同じ病院に入院してたから、ぜんきちが起きてもしばらく一緒だった。律儀に毎日来る、通い妻みたいな恋仲っちとも、まあまあ喋るようになった。うちは大丈夫だって言ってるのに、お母さんもしょっちゅう見舞いに来る。警察の人とかせんせーとか、こっちは怪我人なのに休む暇がなかった。
柊斎とか言ったっけ。あの女。恋仲っちが、斎をなんか合気道みたいな技で押さえつけてた。残念だねーって笑ってやりたかったけど、そこまでの力が出なかったのは悔しい。
恋仲っちは喋られないからって自分の守り方をお兄ちゃんに教わっていたらしい。逃げるのが最善だけど、いざとなったときのいなし方とか、そんなの。
鍵を開けたせんせーたちが入ってきた辺りから寝てしまい、病院で起きるまでの記憶はない。
病室の天井はシミなんてなくて絵にならないから、その女のことを考えてた。復讐だかなんだか知らないけど、自分この後がどうなるかなんて、まるで考えてないみたいだった。自分はどうなったっていいみたいな感じだったけど、変な話、もっとやりようだってあったと思う。けど、もうぜんきちと妹、琴音ちゃんだっけ、その二人しか見えてなかったんだろうな。
大げさかもだけど、きっと自分の気持ちだけ晴らせればそれだけでよくて、その後はどうでもよかったんだろうな。もし上手くいったって気持ちが晴れるのかは知らないし、興味もないけど。いつからか、それしか見えなくなってたんだと思うと、同情だけはする。
うちが言うのもアレだけど、みんな、親に縛られてるんだなって感じた。
眠くなってきたから、まとめておいて目を閉じる。
気になるから。いつか面会に行ってみるのも面白いかもしれない。
* * *
「よくまあ、生きてたよね。普通死ぬよ、あんなところから落ちたら」
ある日、検査が終わって病院の飲食スペースで休憩していると、恋仲っちもやってきた。一緒にホットココアを飲んでる。運よく木があったとか、地面が土だったとか、色々な幸運が重なって重傷だったけど、ぜんきちは、生きてた。目覚めたときはまあ、ちょっとテンションは上がったよ。みんなが騒ぐし。
『はい、毎日頑張ってますよ。先生も驚いてました』
すっかり彼女みたいなセリフ吐いちゃって。恋仲っちは嬉しそうに微笑んで、スマホのテキストを見せてくる。ついでにリハビリの写真も。勝手にスライドしてくる。頼んでないんだけど。それにしてもこの子はこんな顔で笑うんだ。……ほんと、クサ過ぎてお似合いだよ。
「ま、退院したらいっぱいサービスしてあげたら? それとももう病室でしちゃってるの? いけないんだあ?」
ごちそうさまの合図にこんな返しをすると、いつも顔を真っ赤にして首を振る。
「動きとさ、顔が大事だよ。恋仲っち。あとで動画送っとく」
『大丈夫です! いらないです!』
「あははは」
ぜんきちはキモいし、恋仲っちは初々しいし、なんだこいつら。未来しかないじゃん。
うちは笑いながら手を振って、コートを羽織る。
珍しく雪が積もって、外は真っ白。めちゃくちゃ寒くてしんどい。
『凪ちゃん、退院祝いにどう?』
『痛いの僕が忘れさせてあげたいなっ』
スマホのメッセージを見る。何か返そうと指が動いたけど、スワイプしてブロックしてた。自分の行動に自分で驚いて、思わず立ち止まってしまう。人肌が恋しかったはずなのに。誘うだけ誘って断るとか、うちで勝手に興奮する男を見て、優越感に浸りたかったはずなのに。
血が無くなりすぎておかしくなっちゃったかな。
真っ暗なスマホに映る自分の顔を見て、色んな笑顔を作ってみる。
「ぜったいうちの方が可愛いし」
降り積もる雪の上を滑らないように慎重に歩きながら白い息を吐く。耳元までマフラーで隠して純白の空を見上げた。
変な出会いだったし、自分がまさかこうなってるなんて、夢みたいで信じらんない。
なんだかワクワクしてるのも、ほんとキモいけど……。
「ま、べつに悪くないか」
うちの声は、きっとうちだけにしか届いてない。
今まで自分の声なんて聞く気にもなれなかったんだから進歩はしてるのかな。
あーあ、なんでこうなっちゃんだろ。
邪魔するつもりはないけど、ちょっかいは出すから。
ちゃんと責任とってよね、ぜんきち。あはは、それってなんだか楽しそう。
ああ、そうだった。
この後お母さんと買い物して、今後のことの作戦会議をするんだった。まあ、頼ってこられちゃ、しょーがない。でもさ、自分の男のことを娘に相談する? 困ったもんだよ、本田家。地獄しかないじゃん(笑)。
