中間テストも終わり、次の期末テストに向けて少しは勉強も挟みつつ、僕たちはネタ作りに没頭していた。
パソコン教室や公園で立ち稽古なんかもして、一本は確実に形になってきていた。万が一、他の出場者とのネタ被りなんかも考えて、あと少なくとも二、三本は作っていきたいところだけれど――
なんだか、望陽と風太がギスギスしているような気がする。
僕としては、あの日、望陽の謎の抱擁をもって、全て丸く片付いたと思っていた。
「多日登、ほっぺにパンくずついてる」
「バナナミルク、一口ちょうだい」
なんて、望陽はあの件がある前とあまり変わらないけれど、いくら鈍感な僕でも、なんとなく風太を牽制している感じは察していた。
風太は風太で、隣に座ったりすると、机の下ですっと指を絡めたりしてくる。
さすがにそれが気まずくて、僕は水曜日の放課後と、土曜日の午前中の二人きりになる時間を断った。
もしかしたら、それが良くなかったのかもしれない。
中間テストの時の勉強会で、望陽もある程度、今の授業についていけるようになったので、そこまで詰め詰めに勉強をする心配もなかった。
期末テスト直後には、高校生のお笑いにとって、高文連の大会やインターハイにあたる『全国高等学校コメディ芸能選手権大会』の予選が始まる。
全国決勝の様子は『コメディ・オブ・ハイスクール』の名でネット配信されるため、近年、割と注目を集めている大会でもあった。
今ではそちらの名称から、『コメハイ』が大会全体の通称になっている。
「そもそも、俺らって出られるの?」
望陽が首を傾げた。
「ん? なんで?」
僕も望陽と向き合って首を傾げた。
「いや、だって、何組出られるの?」
「あ」
風太も気付いたようで、口をぽかんと開ける。
それを待っていましたと言わんばかりに、僕は真顔で指を一本立てた。
「安心して。そこは抜かりないから!」
全国高等学校コメディ芸能選手権大会は、高文連の大会などと同じく、基本的には学校単位で参加する大会だ。
一校につき、漫才、コント、喜劇の各部門に出場できるのは一組ずつ。出場には学校の承認が必要になる。
しかし、その点については、すでに手を打っていた。
佐山や藤堂が牛耳っているお笑い研究部も、当初はここを目指していたはずだ。しかし今は、モテることを目標に、クソみたいなネタで地元の仲間内主催ライブに出場することが主になっている。お笑い好きの担当教諭も、そのことでかなりやる気を失っているらしいということは、すでにリサーチ済みだった。
僕はそれを利用した。
実は、望陽と風太はまだお笑い研究部の部員である。佐山と藤堂と揉めて、部室に顔を出せなくなっただけで、退部はしていない。
やんわりとそのことを担当教諭に伝え、実はコメハイを目指して頑張っています、ということを、僕は中間テストのずっと前からプレゼンしていたのだった。
ネタ帳を見せたり、公園で練習している動画を見せたりもした。若い担当教諭はかなり感心してくれたはずだ。
そんな根回しを済ませ、つい先日、スキップイソップは正式に志光学園の漫才部門代表としてエントリーを済ませていた。
「え、多日登、すげぇ……」
「本当に抜かりねぇ……」
尊敬にも似た眼差しを向けてくる望陽と風太に、僕は自信満々に胸を張った。
「これで、もし佐山たちが横やりを入れてきても、もう代表登録は済んでるから、今さらひっくり返せないだろうね」
「やばい、シゴデキすぎて、抱きしめてチュウしたい……」
「それは、ダメ」
望陽の軽口に、風太がすかさずツッコみを入れた。
このテンポはいい。いいのだけど、やっぱり、なんかギスギスしてるんだよな……。
***
コメハイは、まず市内などの支部予選があり、続いて都道府県予選、関東や東北といった地区ブロック予選、最後に全国決勝という形になる。
一部の支部予選では動画審査を採用している地域もあるらしいが、僕たちの住む市では、近隣三市と合同で、実際に観客を入れた会場でのネタ見せが予選となっている。
地域によって細かなルールが統一されていないのも、まだこの大会の歴史が浅いせいだろう。
お笑い好きとして、コメハイの過去の全国決勝のアーカイブは全部見た。それ以外にも、支部予選や都道府県予選、地区ブロック予選など、見られる資料には全て目を通した。ライバルになりそうな他校のコンビのSNSなんかもチェックして、僕はある程度、確信に近い手応えを得ていた。
身内のひいき目ではなく、今のスキップイソップなら、支部予選は突破できるポテンシャルがあると思っている。
もちろん、審査員の好みなどにもよるだろうが、二人の掛け合いやネタの完成度には自信があった。
問題は、まだ人前で披露したことのない二人が、本番で本領を発揮できるかどうかということだが……せめて都道府県予選、できることなら地区ブロック予選までは進みたい。
もちろん、優勝は目指したい。けれど、さすがに全国決勝ともなると、どの年度もプロ顔負けと言っても過言ではない猛者揃いだった。
まあ、この分析は、一旦僕の胸にしまっておくことにする。
「君らの実力なら、支部予選突破は難くないね!」
なんて言ったら調子に乗るかもしれないし、逆に、
「全国は無理でも、まずはブロック目指して頑張ろう!」
なんて言ったら、モチベーションを下げてしまうかもしれない。
心配だった親の同意書もあっさりもらえたし、ネタ合わせはするたびに良くなっている。二本目も仕上げられそうな勢いだ。期末テストの勉強も、心配ない程度には進んでいる。
すべてが順調に進んでいる。
