永遠を生きる君と死を約束された僕が、最後に叶えた小さな願い

「ねえ、君は死なないんだってね」

 多分、そう口にした僕の声には嫌味ったらしさのようなものも含まれていたと思う。

 それでも彼女は不快な様子を見せることなく応えた。

「基本的にはね、傷も大体の病気も一瞬で治るよ」

 深夜の病室、窓から差し込む月明りがほんのりと彼女の輪郭を縁取っていた。

 同じ入院患者の服を着ているのに彼女の方が何倍も生命力に満ちているように見える。

「そういうあなたはいつ死んでもおかしくないみたいだね」

 今度は彼女の方がストレートにそんな言葉を投げかけてきた。

「そうだよ」

 いつ死んでもおかしくない身体、そう聞いて周りの人間は大体同情を示すのが常だった。だから、どうせ彼女もそうなのだろうと思っていた。

「羨ましいなー」

 彼女は子供が他の子供のおもちゃを欲しがるような口調で一言そう呟いた。

「僕は河野明。君、名前は?」

 気付いたら名前を聞いていた。他人に興味が芽生えたのはいつ以来だろうか。

「私は藤野香織」

 名乗ってから、彼女はふっと微笑んだ。

 思えば彼女がこの病室に来てから笑みをこぼした姿を見るのはこれが初めてだった。不死身であることを忘れてしまうくらい彼女の微笑みは儚く見える。

「連絡先、良かったら教えてよ。もうすぐ退院しちゃうんでしょ?」

 彼女は急にくだけた態度になりスマホをこちらに差し出してきた。

「まあ、良いけど」

 なんだか奇妙なことになったな、と僕は連絡先リストに登録された藤野のアイコンを眺めて思った。

 出会いと別れの季節、退院後に通う高校の入学式を間近に控えた四月のことだ。