軽トラックの荷台で跳ねるたび、真夏の乾いた風が私の髪を激しく乱した。
助手席の窓は全開で、エアコンの代わりに吹き込んでくるのは、熱せられたアスファルトと、濃密な潮の匂い。ハンドルを握る青年の名は、拓海(たくみ)といった。日に焼けて浅黒い横顔、筋張った腕、白いTシャツの袖口から覗く逞しい上腕二頭筋。
「おい、都会のお嬢さん。舌噛むなよ! こっから先は道が悪いからな!」
「大丈夫です! 風が……すごく気持ちいい!」
私は助手席のドアノブを掴みながら、弾むような声で答えた。声のトーンは、完璧な「よそ行き」のソプラノ。育ちの良さそうな女子大生の響き。
けれど、心の中では軽トラのサスペンションが軋むたびに、別の声が歓声を上げていた。
(……うわ、すごい揺れ。内臓ごと全部、夏の熱に引っ繰り返されそうやわ)
連れてこられたのは、観光ポスターにあるようなラクダの歩く砂丘ではなく、そこから少し西へ外れた、地元の人しか知らないという名もなき海岸だった。
視界いっぱいに広がる、暴力的なまでの日本海の青。そして、どこまでも続く白い砂の稜線。遮るものの何一つない太陽が、私たちの頭上から灼熱の光を降り注いでいる。
「すげえだろ。ここなら誰も来ねえよ」
拓海はエンジンを止めると、荷台から手早く敷物を引っ張り出し、砂の上に放り投げた。
私はサンダルを脱ぎ捨て、素足で砂を踏みしめる。熱い。火傷しそうなほどの熱が足の裏から這い上がり、太ももを伝って、下腹の奥をきゅんと締め上げる。
「あつっ……!」
「ほら見ろ、言わんこっちゃねえ」
拓海が笑いながら、私の手首を掴んで敷物の上へと引き寄せた。
引き寄せられた勢いで、私の身体は彼の逞しい胸板へと飛び込む形になる。トン、と鈍い音がして、彼の肌の熱がサマードレス越しに伝わってきた。
汗と、微かな煙草と、男の匂い。都会の電車で嗅ぐ整髪料の匂いとはまるで違う、生きものの匂いが鼻腔をくすぐる。
「……ごめんなさい。足元が、おぼつかなくて」
私は彼を見上げ、わざと潤んだ瞳で唇を小さく開いた。
ドレスの胸元は、さっきの揺れで大きく乱れている。中から覗くのは、鮮やかなスカイブルーのビキニ。白く透き通る私の肌と、彼の浅黒い肌が、至近距離で対比されていた。
拓海の目が、私の鎖骨、そしてビキニの薄い布地を押し上げる胸のふくらみへと落ちる。彼がごくりと喉仏を鳴らすのが、はっきりと見えた。
「……お前、ほんとに一人旅なのかよ。こんな格好して、危ねえだろ」
「危ないですか? 私はただ、海を見たかっただけなのに」
私は甘く囁き、彼のたくましい首筋にそっと指先を滑らせた。
彼の肌は塩を含んで少しざらついていて、私の冷たい指先が触れた瞬間、びくりと大きく跳ねた。
「お兄さんが……私を、守ってくれるんでしょ?」
その一言が、彼の理性という名の最後の留め金を外したのが分かった。
拓海の荒い息が、私の頬にかかる。彼は無言のまま、私の薄いコットンのドレスを肩から滑り落とした。真夏の光の下に、白い肌と水色の水着だけが晒される。
「……すげえ、綺麗だ」
飾りのない、本能の言葉。
彼の大きな手が私の腰を抱き寄せ、唇が重なった。
強引で、けれど痛いほど純粋な口づけ。唇の隙間から入り込んでくるのは、熱い舌と、ほのかな塩の味。波の音が遠雷のように耳の奥で鳴り響き、私は背中に回した腕に力を込めて、彼の逞しい背中を爪でなぞった。
ビキニの細い紐が、彼の不器用な指によって、ひとつ、またひとつと解かれていく。
砂丘の風が、熱い肌の隙間を吹き抜けていく。
(ああ……いい。この男、文法はめちゃくちゃやけど、一文字一文字の圧が凄いわ……)
私は目を閉じ、太陽の眩しさに焼かれながら、野性という名の生々しい頁に身を委ねていった。
