誰がお前を好きになるかよ

 弟がいなくなり、都築とふたりになった。周囲にはたくさんの人がいて、ふたりきりというわけではないのに、なぜか目の前の都築しか視界に入らない。

「……で? 何の用? わざわざ呼び止めてさ。俺たちが兄弟かどうかがそんなに気になる? それだけでこんなことするの?」

 都築は腕を組み、俺を見下ろした。

「……いや」
 
 兄弟かどうかは確かに気になった。でもそれは、都築に男性の恋人がいるかどうか、ただ確認したかっただけじゃない。兄弟だったら、まだ俺にもチャンスがあるのかなとか、そういうことを考えたから。

 とはいえ、その理由をそのまま言えるわけもないし、どう説明すればいいのかも分からない。
 わざわざこうして呼び止めたのだから、都築は納得できる理由を求めているのだろう。

「あのさあ、兄弟でも恋人でも、川北には関係ないよな? 何がそんなに気になる? もしかして好みじゃないって言われたから、プライドが傷ついた? それをずっと引きずってんの?」
「……プライドとか、じゃなくて」

 最初はそうだったかもしれない。でも、今は絶対に違う。
 都築は俺のことが嫌いなままだろうけれど、俺は──。

「じゃあ何? 川北と話してる時間そんなにないんだけど」
「……っ、だから、その……」
 
 冷たい表情と声で話す都築に、胸が苦しくなる。少し前は、ふざけて下の名前で呼んでくれたこともあったのに。今日は揶揄う雰囲気もなければ、名字呼びだった。そんなことにさえ傷ついてしまう。
 あれだけ嫌いな自分の名前を、都築に呼んでもらえないことが寂しいだなんてめちゃくちゃだ。

「はあ……。まさか俺のこと好きとか、そういうこと?」
「……っ」

 鼻で笑うように言われ、それだけ都築にとってあり得ないことなんだと実感させられた。
 冷たくて興味のないその言い方は、明らかにお前のことは好きじゃないと、そう言われた気がした。

 でも、俺は都築のこと、好きになっちゃったんだもん。
 好きになったきっかけははっきりしないし、都築のどんなところが好きなのかうまく説明できない。
 それでも、見かけたらこうして衝動のままに声をかけたり、名前を呼ばれなくて悲しくなったり、都築が俺を好きじゃない事実だけで胸が張り裂けそうなくらい痛いんだ。

「……俺が、都築のこと、す、好きだって言ったら、頼まれても無理だって言ってた俺を、恋愛対象に……入れてくれる?」

 震える声でそう伝えると、俺は思い切って都築の胸に飛び込んだ。
 これで俺の気持ちが伝わったらいいなと、そんな願いを込めて。

「……は? 何の冗談だよ」

 けれど、都築は抱きしめ返してくれることはなく、俺をすぐに引き離した。

「冗談って……。……俺は、何しても、頑張っても、お前の恋愛対象にはなれないの……?」

 自分で言いながら、酷く苦しくなった。
 それならどうして、あのとき俺のことを助けたの? 抱えて保健室に連れて行ってくれたの? 頭を撫でたりなんかしたの? お前への気持ちを自覚させたの……?