青春18きっぷ、文学少女の乱読旅行記

 夏休みの夜明けは、しらじらとした青さに包まれている。

 午前五時。大阪駅のコンコースは、昨夜の喧騒を綺麗に掃き清めたような静寂の中にあった。

「……暑。まだ五時半やのに、もう空気が重いわ」

 独り言は、いつもの短い大阪弁。

 けれど、窓口で駅員に「青春18きっぷを一枚ください」と告げるときは、背筋を伸ばした丁寧な標準語だ。それが私の正装。

 今日の私は、旅人という名のヒロインを演じる準備ができている。

 ドレスの下には、旅の解放感を先取りして、極薄のシルクのランジェリーを身につけていた。フロントホックのブラジャーは、少し動くだけで胸の重みを艶めかしく主張する。

(一回、深呼吸。ここから先は、私のアンソロジー)

 財布から五円玉を取り出し、ホームの柱にそっと供えた。縁結び、ではない。これから出会う「物語」への、私なりの読書料。

 五時五十五分発、福知山線。

 滑り込んできた車両の冷房が、汗ばんだ鎖骨を撫で、私は小さく身震いした。

「さて……。この夏休み、どんな男(テキスト)に出会えるかな」

 標準語の仮面の裏で、私は「うふふ」と喉を鳴らして笑った。

 ガタゴトと動き出したレールの振動が、座席を通して私のデリケートな場所を密やかに刺激する。

「各駅停車。ゆっくり一頁ずつ、味わって読み進めてあげようやないの」

 私は、まだインクの匂いがする真っ白なきっぷを胸に抱き、ゆっくりと目を閉じた。