あの日、なぜかその後フワっとした感じでお開きになってしまった。
勝負は継続だけれども、うん。とにかくフワッとしている。
僕としては、僕に構わずお笑いを真剣にやってくれと言いたかったのだが――その中に僕がいるために、モチベーションとして自ら進んで賞品になったのだけれど……冷静になってみれば、本当にとんでもないことを言ってしまったとは思う。
少しでも、僕の意図が伝わっていればいいのだけれど――
お笑いの方はと言えば、予想通りコメハイは支部予選敗退である。僕は結果発表を待たずに帰ってしまったので、担当教諭が録画してくれていた表彰式と講評を、後日見せてもらった。
まずは、時間超過がネックになっていて、前半と後半のネタがガラリと変わることで観客がついていけなくなるというようなことが、指摘されていた。
で、最後に練習量不足とくる。
そりゃあ、そうだ。後半はアドリブなんだから。
審査員は、地元で有名なラジオパーソナリティ、イベント会社の偉い人、本なども出している国語の先生という顔ぶれで、直接お笑いに関わっている人たちではなかった。
だが、講評はかなり的確で、他の組へのものも含め、とても勉強になった。むしろ、直接のお笑い関係者ではないからこそ、高校生だからという色眼鏡なしに、純粋に舞台を見て評価してくれているような印象すらあった。
ちなみに、評価としては努力賞だった。
支部代表となる最優秀賞は僕が最初におもしろいと感じたコンビが選ばれていた。続く佳作には二組が選ばれていた。一組は、僕がもう一組おもしろいと思ったコンビ。もう一組は知らないトリオだったので、おそらく僕が帰った後に出たのだろう。
講評については言うまでもないので、あまり話し合わなかったけれど、スキップイソップ以外で賞を取った組の漫才を、みんなで改めて見た。
どうやら、僕のバカげた提案よりも、そっちの方が二人のやる気に火をつけたらしい。
「うわ、こいつら、面白いな……これで支部予選かよ」
最優秀賞のコンビを見て、風太が唇を噛んだ。
「それよりも、俺、こいつらと同じってことが嫌なんだけど……」
スキップイソップと同じ努力賞に入った数組を見て、望陽は頭を抱えた。
漫才というより、ギャグの連打みたいなコンビがいて、それと同等に扱われたことが一番いやだったらしい。
――いや、お前、それやろうとしてなかったっけ?
とは思ったが、そこは突っ込まなかった。
「なあ、夏休みも集まれるだけ集まろうぜ!」
そう言ったのは風太だった。望陽は、なにを当たり前のことをと言った感じでヘラッと笑う。
「そうしよう! 多日登、夏期講習とかないの?」
そう振られて、僕は「あ」と思う。
「確かに、お母さんには言われたけど……いいかな? まだ、進路のこと考えてないし、って二人は?」
もし、大学受験を目指しているのなら、高校二年生の夏休みというのは、けっこう重要な時期でもあった。僕らの通う、志光学園は進学校でもあり、一応内部進学できる大学もある。それでも、外部だろうが内部だろうが、大学進学を考えている者は夏期講習くらいは受けている印象だった。
「えっ……」
望陽が少し青ざめた様子で声を上げる。
「うそ……俺、もう、親に将来は芸人になるって言っちゃった」
「えっ!?」
僕と風太の声が重なった。
高校二年生の夏頃に明確な進路が決まっていないのは、わが校では多少問題がある。僕も、人のことは言えないのだが、どこかまだ、決めかねていた。
漠然と、短大か専門学校、行けそうなら大学に進学してという道筋は立てていたものの、特にやりたいことなんかはなかったからだ。
「え、え、親御さんなんて?」
僕より焦ってたのは風太だった。
「いや、みーちゃんのやりたいことなら、頑張りなさいって」
「えぇ!!」
「ほら、うち、もう兄ちゃんもお姉ちゃんも公務員だから、俺とかはもうゆるゆる」
「ぐぅ……」
なぜか風太の口から変な声が漏れた。
風太もここで何か言いたいことがあるのだろう。だが、それを上手く言語化できないでいるようだった。
風太が話し出すまでの繋ぎというわけではないが、僕は望陽に目を向けた。
「え、具体的にどう考えてる?」
