誰がお前を好きになるかよ


「あれ……もしかして……」

 休日、姉のショッピングの付き添い中に、前に都築と一緒にいた可愛い男の子を見かけた。
 周りにはたくさんの人がいるのに、なぜかはっきりと視界に入って来た。彼が特徴的な服装をしていたわけでもないのに。

 もしかしたら、都築が近くにいるかもしれない。
 前回は自ら声をかけたが、都築への好意を自覚した今、デート姿を見せられるのはつらい。
 早く、この場から離れないと。
 
「姉ちゃん、あっちに行こう」
「は? 今ここ見てるから無理」

 服を見ている姉の肘を掴むと、「邪魔しないで」と振り払われた。俺が持たされている紙袋の中には、既に似たようなデザインのものが入っている。これ以上、何を見る必要があるのか。
 
「さっき買ったのと同じじゃん!」
「さっきのとは違うから」

 ぐいぐいと腕を引くが、姉はびくりともしない。そうこうしているうちに、男の子がこちらに向かって来た。
 このままだと、絶対に気づかれてしまう。

「ねえってば。もうそれ買わなくていいじゃん」
「ちょっと、うるさい! 邪魔しないで」
「……ああ、もう!」

 男の子が俺の横を通り過ぎる直前、顔を背けながらぎゅっと目を瞑った。
 話しかけられませんように……! 都築もいませんように……!


「兄ちゃん!」

 ──え?

 背後から聞こえてきた「兄ちゃん」の言葉に思わず振り向くと、その子は誰かに手を振り走っていた。

 てっきり都築とデートだと思っていたのに。今日は違ったのか。
 それなら、たとえバレたとして、ふたりの仲の良さを見せつけられることもなさそうだ。

 俺はほっとして、大きくため息をついた。姉は、急に静かになった俺に、「これとこれ、どっちがいい?」と服を合わせながら尋ねてくる。

「こっちがいい。さっきのと違うデザインだから」

 雑に返事をしながら、何となく男の子が走って行った先へ視線を向けた。

「……は? マジかよ」
「蛍? やっぱりこっちがいい?」  

 自分に話しかけられたと勘違いした姉が、再び服を見せてきたけれど、それどころではない。

「……。」
「ちょっと、蛍?」

 俺は姉を無視して、男の子ともう一人の人物を見つめた。
 少し距離があるから、確信が持てるわけではないが、何度目を細めて確認しても都築に見えてしまう。

 ──あのふたりって、兄弟だったのか……!?

「姉ちゃん、ごめん。友達見つけたから行って来る。ここで解散させて」

 持っていた紙袋を、姉の胸元に押し付けた。

「え? 今日は私の荷物持ちしてくれるって言ってたじゃん」
「でも、この用事のほうが大切だから」

 なかなか受け取ってもらえない紙袋を足元に置くと、姉が慌てて持ち上げた。

「荷物持ちしないなら、お礼に服買ってあげるって約束はナシだからね!」
「いいよ」

 お礼ナシは困るから残るはずだと思っていた姉は、「はあ!?」と納得していない声を出した。俺はそれにも返事をせずに全速力で走った。

「……やっぱり!」

 男の子と一緒にいたのは、予想通り都築だった。その瞬間、肩の力が抜ける。

 ……恋人じゃなかったんだ!

 その嬉しさだけで、自分でも驚くほど舞い上がってしまう。ただ確認したくて近寄っただけなのに、気づけば「都築!」と名前を叫んだ。

「……お前ら兄弟だったのかよ!」

 背後から都築の肩を掴むと、振り返った都築が目を見開いた。

「あれ? またこの子? 兄弟って何のことだろうねえ」

 都築の弟は、都築と腕を組み、にいっと笑った。

「ねえ、侑志、コイツしつこい〜! 僕たちの時間を邪魔しないでほしいな」

 さっき「兄ちゃん」と呼んでいたのを聞いているから、兄弟だと分かっているのに。あまりにも密着しているその姿を見ていると、勘違いだったのかもしれないと、不安になってくる。

「もういいよ。そんなことやらなくて」

 都築はそう言うと、絡められた腕を離し、俺のほうへと一歩寄った。

「えー、だって兄ちゃん。この子が“そう”なんでしょ? 目元にほくろあって、ちょっとやんちゃそうな見た目で……。兄ちゃんが言ってた子だってすぐに分かったよ」

 都築のシャツを後ろから掴みながら、その子は面白がっている様子で俺と都築を交互に見た。

 目の前ではっきりと聞いた「兄ちゃん」呼びに安堵したものの、都築が俺の話をしていたことには引っかかる。
 絶対に良くない話をしていたに違いない。俺って、家族に伝えるほど嫌われているのかな。

「……お前うるさい、先行ってて」

 都築は後ろでキャッキャと楽しそうにしている弟に低めの声でそう言うと、弟は下唇を突き出した。

「ちぇ、先行っててっていうか、兄ちゃんもう来ないでしょ? そいつと仲良くやってなよ。じゃあね、蛍ちゃん」
「……っ! 何で俺の名前……!」