青春18きっぷ、文学少女の乱読旅行記

 夕暮れの山陽本線。黄色い車体の普通列車は、ガタゴトと東へ向かって走っていた。

 窓ガラスに映る私の首筋には、蓮見に付けられた赤黒いキスマークが、毒の花のように咲いている。

 ストールでそれを隠しながら、私は手帳を開いた。

 四つ目のスタンプの横に、震える手で万年筆を叩きつけるように文字を刻む。

『四章・惨敗。ミステリの皮を被った暴力。私の装丁は引き裂かれ、読まれる客体へと堕落させられた』

 悔しさに奥歯を噛みしめる。
 手元にある『青春18きっぷ』。
 残されたスタンプ欄は、あと一つ。

(このまま大阪に帰れるわけないやろ……。私が、最後のページを汚されたままで終われるかいな)

 失墜した自尊心を取り戻すためには、次に出会う最後の男を、徹底的に私の物語の生贄にするしかない。

 最も無垢で、最も脆く、私の毒にひとたまりもなく溶けてしまうような、純白のテキスト。

 列車が相生(あいおい)を過ぎ、日没の闇が車窓を塗りつぶした頃。

 乗り継ぎの播州赤穂行きの静まり返った車内で、私はその「獲物」を見つけた。