「養成所とかも考えたんだけど、今はフリーでも動画とかで名前売れたりとかするだろ? それとか調べて、風太と決めたいって思ってた」
「……ぐぅ、お前、勝手に……」
また変な声を出しながらも、風太は眉間に深いシワを寄せて、目もギュッと閉じて何かを嚙み殺していた。
「そっか……でも、そんなすぐ答えなんて出せないよね」
僕は風太をちらりと見た。
風太は珍しく、叱られた大型犬みたいな情けない顔で僕を見返した。
なに、その顔――
「あのさ、じゃあ、とにかく今は次に向けて切り替えていこうよ!」
僕はなるべく元気な声を出した。
「だって、今は実績どころか、舞台にもろくに立ってないんだから、正直望陽の決意も口だけっぽく見えちゃうでしょ?」
「多日登って、本当に辛辣だよな」
ため息をついたのは、望陽ではなく風太だった。
「とりあえず、冬までになんとか場数踏んで、年明けの進路調査までに自分たちで見極めればよくない?」
望陽と風太がいつものキョトンとした顔で僕を見ていた。そのあと、お決まりのように顔を見合わせて頷き合う。
「ああ、そうだな」
「それが、いいかもね」
二人も納得したように見えたが、そこで、望陽の顔に微かな翳りが見えた。
「もしさ……」
そう漏らした望陽の声は少しだけ、怯えているような印象を受けた。
「もし、俺らがガチで芸人目指すって言ったら、多日登も傍にいてくれる?」
今度は、望陽が雨に濡れた子犬のような顔を僕に向けてきた。
僕は答えられない。代わりに、風太が「おいっ」と強めの声を上げた。
「それは……さすがに違うだろ」
「そう、だよね」
望陽も寂しそうに頷いた。
僕はなんて言っていいのか分からなかった。
確かに、三人でいる時間は楽しいし、これからも関わりたいと思う。
でも、僕はスキップイソップではないんだ。
じゃあ、高校を卒業した後、僕は彼らとどう関わればいいのだろう。二人が売れたら? その後は?
自分の進路のことよりも、そんなことばかりが気になった。
勝負は継続だけれども、うん。とにかくフワッとしている。
僕としては、僕に構わずお笑いを真剣にやってくれと言いたかったのだが――その中に僕がいるために、モチベーションとして自ら進んで賞品になったのだけれど……冷静になってみれば、本当にとんでもないことを言ってしまったとは思う。
少しでも、僕の意図が伝わっていればいいのだけれど――
お笑いの方はと言えば、予想通りコメハイは支部予選敗退である。僕は結果発表を待たずに帰ってしまったので、担当教諭が録画してくれていた表彰式と講評を、後日見せてもらった。
まずは、時間超過がネックになっていて、前半と後半のネタがガラリと変わることで観客がついていけなくなるというようなことが、指摘されていた。
で、最後に練習量不足とくる。
そりゃあ、そうだ。後半はアドリブなんだから。
審査員は、地元で有名なラジオパーソナリティ、イベント会社の偉い人、本なども出している国語の先生という顔ぶれで、直接お笑いに関わっている人たちではなかった。
だが、講評はかなり的確で、他の組へのものも含め、とても勉強になった。むしろ、直接のお笑い関係者ではないからこそ、高校生だからという色眼鏡なしに、純粋に舞台を見て評価してくれているような印象すらあった。
ちなみに、評価としては努力賞だった。
支部代表となる最優秀賞は僕が最初におもしろいと感じたコンビが選ばれていた。続く佳作には二組が選ばれていた。一組は、僕がもう一組おもしろいと思ったコンビ。もう一組は知らないトリオだったので、おそらく僕が帰った後に出たのだろう。
講評については言うまでもないので、あまり話し合わなかったけれど、スキップイソップ以外で賞を取った組の漫才を、みんなで改めて見た。
どうやら、僕のバカげた提案よりも、そっちの方が二人のやる気に火をつけたらしい。
「うわ、こいつら、面白いな……これで支部予選かよ」
最優秀賞のコンビを見て、風太が唇を噛んだ。
「それよりも、俺、こいつらと同じってことが嫌なんだけど……」
スキップイソップと同じ努力賞に入った数組を見て、望陽は頭を抱えた。
漫才というより、ギャグの連打みたいなコンビがいて、それと同等に扱われたことが一番いやだったらしい。
――いや、お前、それやろうとしてなかったっけ?
