誰がお前を好きになるかよ

 俺があまりにも泣いているからか、何が起きたのかと周りがざわつき始めた。何となく、都築が焦っているのが伝わる。
 勝手に声をかけて、弟との時間を潰したあげく、こうして泣いて迷惑をかけるなんて。
 都築は俺のことをもっと嫌いになるかもしれない。そう考えたら、ますます涙が止まらなくなった。

「いったんここを離れよう」

 都築は、俺の手を引いて歩き出した。涙で視界が歪む。俺は少し前を歩く都築の背中を、ぼんやりと眺めた。

 しばらく歩くと、人通りの少ない道に出た。都築は俺に呆れているはずなのに、俺の手を握る都築の手は優しかった。

「……お前、急にどうしたの?」

 立ち止まった都築は、混乱しつつも、心配しているような声で、俺の頭を撫でた。保健室で触れてもらったときの感触を思い出し、好きの気持ちが一気に溢れた。

「都築……!」

 都築にどうしても触れたくて、もう一度だけ抱きつくように胸に飛び込むと、今度は拒否されることもなく背中に手を回してもらえた。
 トントンと、俺が落ち着けるように背中を叩いてくれる。

「あのさあ、本当に俺のこと好きって言われているような気がするんだけど、お前別にゲイじゃないよな?」
「……ん、違う」

 都築の胸に顔を預けたままで、首を横に振った。

「なのに俺が気になるの?」
「……ん」
「どうして?」
「……んなの、分かんない」
「お前さあ……」

 俺を抱きしめてくれていた都築の手が離れた。

「あ……っ」

 俺はまた、何かまずいことを言ってしまったんだ。
 そう思いながら焦って顔を上げると、都築に両手で頬を包まれた。

「都築……?」
「川北、お前さあ……。本当、もう……」

 ぶつかった視線は冷たくもなく、少し熱を帯びているような、そんな感じがした。けれど、都築は困ったように眉を垂らしている。

 想像よりも、都築の反応は怖いものではなかった。けれど、俺のこの気持ちを喜んでいるわけでもないはずだ。
 沈んだ気持ちのまま都築を見ていると、都築の顔が少しずつ近づいていた。

「……っ、」

 ……キス? な、んで?

 唇に柔らかな感触がし、視界が都築でいっぱいになる。
 突然のことに驚いたものの、拒否はしたくない。
 俺はどうしていいか分からず、息を止め、固まったまま応じた。

「つ、づき……」

 泣いたせいで、鼻が詰まっていて呼吸がしにくい。
 思わず口を開けると、さっきまで優しく重ねられていたのに、舌をねじ込まれた。
 
「……っふ、」

 ますます息が苦しくなる。でも、苦しさよりも、このキスをやめてほしくない気持ちのほうが強い。

 どういうつもりで、都築は俺にキスをしているんだろう。
 俺を傷つけるためにしているとは思えない。それくらい都築からも必死さが伝わって、思わず違いしそうになるような、そんなキスに感じた。

 俺は都築の首に腕を回し、少しだけ背伸びをした。
 自分からさらに距離を縮め、俺から離れていかないでと必死に舌を絡める。

 そもそもキスが初めてだから、こんなに深いキスをしたこともないし、きっと下手くそだと思う。
 それでも、俺のこの気持ちが、少しでも伝わったら嬉しいな。