――雪が積もってなければ、走って行ったんだけどなあ。
柊斎とか言ったっけ。あの女。恋仲っちが、斎をなんか合気道みたいな技で押さえつけてた。残念だねーって笑ってやりたかったけど、そこまでの力が出なかったのは悔しい。
恋仲っちは喋られないからって自分の守り方をお兄ちゃんに教わっていたらしい。逃げるのが最善だけど、いざとなったときのいなし方とか、そんなの。
鍵を開けたせんせーたちが入ってきた辺りから寝てしまい、病院で起きるまでの記憶はない。
病室の天井はシミなんてなくて絵にならないから、その女のことを考えてた。復讐だかなんだか知らないけど、自分この後がどうなるかなんて、まるで考えてないみたいだった。自分はどうなったっていいみたいな感じだったけど、変な話、もっとやりようだってあったと思う。けど、もうぜんきちと妹、琴音ちゃんだっけ、その二人しか見えてなかったんだろうな。
大げさかもだけど、きっと自分の気持ちだけ晴らせればそれだけでよくて、その後はどうでもよかったんだろうな。もし上手くいったって気持ちが晴れるのかは知らないし、興味もないけど。いつからか、それしか見えなくなってたんだと思うと、同情だけはする。
うちが言うのもアレだけど、みんな、親に縛られてるんだなって感じた。
眠くなってきたから、まとめておいて目を閉じる。
気になるから。いつか面会に行ってみるのも面白いかもしれない。
* * *
「よくまあ、生きてたよね。普通死ぬよ、あんなところから落ちたら」
ある日、検査が終わって病院の飲食スペースで休憩していると、恋仲っちもやってきた。一緒にホットココアを飲んでる。運よく木があったとか、地面が土だったとか、色々な幸運が重なって重傷だったけど、ぜんきちは、生きてた。目覚めたときはまあ、ちょっとテンションは上がったよ。みんなが騒ぐし。
『はい、毎日頑張ってますよ。先生も驚いてました』
すっかり彼女みたいなセリフ吐いちゃって。恋仲っちは嬉しそうに微笑んで、スマホのテキストを見せてくる。ついでにリハビリの写真も。勝手にスライドしてくる。頼んでないんだけど。それにしてもこの子はこんな顔で笑うんだ。……ほんと、クサ過ぎてお似合いだよ。
「ま、退院したらいっぱいサービスしてあげたら? それとももう病室でしちゃってるの? いけないんだあ?」
ごちそうさまの合図にこんな返しをすると、いつも顔を真っ赤にして首を振る。
「動きとさ、顔が大事だよ。恋仲っち。あとで動画送っとく」
『大丈夫です! いらないです!』
「あははは」
ぜんきちはキモいし、恋仲っちは初々しいし、なんだこいつら。未来しかないじゃん。
うちは笑いながら手を振って、コートを羽織る。
珍しく雪が積もって、外は真っ白。めちゃくちゃ寒くてしんどい。
『凪ちゃん、退院祝いにどう?』
『痛いの僕が忘れさせてあげたいなっ』
スマホのメッセージを見る。何か返そうと指が動いたけど、スワイプしてブロックしてた。自分の行動に自分で驚いて、思わず立ち止まってしまう。人肌が恋しかったはずなのに。誘うだけ誘って断るとか、うちで勝手に興奮する男を見て、優越感に浸りたかったはずなのに。
血が無くなりすぎておかしくなっちゃったかな。
真っ暗なスマホに映る自分の顔を見て、色んな笑顔を作ってみる。
「ぜったいうちの方が可愛いし」
降り積もる雪の上を滑らないように慎重に歩きながら白い息を吐く。耳元までマフラーで隠して純白の空を見上げた。
変な出会いだったし、自分がまさかこうなってるなんて、夢みたいで信じらんない。
なんだかワクワクしてるのも、ほんとキモいけど……。
「ま、べつに悪くないか」
うちの声は、きっとうちだけにしか届いてない。
今まで自分の声なんて聞く気にもなれなかったんだから進歩はしてるのかな。
あーあ、なんでこうなっちゃんだろ。
邪魔するつもりはないけど、ちょっかいは出すから。
ちゃんと責任とってよね、ぜんきち。あはは、それってなんだか楽しそう。
ああ、そうだった。
この後お母さんと買い物して、今後のことの作戦会議をするんだった。まあ、頼ってこられちゃ、しょーがない。でもさ、自分の男のことを娘に相談する? 困ったもんだよ、本田家。地獄しかないじゃん(笑)。
――雪が積もってなければ、走って行ったんだけどなあ。