助手席の窓は全開で、エアコンの代わりに吹き込んでくるのは、熱せられたアスファルトと、濃密な潮の匂い。ハンドルを握る青年の名は、拓海(たくみ)といった。日に焼けて浅黒い横顔、筋張った腕、白いTシャツの袖口から覗く逞しい上腕二頭筋。
「おい、都会のお嬢さん。舌噛むなよ! こっから先は道が悪いからな!」
「大丈夫です! 風が……すごく気持ちいい!」
私は助手席のドアノブを掴みながら、弾むような声で答えた。声のトーンは、完璧な「よそ行き」のソプラノ。育ちの良さそうな女子大生の響き。
けれど、心の中では軽トラのサスペンションが軋むたびに、別の声が歓声を上げていた。
(……うわ、すごい揺れ。内臓ごと全部、夏の熱に引っ繰り返されそうやわ)
連れてこられたのは、観光ポスターにあるようなラクダの歩く砂丘ではなく、そこから少し西へ外れた、地元の人しか知らないという名もなき海岸だった。
視界いっぱいに広がる、暴力的なまでの日本海の青。そして、どこまでも続く白い砂の稜線。遮るものの何一つない太陽が、私たちの頭上から灼熱の光を降り注いでいる。
「すげえだろ。ここなら誰も来ねえよ」
拓海はエンジンを止めると、荷台から手早く敷物を引っ張り出し、砂の上に放り投げた。
私はサンダルを脱ぎ捨て、素足で砂を踏みしめる。熱い。火傷しそうなほどの熱が足の裏から這い上がり、太ももを伝って、下腹の奥をきゅんと締め上げる。
「あつっ……!」
「ほら見ろ、言わんこっちゃねえ」
拓海が笑いながら、私の手首を掴んで敷物の上へと引き寄せた。
引き寄せられた勢いで、私の身体は彼の逞しい胸板へと飛び込む形になる。トン、と鈍い音がして、彼の肌の熱がサマードレス越しに伝わってきた。
汗と、微かな煙草と、男の匂い。都会の電車で嗅ぐ整髪料の匂いとはまるで違う、生きものの匂いが鼻腔をくすぐる。
「……ごめんなさい。足元が、おぼつかなくて」
私は彼を見上げ、わざと潤んだ瞳で唇を小さく開いた。
ドレスの胸元は、さっきの揺れで大きく乱れている。中から覗くのは、鮮やかなスカイブルーのビキニ。白く透き通る私の肌と、彼の浅黒い肌が、至近距離で対比されていた。
拓海の目が、私の鎖骨、そしてビキニの薄い布地を押し上げる胸のふくらみへと落ちる。彼がごくりと喉仏を鳴らすのが、はっきりと見えた。
「……お前、ほんとに一人旅なのかよ。こんな格好して、危ねえだろ」
「危ないですか? 私はただ、海を見たかっただけなのに」
私は甘く囁き、彼のたくましい首筋にそっと指先を滑らせた。
彼の肌は塩を含んで少しざらついていて、私の冷たい指先が触れた瞬間、びくりと大きく跳ねた。
「お兄さんが……私を、守ってくれるんでしょ?」
その一言が、彼の理性という名の最後の留め金を外したのが分かった。
拓海の荒い息が、私の頬にかかる。彼は無言のまま、私の薄いコットンのドレスを肩から滑り落とした。真夏の光の下に、白い肌と水色の水着だけが晒される。
「……すげえ、綺麗だ」
飾りのない、本能の言葉。
彼の大きな手が私の腰を抱き寄せ、唇が重なった。
強引で、けれど痛いほど純粋な口づけ。唇の隙間から入り込んでくるのは、熱い舌と、ほのかな塩の味。波の音が遠雷のように耳の奥で鳴り響き、私は背中に回した腕に力を込めて、彼の逞しい背中を爪でなぞった。
ビキニの細い紐が、彼の不器用な指によって、ひとつ、またひとつと解かれていく。
砂丘の風が、熱い肌の隙間を吹き抜けていく。
(ああ……いい。この男、文法はめちゃくちゃやけど、一文字一文字の圧が凄いわ……)
私は目を閉じ、太陽の眩しさに焼かれながら、野性という名の生々しい頁に身を委ねていった。