だからだろうか。やはり、二人の間に流れる空気だけが、僕は不安だった。
パソコン教室や公園で立ち稽古なんかもして、一本は確実に形になってきていた。万が一、他の出場者とのネタ被りなんかも考えて、あと少なくとも二、三本は作っていきたいところだけれど――
なんだか、望陽と風太がギスギスしているような気がする。
僕としては、あの日、望陽の謎の抱擁をもって、全て丸く片付いたと思っていた。
「多日登、ほっぺにパンくずついてる」
「バナナミルク、一口ちょうだい」
なんて、望陽はあの件がある前とあまり変わらないけれど、いくら鈍感な僕でも、なんとなく風太を牽制している感じは察していた。
風太は風太で、隣に座ったりすると、机の下ですっと指を絡めたりしてくる。
さすがにそれが気まずくて、僕は水曜日の放課後と、土曜日の午前中の二人きりになる時間を断った。
もしかしたら、それが良くなかったのかもしれない。
中間テストの時の勉強会で、望陽もある程度、今の授業についていけるようになったので、そこまで詰め詰めに勉強をする心配もなかった。
期末テスト直後には、高校生のお笑いにとって、高文連の大会やインターハイにあたる『全国高等学校コメディ芸能選手権大会』の予選が始まる。
全国決勝の様子は『コメディ・オブ・ハイスクール』の名でネット配信されるため、近年、割と注目を集めている大会でもあった。
今ではそちらの名称から、『コメハイ』が大会全体の通称になっている。
「そもそも、俺らって出られるの?」
望陽が首を傾げた。
「ん? なんで?」
僕も望陽と向き合って首を傾げた。
「いや、だって、何組出られるの?」
「あ」
風太も気付いたようで、口をぽかんと開ける。
それを待っていましたと言わんばかりに、僕は真顔で指を一本立てた。
「安心して。そこは抜かりないから!」
全国高等学校コメディ芸能選手権大会は、高文連の大会などと同じく、基本的には学校単位で参加する大会だ。
一校につき、漫才、コント、喜劇の各部門に出場できるのは一組ずつ。出場には学校の承認が必要になる。
しかし、その点については、すでに手を打っていた。
佐山や藤堂が牛耳っているお笑い研究部も、当初はここを目指していたはずだ。しかし今は、モテることを目標に、クソみたいなネタで地元の仲間内主催ライブに出場することが主になっている。お笑い好きの担当教諭も、そのことでかなりやる気を失っているらしいということは、すでにリサーチ済みだった。
僕はそれを利用した。
実は、望陽と風太はまだお笑い研究部の部員である。佐山と藤堂と揉めて、部室に顔を出せなくなっただけで、退部はしていない。
やんわりとそのことを担当教諭に伝え、実はコメハイを目指して頑張っています、ということを、僕は中間テストのずっと前からプレゼンしていたのだった。
ネタ帳を見せたり、公園で練習している動画を見せたりもした。若い担当教諭はかなり感心してくれたはずだ。
そんな根回しを済ませ、つい先日、スキップイソップは正式に志光学園の漫才部門代表としてエントリーを済ませていた。
「え、多日登、すげぇ……」
「本当に抜かりねぇ……」
尊敬にも似た眼差しを向けてくる望陽と風太に、僕は自信満々に胸を張った。
「これで、もし佐山たちが横やりを入れてきても、もう代表登録は済んでるから、今さらひっくり返せないだろうね」
「やばい、シゴデキすぎて、抱きしめてチュウしたい……」
「それは、ダメ」
望陽の軽口に、風太がすかさずツッコみを入れた。
このテンポはいい。いいのだけど、やっぱり、なんかギスギスしてるんだよな……。
***
コメハイは、まず市内などの支部予選があり、続いて都道府県予選、関東や東北といった地区ブロック予選、最後に全国決勝という形になる。
一部の支部予選では動画審査を採用している地域もあるらしいが、僕たちの住む市では、近隣三市と合同で、実際に観客を入れた会場でのネタ見せが予選となっている。
地域によって細かなルールが統一されていないのも、まだこの大会の歴史が浅いせいだろう。
お笑い好きとして、コメハイの過去の全国決勝のアーカイブは全部見た。それ以外にも、支部予選や都道府県予選、地区ブロック予選など、見られる資料には全て目を通した。ライバルになりそうな他校のコンビのSNSなんかもチェックして、僕はある程度、確信に近い手応えを得ていた。
身内のひいき目ではなく、今のスキップイソップなら、支部予選は突破できるポテンシャルがあると思っている。
もちろん、審査員の好みなどにもよるだろうが、二人の掛け合いやネタの完成度には自信があった。
問題は、まだ人前で披露したことのない二人が、本番で本領を発揮できるかどうかということだが……せめて都道府県予選、できることなら地区ブロック予選までは進みたい。
もちろん、優勝は目指したい。けれど、さすがに全国決勝ともなると、どの年度もプロ顔負けと言っても過言ではない猛者揃いだった。
まあ、この分析は、一旦僕の胸にしまっておくことにする。
「君らの実力なら、支部予選突破は難くないね!」
なんて言ったら調子に乗るかもしれないし、逆に、
「全国は無理でも、まずはブロック目指して頑張ろう!」
なんて言ったら、モチベーションを下げてしまうかもしれない。
心配だった親の同意書もあっさりもらえたし、ネタ合わせはするたびに良くなっている。二本目も仕上げられそうな勢いだ。期末テストの勉強も、心配ない程度には進んでいる。
すべてが順調に進んでいる。
だからだろうか。やはり、二人の間に流れる空気だけが、僕は不安だった。