とは思ったが、そこは突っ込まなかった。
「なあ、夏休みも集まれるだけ集まろうぜ!」
そう言ったのは風太だった。望陽は、なにを当たり前のことをと言った感じでヘラッと笑う。
「そうしよう! 多日登、夏期講習とかないの?」
そう振られて、僕は「あ」と思う。
「確かに、お母さんには言われたけど……いいかな? まだ、進路のこと考えてないし、って二人は?」
もし、大学受験を目指しているのなら、高校二年生の夏休みというのは、けっこう重要な時期でもあった。僕らの通う、志光学園は進学校でもあり、一応内部進学できる大学もある。それでも、外部だろうが内部だろうが、大学進学を考えている者は夏期講習くらいは受けている印象だった。
「えっ……」
望陽が少し青ざめた様子で声を上げる。
「うそ……俺、もう、親に将来は芸人になるって言っちゃった」
「えっ!?」
僕と風太の声が重なった。
高校二年生の夏頃に明確な進路が決まっていないのは、わが校では多少問題がある。僕も、人のことは言えないのだが、どこかまだ、決めかねていた。
漠然と、短大か専門学校、行けそうなら大学に進学してという道筋は立てていたものの、特にやりたいことなんかはなかったからだ。
「え、え、親御さんなんて?」
僕より焦ってたのは風太だった。
「いや、みーちゃんのやりたいことなら、頑張りなさいって」
「えぇ!!」
「ほら、うち、もう兄ちゃんもお姉ちゃんも公務員だから、俺とかはもうゆるゆる」
「ぐぅ……」
なぜか風太の口から変な声が漏れた。
風太もここで何か言いたいことがあるのだろう。だが、それを上手く言語化できないでいるようだった。
風太が話し出すまでの繋ぎというわけではないが、僕は望陽に目を向けた。
「え、具体的にどう考えてる?」
「養成所とかも考えたんだけど、今はフリーでも動画とかで名前売れたりとかするだろ? それとか調べて、風太と決めたいって思ってた」
「……ぐぅ、お前、勝手に……」
また変な声を出しながらも、風太は眉間に深いシワを寄せて、目もギュッと閉じて何かを嚙み殺していた。
「そっか……でも、そんなすぐ答えなんて出せないよね」
僕は風太をちらりと見た。
風太は珍しく、叱られた大型犬みたいな情けない顔で僕を見返した。
なに、その顔――
「あのさ、じゃあ、とにかく今は次に向けて切り替えていこうよ!」
僕はなるべく元気な声を出した。
「だって、今は実績どころか、舞台にもろくに立ってないんだから、正直望陽の決意も口だけっぽく見えちゃうでしょ?」
「多日登って、本当に辛辣だよな」
ため息をついたのは、望陽ではなく風太だった。
「とりあえず、冬までになんとか場数踏んで、年明けの進路調査までに自分たちで見極めればよくない?」
望陽と風太がいつものキョトンとした顔で僕を見ていた。そのあと、お決まりのように顔を見合わせて頷き合う。
「ああ、そうだな」
「それが、いいかもね」
二人も納得したように見えたが、そこで、望陽の顔に微かな翳りが見えた。
「もしさ……」
そう漏らした望陽の声は少しだけ、怯えているような印象を受けた。
「もし、俺らがガチで芸人目指すって言ったら、多日登も傍にいてくれる?」
今度は、望陽が雨に濡れた子犬のような顔を僕に向けてきた。
僕は答えられない。代わりに、風太が「おいっ」と強めの声を上げた。
「それは……さすがに違うだろ」
「そう、だよね」
望陽も寂しそうに頷いた。
僕はなんて言っていいのか分からなかった。
確かに、三人でいる時間は楽しいし、これからも関わりたいと思う。
でも、僕はスキップイソップではないんだ。
じゃあ、高校を卒業した後、僕は彼らとどう関わればいいのだろう。二人が売れたら? その後は?
自分の進路のことよりも、そんなことばかりが気になった。
