青春18きっぷ、文学少女の乱読旅行記

 列車が山間部に入ると、トンネルが増えてくる。

 暗闇に入るたび、窓ガラスに自分の姿が映し出される。ポニーテールを揺らし、少しだけ期待に目を輝かせている女子大生。

 けれど、トンネルを抜けて光が差し込むたびに、私の中にあった「都会の装い」が、一枚ずつ脱げ落ちていくような感覚があった。

「あー……喉乾いた。お茶、買っとけばよかったなぁ」

 思わず漏れた言葉は、もう完全な大阪弁だ。

 車内には、ちらほらと乗客が増え始めていた。地元の高校生や、大きなリュックを背負った登山客。彼らを「登場人物」として観察するが、まだ食指は動かない。

 私が求めているのは、もっと「読み応え」のある存在。

 ふと、ドレスの胸元が少し開きすぎていることに気づいた。前の座席の窓に映る自分の谷間。汗で少しだけ光っている。

 私はわざと、窓を開けてみた。

 一気に入れ替わる空気。夏の草いきれと熱気が、冷房の風と混ざり合い、私の肌を執拗になぶる。

「……んっ、ちょっと暑いかも」

 その時だった。
 隣の車両から、一人の青年が歩いてきた。

 この猛暑の中、不釣り合いな黒のリクルートスーツ。手には分厚い資料。眉間に皺を寄せ、何やら必死に読み込んでいる。
 彼は私の斜め向かい、少し離れた場所に座った。

(……見つけた。本日の第一章)

 私は本を読むふりをして、彼をじっくりと「査読」し始めた。