あの頃の私は、親友以上の気持ちで優月を求めていた。それを自覚したのは私が大学生になった時だった。
ある時、私を好きだと言ってくれた後輩の女の子がいて、その後輩と少しだけ付き合った。私はそれまで一度も男性に惹かれたことがなかった。それでも特にそのことで悩んだことはなかった。私はそういうことに興味が持てない人なんだと思っていた。でもその後輩に好きと言われた時、自分でも分からない感情を感じた。その感情が優月に対して感じていたものと少しだけ似ていた。もしかしたら、優月を過去のことにできるかもしれない。そう思って付き合った。でもやっぱり優月のことが頭から離れなくて、続かなかった。私は一生、この感情に振り回されるんだろうかと悲しくなった。だから、決着も付けたくて、同窓会へ行った。そして、私たちは再会した。
優月は過去の出来事なんて何もなかったかのように私に近づいてきた。
「叶芽! 元気だった?」
「……優月」
「叶芽、また背が伸びてる?」
「あ、そうかも」
そう言って私は自分の頭を撫でながら笑った。
「いいなぁ。羨ましい」
「優月は相変わらず小さいね」
「へへっ」
そんな優月を見て、私は笑いながら、胸の奥が引き攣るのを感じた。
「今日来たら、叶芽に会えるかなって楽しみにしてた」
「え?」
――あんなに酷いこと言ったのに。
「だから会えて嬉しい」
「なんで? 私……酷いこと言ってたのに」
「まだ怒ってるの?」
「そんなわけ……」
「でしょ。もう、過去の話じゃん」
「そうだけど」
「叶芽って今何してるの?」
「あ、営業してる」
「えー、格好いい! めっちゃ似合いそう」
「そうかな?」
私は苦笑いして、取り繕った。
――あ、やばい。めっちゃ可愛い。やっぱり優月が好きだ。
「優月は何してんの?」
「私? 私は、保育士だよ。東京にいる」
「え? 私も東京だよ」
「えー!? 本当に? じゃぁ東京でも会おうよ」
「うん。会う! 会おう。優月、ごめんね」
涙が出そうになって思わず、手で鼻を押さえた。優月が目の前で目と鼻を赤くしたかと思うと、涙を流した。
「ははっ。叶芽ー」
優月は抱きついてきて、私の鼓動が早くなった。昔から、優月にとってはこんなこと普通だった。今回も別に深い意味なんてないんだろうと思う。でも、私は恥ずかしいくらいにドキドキしてしまった。
同窓会の後すぐに、優月から連絡をくれた。私は嬉しくて、すぐ予定を合わせて、一緒に飲んだ。二人で居酒屋で飲んで、楽しくなって、週末だったこともあって、私のうちで『朝まで飲もう!』なんて言って、コンビニでお酒を買って、うちで飲み直していた。そんな中、優月がさらっと言った。
「私、あの時、叶芽のこと好きだったんだ」
――その好きって、どの好き?
何と答えたらいいのか分からず、一瞬、私の思考回路が途切れた。
「おーい。聞いてる?」
「あっ、うん……私も親友だって思ってたよ」
「そういうんじゃなくて、恋愛としてだよ。ふふっ。びっくりでしょ」
優月はテーブルの上で腕組みをして、その上に頭を乗せたまま私を見上げるように見ていた。ほのかに頬が赤くなって、瞳が少し潤んでいた。優月は元々色が白くて、すぐに頬が赤くなる。この歳になっても全然変わらない。雪の中で遊んでいる子供みたいで、可愛らしい。そんな顔で見られると、ただの酔っ払いの戯言なのか、どう受け取ったらいいのか分からなくなった。
「……酔ってるんでしょ? あんた、あいつと付き合ってたじゃん!」
優月は私から目を逸らして、どこか宙を見ながら、ゆっくりと口を開いた。
「……うん。そうだよね。それで、叶芽、すごい怒っちゃったでしょ。だから、言えなかったんだけど、結局、付き合わなかったんだよね」
「は? どういうこと? じゃあなんであの時、私、怒ったのよ」
「あんなに怒ると思わなかったから、嘘だって言えなくて」
「え? 何それ」
優月は突然顔を伏せた。
「本当は、知りたかったんだ。叶芽が私のこと本当にただの親友としてしか見てないか!」
「……どういうこと?」
「だって、あの時、もし私が好きだって言ってたら、叶芽、それでも私と一緒にいてくれた?」
「何言ってんの? 私だって……」
――私だって……。私だって、何? 私は何を言えばいい? 好きだったって? で? それで? もう過去のことだから、今ならいい思い出だよねって、笑っちゃうねってしたいわけ?
私は言葉を詰まらせたまま、動けなかった。それなのに勝手に瞳から涙が溢れた。優月は顔をあげると私の涙を見て少し驚いたようにゆっくり口を開いた。
「叶芽……」
「優月にとっては過去の笑い話にできるのかもしれないけど、私は、ずっと、ずっとそのことが頭から離れなかったよ。ずっと後悔してた。あの時、あんなに怒って、優月を避けて、七年も会えなくなるなんて……」
体が震えて、声が掠れた。思わず両手で顔を覆った。突然、優月が飛びつくように私を抱きしめた。
「ごめん。叶芽。ごめんね」
優月の柔らかい肌が私に密着してきて、私は何とも言えない気持ちになった。
――あー。本当、私は優月に弱い。そんな風にされたら、もうどうでもいいような気持ちになってしまう。
そんな私の気持ちを察することもなく、優月は私に抱きついたまま続けた。
「私も、ずっと後悔してた。ずっと叶芽のことが頭から離れなくて、でも私だけそうだったら、恥ずかしいし、叶芽があんなに怒ると思わなかったから、あの後、嘘だって、言えなくて、でも、阿部君から付き合ってって言われたのは本当だよ」
「……うん」
「今からでもやり直せないかな。私たち、もう親友とかじゃなくて……私、叶芽の恋人になりたい」
「……優月……優月って、あれから誰かと付き合ったりしたの?」
「え? なんで?」
「あっ、いや、なんていうか私たち女同士だし」
優月が私を見上げてふふっと笑った。
「叶芽、それ今、言う?」
私もおかしくなって笑ってしまった。そして、私も優月を抱きしめて、しばらく二人で笑い合った。それから、私たちはゆっくりと唇を重ねた。
そうして、私たちは付き合うことになった。
