私×0.5+わたし×0.5=◎


 これは正直に言うべきなのか。
 私にはある癖がある。
 別段それがおかしな事だとは日頃思っていなかったのだが、他人に話してしまうのは少々憚られる。
 肉親にだって話したこと無いのに。

 けれど先生はさあ言ってごらん、というオーラを向け、結局私はそれを口にする事にした。
 ともかく漢字が私の見る世界から消去されてしまった原因を知りたい。

「私、本を読むのが趣味なんです。それでベッドに入って寝る直前になると、必ずその日読んだ本の内容を自分が主人公になって、頭の中で再現するんです。物語の最初から結末まで」

 言っているうちに情けなくて悲しくなってきた。
 周りの同級生たちは、普通に恋バナをして、普通にSNSで繋がり、普通に志望校を決めていく。
 それなのに私は、進路希望票を白紙のまま提出できず、17歳のくせに達観したふりをして現実から逃げ、母にすがり付いて泣きわめく、ちょっとした妄想癖のある漢字が読めない人間。
 学校に行けず三日も休み、読書以外の趣味が無い為、猫を膝に抱えてひがな一日窓の外の枯葉の様子を観察している。
 これって、人間として落第なんじゃないの。

「ううううううう」

 堪えきれず、嗚咽を漏らした。
 先生がティッシュの箱を寄せてくれる。
「サノさん」もこれを使用したのだろうか。

「もうやだ、こんなの。せんせいわたしをなおしてください。かんじがよめないとほんもよめないし、べんきょうもできないし、みんなとおなじふつうのせいかつができない」

 みんなと同じ、普通の人生を歩めなくなるのが怖い。

 先生はペンを走らせながら頷く。

「大丈夫、絶対治るから」

「ほんとですか。なんでわたしこんなふうになってしまったんですが。もうなさけなくてなさけなくて」

 消えたい。
 私の言葉に、先生は一瞬だけ難しい顔をした。
 そして引き出しをあけて、とある薬を見せた。

「これね、そういう幻覚っていうのかな。アナタの場合は少し色々重なって難しいから――本当はこれ統合失調症の薬だけど、欝の人でも飲んでいるから。一回試しに飲んでみようか」

 とうごうしっちょうしょうって何だ。
 私はそんな言葉を初めて聞いたのだが、薬が出るという事は、やはり原因があったのだと思い、少し冷静になる。

「液体状になっていて、ちょっと苦いんだけどね。飲みにくかったらお水に溶かして寝る前に飲んでね。お茶は麦茶で飲むなら大丈夫」

 何で麦茶なら大丈夫なのか。

「それと、同じように寝つきが良くなるお薬も出しておくね。今何か飲んでいる薬ってあるかな?」

 言われて私は、頻繁にお腹を壊すため愛用している整腸剤の名前と、偏頭痛が酷いと一日に三回くらい鎮痛剤を飲んでいることを伝えた。

「それは両方とも飲んで大丈夫。頭が痛いのは辛いもんね」

「はい……で、三日学校を休んでしまっているのですが、月曜までに治りますかね」

 そして先生の宣告に、私は衝撃を受けた。

「たぶん学校は暫く休んだほうが良いよ。休学の手続き、お母さんと相談できるでしょう? ゆっくり休養を取るのが今は大切」

「え……」

「診断書が必要だったら書いておくけどどうする?」

「えーっと……」

 突然、降ってきた大きめの雹に、後頭部をがつがつ削られたような感覚がする。

「責任感とか強い人って、結構なるから。普通じゃなきゃいけないって思い詰めちゃったんだね」

 いやいやいや。本当ですか、診断書は保険が効かないからそんなこと言っているんじゃないのか、と人の良さそうな笑顔を向ける先生を一瞬だけ疑いながらも、そんな事は言えず「お願いします」と結局、答えた。