青春18きっぷ、文学少女の乱読旅行記

 連れてこられたのは、千光寺の裏手にひっそりと佇む、蔦の絡まる古い洋館の廃墟だった。

 立ち入り禁止の錆びた門をくぐり、割れたステンドグラスから木漏れ日が差し込むかつてのサロンへ足を踏み入れる。埃と腐葉土の匂い。眼下には、尾道水道の碧い海と、ミニチュアのような尾道の街並みが一望できた。

「ここなら誰も来ない。風も通る」

 蓮見はカメラを床に置き、私の手首を掴んで壁際へと押し込んだ。

 冷たいコンクリートの感触が、背中の開いた素肌に触れて、小さく悲鳴が漏れる。

「っ……! 乱暴な読者はお断りなんですけど」

「読者? 面白い言い方をするね」
 蓮見の顔が近づく。整った鼻梁、冷ややかな瞳。
 彼の指先が、私のドレスの細い肩紐へと伸びた。

「君、さっきから上品なお嬢様ぶってるけどさ。目の奥に『男を品定めする目』が張り付いてるよ。手慣れてるよね。今まで何人の男を、その標準語の皮の下で転がしてきたわけ?」

 心臓が跳ね上がった。

 見抜かれている。私が男たちを「テキスト」として読み捨ててきた傲慢さを、この男は最初から見透かしていた。

「な……何のことか、わかりま……っ」
「嘘をつくなよ」

 蓮見の大きな手が、私の顎を強引に上向かせ、ドレスの胸元をぐっと引き下げた。
 露わになった白い胸の頂が、夏の熱気と彼の視線に晒されて、キュッと硬くなる。

「君は読者なんかじゃない。自分が一番安っぽいエロ小説のヒロインを演じて、男の欲情を鏡にして自慰してるだけの、ただのふしだらな雌猫だ」

 ――カチリ、と頭の中で何かが切れる音がした。

「……あんた、ええ加減に晒しなはれや」

 私の口から滑り出たのは、低く、濁った、本能の大阪弁だった。

「講釈垂れるんは、抱いてからにせぇよ。東京のインテリ気取りが」

 蓮見の目が、愉悦に細められた。

「ほら、出た。それが君の、本当の『地の文』だ」