死にたがり

 朝から、よく晴れた日だった。空いっぱいに群青が広がっている。朝の光が、校舎の壁を照らしている。足元に、伸びている自分の影。細く長く伸びたそれは、常に私に付いてくる。私が歩けば影も歩く。私が立ち止まれば影も止まる。ごく当たり前のこと。私は少しだけ自分の影を眺めた。いつからここにあったんだろうか。たぶん、生まれてからずっと。知ったのは今よりずっと前。昨日も。一昨日も。もっと前からここにあった。なのに、気にしたことなんてほとんどなかった。
「西本。」
声がして、顔を上げると、いつもの青柳くんがいた。
「おはよ。」
「おはよう。」
「何見てんの?」
「……影。」
「影?」
青柳くんが足元を見て笑った。
「あるじゃん。」
「うん。」
「当たり前じゃん。」
「……そうだね。」
青柳くんは先に歩き出した。彼の足元にも、影はある。私はその隣を歩いた。二つの影が並んで伸びる。私はふと、昨日のことを思い出した。青柳くんが言ったこと。笑っているときは、本当に楽しい。でも、それだけで全部平気なわけじゃない。その二つは、きっと矛盾しない。楽しい気持ちと、苦しい気持ち。笑っている自分と、笑えない自分。誰かといる自分と、一人になったときの自分。どちらかが嘘なのではなくて。どちらも、その人なのだ。
「西本、ぼーっとしてた?」
「ちょっとだけ。」
「珍しい。」
「青柳くんだって、よくぼーっとしてるじゃん。」
「俺はいつもだからいいんだよ。」
「何それ。」
また笑う。校舎へ近づく。光の角度が変わって、足元の影が短くなる。さっきまで長かったはずなのに。でも、消えたわけじゃない。ただ、見え方が変わっただけ。私はそれを見つめる。もしかしたら悩みも、同じなのかもしれない。ずっとそこにあるものを。私たちは、いつも見ているわけじゃない。見ないふりをしているわけでもない。ただ、そこにあることが当たり前で、気づかないだけなのかもしれない。だから、誰かの影が見えないからといって、その人に影がないわけではない。建物の影に隠れているだけかもしれない。影が見えないように、自分自身を一生懸命に照らしているのかもしれない。そして、自分の影に気づいたからといって、
それだけで、何かがおかしいわけでもないし、いきなり何かを変える必要もない。私はそんなことを考えながら、校舎に入った。