俺の親友はまだゾンビじゃない


 カチッとボタンを押す音。その後に続くチャイムの音は鳴らない。代わりに来客の姿を映すインターホンが点灯する。
 いま何時だと思っていやがる。夜の22時だぞ。
 このまま無視してやろうかと頭を過るも、もしかしたら生存者かもしれないという厄介な関心が頭をもたげてくる。
 
 ——確かめるだけだ。
 
 俺はベッドから這い出て、壁に立てかけていた木刀を手に持った。ほんと、たった半年で物騒な世の中になったよな。インターホン越しでも用心しなくちゃいけない。外出なんて防護服を着てから、自己責任でだ。
 玄関の方から音はしない。もう行ったのか?なんて想いながら、俺はインターホンを覗きこんだ。
 見慣れた学ラン。肩口で綺麗に整えられた黒髪。俺より頭一つ分でかい図体に、知ってる顔。
 ——沢谷。沢谷陽だ。
 ただし首元を手で押さえている。顔色も青白い。よく見れば制服のあちこちも破けて血が滲んでいた。……たぶんアウトだ。

『水野……』

 聞き慣れた声が俺を呼んだ。木刀を床に落として後ろ足で蹴飛ばしてから、通話のボタンを押す。

「おう、沢谷」
『あ……』

 沢谷の目が丸くなる。俺はとりあえず頭をかき回しながら、言った。言ってしまった。

「とりあえず上がれよ。麦茶くらい出してやろう」
『…………うん。それじゃあお言葉に甘えて』

 沢谷が微笑んだ。さすがイケメン、インターホン越しでも絵になるぜ。俺は人差し指で解錠のボタンを押した。指が震えている。早く止まれよと思いながらも、仕方ないよななんて言い訳する。
 俺は自分の手で、招きいれてしまったんだ。
 そう遠くない未来、自分をかみ殺す親友——化け物を。