青春18きっぷ、文学少女の乱読旅行記

 鳥取県に入り、小さな漁港に近い駅で途中下車した。

 次の列車を待つベンチ。隣に座ったのは、日焼けした逞しい腕を持つ青年だった。
 網の手入れを終えたばかりなのか、彼からは潮の香りと、生命力に溢れた野性的な熱が漂っている。

「姉ちゃん、えらい薄着だなぁ。都会の人は暑さに弱いんか?」

 彼の言葉は、飾り気のない、ざらついた地元の言葉。
 今まで出会ってきた「読者」たちとは違う、野性的な響き。

「ええ、大阪はビルばっかりで。こんなに綺麗な海風は吹かないんです」

 私はあえて標準語を崩さず、お淑やかに答える。

 青年は「ガハハ」と笑い、自販機で買った冷たいスポーツドリンクを私の首筋に押し当てた。

「ひゃっ……つめた!」
「ほら、冷やせ。そんな顔赤くしてると、行き倒れるぞ」

 不器用で、暴力的なまでの優しさ。

 彼の指先は魚の鱗や網で少し荒れていて、それが私の柔らかい肌を掠めるたびに、これまでの「インテリ」な男たちにはなかった、原始的な疼きが身体の芯を走った。

「……お兄さん。海、案内してくれませんか? 列車まで、まだ時間あるし」

 私はドレスの胸元を少し緩め、彼を覗き込んだ。

 都会の図書館にはない、一冊の「野性」。

 私は、砂丘へと続く道で、このざらついた文体を全身で味わう決意をしていた。