青春18きっぷ、文学少女の乱読旅行記

 火照った肌を夜風に晒しながら、私は大谿川(おおたにがわ)沿いのベンチに座り、手帳を開いた。

『湯上がりの うなじをなぞる 指先は 志賀直哉より 饒舌なりき』

 さらさらとペンを走らせる。
 その時、「綺麗な歌ですね」と背後から声をかけられた。

 振り返ると、そこには同じく一人旅風の、少し知的な雰囲気を纏った青年が立っていた。
 彼の目は、私のうなじから零れる後れ毛と、ドレスの襟元から覗く鎖骨に、隠しきれない熱を送っている。

「……あ、ありがとうございます。文学部なもので、つい」

 私は、お決まりの「丁寧な標準語」の仮面を被り直す。

 青年は私の隣に座り、お互いの読んでいる本の話を始めた。けれど、私は気づいている。彼の言葉が熱を帯びるたびに、視線が私の「ノーブラ」のドレスへと吸い寄せられていることを。

「城崎の夜は、少し……魔力がありますね」
「そうですね。言葉よりも、肌が感じるものの方が多いかもしれません」

 私はわざと、彼の方へ身体を寄せた。

 ドレス越しに伝わる、柔らかな胸の感触。青年は息を呑み、言葉を失った。
 彼の指先が、私のうなじを、そして背中の開いた部分を、恐る恐るなぞり始める。

(……いいよ。続きは、あなたの指先で書き込んで)

 城崎の夜風が、柳を揺らしている。
 私のアンソロジーに、新しい「恋歌」が刻まれようとしていた。