感じていた。ネタのできもいいし、テンポも間も、練習の成果がよく出ていた。完成度は高いと思う。祭りの方は分からないが、少なくとも地域の小規模コメハイくらいはいけるのではないかと確信を持っていた。
しかし、それを伝えて、もしもの事があった時にどう慰めていいかが、僕にはわからなかった。
だから、頷くだけに留めておいた。
風太も、動画を見て、一度満足そうに顔を綻ばせていたが、その後、一人で二度、三度と動画を見直しているようだった。
時折、首を傾げるような仕草もあった。
僕はそれが気になっていた。
けれど、わざわざ風太だけに理由を聞くのも、今のルールではなんだか抜け駆けのような気がした。かといって、望陽の前で問い詰めるほどのことでもない。
結局、聞けないまま合宿は終わってしまった。
まず、前提条件はスキップイソップの活動中であることと、三人が揃っている場であること。これは絶対だった。
まあ、そこまでは僕の提案に含まれてるからいい。ただ、そのネタ中という条件からは割と広がってしまった。
活動中で三人がいれば、ネタ出し、稽古、撮影、反省会、いつでもOK。更に、ギャグや、アドリブ、動きなど方法も自由。
まあ、わざとらしく笑わせてやるぞみたいな雰囲気を感じた時点で、僕は絶対笑わない自信があるのでそれは、まあ、いいとしよう。
少しだけ嬉しかったのは、二人が、
「苦笑とか、呆れ笑いじゃなくて、本当に面白くて自然と笑いが漏れた時に限る」
と言ってくれたことだった。
それだけで、なんだか、口元が綻びそうになった。危ない危ない……
ここは気を引き締めなければならない。
「ただし、これだけは約束して。もし、僕のせいで漫才が壊れたり、僕をいいわけに好きなお笑いができなかったなんて言ったら、その時点で僕は抜ける。勝負も終わり。いいよね?」
二人の顔を真っすぐ見ながら、僕は最後にこう言った。
僕の決意にも似た表明を受け取って、二人は爽やかに笑って頷いた。
これで、一応は一件落着かな? と思っていたら、まだ、二人は真剣な顔を見合わせている。
「あと、抜け駆けなし」
「抜け駆けって?」
風太の言葉に、望陽は軽く顎を上げた。僕は少しだけ冷や冷やしながらその様子を見守っていた。
「触ったり、口説いたり、口以外でもキスはなし」
「いや、普通に友達同士のスキンシップじゃん」
「もう、意味が違う。なしっ」
「じゃあ、二人きり自体なし!」
「そこまで?」
「我慢できる自信ない」
「お前が!?」
どうやら、二人の間での約束も決まったらしい。そこでようやくこの話は一旦収束となった。
なんで、僕なんかがいいのか――それはずっと謎だが。望陽と風太なら、いくらでもモテるだろう。もし、本来の恋愛対象が女性なら、何故、男の――ましてや、僕みたいなやつを好きになったりするんだろう。
今回も何度となくしてきた自問で締めくくろうとしていた時、ふとある思いが頭に浮かんだ。
もし、どちらかが本当に好みの子に告白されたら? 恋人ができたら? どちらかが降りるといったら?
この関係は終わってしまうのだろうか?
いつものパソコン教室。いつもの席。三人で色々と議論している中で、影が集まるように望陽の膝に女の子が現れる。顔は影のように黒いままだったけれど、巻き毛で、派手な印象の女の子だった。
ふと、風太を見ると、その横にも女の子が座っている。同じく顔はない。黒髪ストレートの清楚な印象の子だった。風太の手はさりげなく彼女の腰に置かれていた。
二人とも、もう僕を見ていなかった。
「――と? 多日登!?」
声にハッとして、顔を上げた。見ると、望陽の顔が間近にあった。その目は心配そうに僕を見つめていた。
「おいっ! 近い!」
「触ってない! 口説いてない! キスしようとしてない!」
「ダメ! ちゃんとパーソナルスペースは守れ!」
「もー、うるせぇなぁ。多日登、なんか顔色悪いんだけど!?」
「えっ」
風太も慌てて駆け寄って来た。
「大丈夫? 熱中症とかじゃない?」
風太の手が首元に触れた。
「あ……」
「あっ! ズル! 規約違反!」
小さく呻いた、僕の横で、望陽がぎゃあぎゃあ騒ぐ。
「これは確認作業だから――」
呆れる風太の手をそっと外して、僕は、小さく頷いた。
「そうかも……ちょっとだけ横になるね」
そう言って、僕はその場を逃げ出した。
途端に顔がカッと熱くなる。
何を考えているんだ――風太や望陽がいつか僕以外の誰かを見ることになるなんて、ちょっと嫌だななんて――
しかし、このルールはしっかり決めて良かった。
望陽と風太はかなり、お笑いの方に集中してくれるようになった。あの僕をめぐる不毛な言い合いも、最初のうちだけで、それも次第になくなってきた。
「じゃあ、明日は丸々動画撮影に使って、明後日の午前中に発送。施設の最終確認して、翌日帰宅で大丈夫かな?」
僕は初日に二人に渡してドン引きされた、旅のしおりをめくった。
「はーい」
二人も自分用のしおりを確認しつつ、返事をした。望陽も風太も、ドン引きしていた割には、合宿中に書き込みなどもしてくれたりしていて嬉しい。
予定通り、翌日は、動画審査のための動画を撮った。
どうせなら景色のいいところで、と、保養所近くの眺めのいい場所で撮ったりもしたが、肝心の音声が聞こえづらかったりなどもあり、結局、保養所の宴会場のステージで撮ることになった。
動画を確認すると、本命の一本目と予備で撮った二本目も、かなり出来が良かった。
「うわ、やば……俺、結構自信あるかも」
望陽が感慨深そうに、額を押さえた。
正直な感想を言えば、僕もかなり手応えを感じていた。ネタのできもいいし、テンポも間も、練習の成果がよく出ていた。完成度は高いと思う。祭りの方は分からないが、少なくとも地域の小規模コメハイくらいはいけるのではないかと確信を持っていた。
しかし、それを伝えて、もしもの事があった時にどう慰めていいかが、僕にはわからなかった。
だから、頷くだけに留めておいた。
風太も、動画を見て、一度満足そうに顔を綻ばせていたが、その後、一人で二度、三度と動画を見直しているようだった。
時折、首を傾げるような仕草もあった。
僕はそれが気になっていた。
けれど、わざわざ風太だけに理由を聞くのも、今のルールではなんだか抜け駆けのような気がした。かといって、望陽の前で問い詰めるほどのことでもない。
結局、聞けないまま合宿は終わってしまった。
