誰がお前を好きになるかよ


 休み時間になると、想像していた通り女子が都築を囲んでいた。
 隣の席の俺はただひたすらに惨めな気持ちになりながら、その光景を見つめることしかできない。

「都築くん、今日の放課後遊びに行かない?」

 ひとりの女子が甘ったるい声を出すと、それに続くように「私も!」「私とも!」と女子たちが騒ぎ出した。
 都築本人は囲まれることが珍しくないのか、表情を変えずに聞いている。
 その態度も面白くない。俺なら嬉しくて、絶対ににやけてしまうのに。

「それで、今日は誰と遊ぶの?」

 クラスでも一番可愛いと噂されている女子が、自信ありげに都築の腕に巻きついた。
 角度によっては、胸が腕に当たっていそうだ。
 その状況を羨ましく思いながら横目で見ていると、「ところで」とようやく都築が口を開いた。

「これはどういうつもりで誘ってる? 友達として仲良くなりたいから? それとも、俺のことを異性として見ていて、その先の関係を期待しているから?」

 てっきり誰と遊ぶのか答えると思っていたのに、都築の言葉は信じられないものだった。
 わざわざ聞かなくたって、女子は彼女になることを狙って誘っているのだと分かるはずなのに。
 どういうつもりでそんな発言をしたのか。何様なのか。しっかり見届けてやろうじゃあねえか……!

「それは……、友達としても仲良くなりたいから誘っているんだし、その先があるのならその先を期待したい子だっていると思うけど。……ねえ?」

 都築と腕を組んでいる女子が答えると、周りの女子も静かに頷いた。その返事を受け、都築は「それなら俺も、きっぱり伝えておかないとね」と立ち上がった。
 
 そうまでして伝えておかなければいけないことって、何だ……?

 女子よりも答えが気になった俺は、身体ごと都築へと向け、大きく目を見開いた。
 実はもう、彼女がいるとか? それとも、熟女しか無理とか……?

「俺、ゲイなんだよね。だから、女子との恋愛は無理。ごめんね」

「……えっ!」

 一瞬静まり返った教室に、俺の声が響いた。
 予想外の発言に、身体が固まる。その場の誰よりも大きな声を出した俺を、都築がじっと見つめた。それから、ゆっくり口角を上げる。
 たったこれだけのことで、何をそんなに驚いているんだ? と、そういう冷めた表情にも見えた。

 そもそも、カミングアウトって……こんなにあっさりするものなのか? 

 誰も都築のことを知らないし、これから仲良くなっていく段階なのに。初めましてで、こんな伝え方ってアリなの!?

 頭の中が混乱している俺をよそに、都築と腕を組んでいた女子は、「可愛い私よりも、男のほうがいいの!?」と素直に驚いた反応をした。
 それがあまりにも面白く、教室に笑いが起きる。彼女がわざとそう言ったのかは分からないけれど、この発言のおかげで場が和んだことは確かだ。
 都築は、少しだけキョトンとした後、くすくすと優しい表情で笑い、「そうだね。君はすごく可愛いのにね」と眉を垂らした。

「じゃあ、恋愛は良いから、みんなで一緒に遊びに行こうよ。カラオケは? 都築くん、行ける?」
「良いよ、行こうか」

 カミングアウトがあったとは思えないほど、楽しそうな雰囲気が広がり、女子たちの笑い声が教室に響いた。
 何となく聞いていた男子も、何人か「俺も行きたい」と加わった。 
 また後で計画を立てようと言いながら、次の授業に向けてみんながそれぞれ席に戻った後、隣の席の俺は、やたらと気まずく感じてしまう。

 どんな言葉をかけるのがいいのか。都築にとって、俺はどんな立ち位置でいればいいのか。
 同性が恋愛対象なら、男女の友情は成立しないって言われるのと同じようなことが起きてしまわないか?

 そんなことを考えていると、ふと、とある疑問が浮かび、気がついたときには都築の肩を叩いていた。

「何?」
「いや……、あの、えっと」

 呼んでみたものの、近距離で彼の顔を見ると、その威力にやられてしまう。
 何も言わない俺に対して、眉間に皺を寄せながら、都築はさらに顔を近づけてきた。

 うわ……まつ毛なっが! 瞳の色綺麗……! と、関係のない情報に振り回される。
 そうじゃなくて! とどうにか気持ちを落ち着けた。

「あのさ、俺もそういう対象になって、狙われることってある?」
「……はあ?」 
「え? え……?」

 都築の眉間の皺が、さらに濃くなった。
 都築の反応を見て、俺って何か変なことを言ったか? と考えてみたけれど、分からない。
 ん? そんなに怒られるようなことを俺言ったっけ? 
 
 首を傾げて都築を見つめると、額を指で弾かれた。

「いった!」
「そもそも誰がお前を好きになるかよ」
「でも、都築って男が好きなんだろ? さっきそう言ったじゃん」
「はあ、確かにそう言ったよ。それは事実だ。でもな、俺だって好きになる相手は選びたいよ。お前は顔も中身も全然好みじゃないから、対象になることはねえよ。安心しろ。頼まれたって無理だね」
「……はあ? はあ〜!?」
「はあ? じゃねえよ。こっちの台詞だわ」

 ちょっとしたコミュニケーションのつもりだったのに、都築は俺から視線を逸らした。机に肘をつき、俺とは反対のほうを向く。
 都築の態度が気に入らず、ムカついた俺は、こちらを見ていないのを良いことに、都築に向かってあっかんべーをした。
 
 都築が女子を恋愛対象にしないうえに、嫌われた俺が都築とどうこうなることもない。
 さっきはもう無理だと思っていた、彼女を作るという目標を達成できる可能性も出てきたし、いいことしかないはずなのに。
 それでも、イライラがおさまらない。その後も、さっきの都築の表情と言葉が、俺の頭の中を巡っていた。