「桃山先生、なんかプレイの描写上手くなりました?」
編集の木村さんと通話を繋ぎながら漫画制作作業中、そう言われたのは竜也と付き合ってから一ヶ月が立つ頃。
「そうですかね?」
「いや絶対そうですよ!やっぱり……」
「え?」
「あの取材のおかげですかね?」
一瞬、竜也と付き合っていることがバレたのかと思ってびっくりしたが、違うと分かってホッと胸を撫で下ろす。
「かもですね……」
(そもそも、僕たちは付き合っているのか?)
行為は何度か重ねているし、デートももちろんするし、手繋ぐし、キスもする。しかし、竜也から付き合おうとか言われてない気がして改めてそう考えるとなんだかソワソワしてきた。
(この状況で付き合ってないとかあるか?)
しかし、明確な答えをもらってない以上、可能性がゼロとは言い難い。悶々としながら手を動かしていると、スマホが着信を知らせた。
「あ、ちょっと電話かかってきたんで切りますね」
「はい!」
着信の主は竜也だった。なんの用だろう。
「もしもし?」
「あ、もしもし、太郎さん?今週のことなんだけど……」
「ああ、水族館行くって話ね、なんかあった?」
なんだか、嫌な予感がする。
「行けなくなった……本当にごめん!埋め合わせはするから!」
「あ、そうなんだ……なんかあるの?」
嫌な予感が的中して楽しみだったデートがなしになってしまった。
「いや、急に親が予定入れてきてさ……ごめんね……」
「大丈夫!親御さんは大事だもんね」
「あっ、じゃあ俺仕事戻るから」
「うん、またね」
また、と言って電話が切れた。仕方ない、仕方ないのは分かっているが、悲しいという感情が襲ってくるのを止められない。
「はぁ〜」
机に顔を伏せながら色々と頭を巡らせてみた。
(もし、明確に付き合ってたら親よりも優先されるのかな……いや、それはないか……僕だって同じ状況になったら親の方を優先しそうだし……)
「ああ!もう〜!」
悩みすぎて頭の中にモヤがかかるようだ。かくなる上はあの子に相談するしか……。
───────────
後日、茉白ちゃんのお店が店休日の時に相談したいことがある、と連絡をしたら二つ返事で駆けつけてくれた。
「お兄、またなんか迷惑かけてないですか?」
茉白ちゃんはお兄さんの話だと分かると、心配そうな顔でこちらを見つめてきた。
「いや、それは大丈夫なんだけど……竜也、僕のことに関して最近何か言ってなかった?」
「へぇ〜安土さん、お兄のこと竜也って呼んでるんだ!」
茉白ちゃんが恋バナをするようなテンションでキャッキャッと盛り上がる。しかし、かつての僕が恋をしていた子に今の恋人の相談をするなんて、しかもそれがこの子のお兄さんだなんて、人生は本当に何があるか分からない。
「あ!で、本題ですよね……う〜ん、最近のお兄の話は安土さんの惚気ばかりなんですよね〜」
「そ、そうなんだ……」
そんなことを聞いて恥ずかしいやら、嬉しいやらで胸中複雑な模様になってしまった。
「安土さん、何か悩んでるんですか?」
「う、うん……大したことじゃないんだけど……」
茉白ちゃんの真剣な面持ちを見ると、話してもいいような雰囲気だったので素直に気持ちを打ち明けた。
「えっ!お兄も安土さんもまだ告白してないんですか!?」
「そうなんだよね……僕から言おうにもタイミングも言い方も分からなくて……」
「なるほど……でも、告白してなくてここまで仲が良いなら……なんかそれはそれで絆……みたいなのが、強い気がしますね!」
「そう、かな?」
絆が強い、と言われて案外、告白しないのも良いのかもな……なんて、都合のいいことを思う僕であった。
「あたし、お兄と安土さんのこと応援してるんで!何かあったらまた相談してください!」
そう言って茉白ちゃんと別れた。そう言えば、今日は元々竜也と水族館に行く日だったな、と思い返した。
(竜也……今何してるんだろ)
竜也に想いを馳せながら今日は暇なので少し、街をぶらぶらしようと商店街の方へと向かった。
買わなきゃいけない物があったのを思い出したので日用品を買ってスーパーから外へ出ると、見慣れた背中が歩いているのを見かけた。
(あれ……?竜也?)
何をしているのかと、眺めていると、隣には親ではなさそうな清楚っぽい女の人がいた。
(え……?今日親と用事があるって……)
不安になって後をつけた。女の人の方は後ろ姿しか見えないが、なんだかベタベタして仲が良さそうだ。
(何なんだよ……)
母親かとも思ったが、明らかに恋人のような距離感だし、行く店行く店、デートのようなラインナップで完全に浮気としか思えない。
(僕とは所詮、遊びだったのか……)
がっかり、とか悲しい、とか怒り、とかを通り越して納得の感情すら浮かんできて家に帰ろうと、踵を返した。
「あれ?太郎さん?」
「……!?」
頭上から声がしてゆっくりと振り返ると、さっきの女の人と一緒にいる竜也が僕を見ていた。
「え……何で泣いてるの?」
竜也に言われて気づいたが、頬には生ぬるい雫が滴っていた。
「お前のせいじゃん……」
「え?なんで?俺のせいってどういうこと?」
「もういい!お前なんか嫌いだ!」
「ま、待って!」
勢い任せに走り出すが、追いかけてきた竜也により、手首を掴まれてそこに留まることになってしまった。
「どうしたの?太郎さん!ちゃんと話して?」
「浮気野郎に話すこととかない」
「浮気?なに?……ああ!あれ母さんだよ!」
「嘘……嘘言うな!あんな若いお母さんいるわけないだろ!」
「じゃあ、写真見せるよ!……これ、はい」
竜也からスマホを渡されて見せられたのはさっきの女の人によく似た人と子供時代の竜也と茉白ちゃんらしき幼い兄妹の写真。
「え……これ……」
「母さん!こっち来て!ほら、似てるでしょ?」
キョトン顔の女の人……基、竜也母とスマホの画面を見比べると、確かに同一人物だった。
「もう〜ほんと……!うちの竜也が何か迷惑かけたりしてないかしら?」
そう言うお母さんの口調は数時間前に会ったばかりの茉白ちゃんの口ぶりそっくりで血は争えないな、と思った。
「いや……全然!こちらこそ見苦しい姿をお見せしてすみません……」
「いや〜いいのよ?もうドラマ見てるみたいで私興奮しちゃった!」
「母さん!」
「あら!ごめんなさいね?それで二人はお付き合いしてるの?」
「え、えっと……」
寛容なお母さんで良かった、と思う反面、早速痛いところを突かれて少しドギマギしてしまう。
「してるよ」
「え?」
「あら、いいじゃない〜」
「この場を借りて言う、太郎さん、好きです、愛してます、俺とずっと一緒にいてください」
「た、竜也……!」
急にプロポーズのようなことを言い出す、竜也。お母さんは女子高生のようにはしゃいでいるし、僕はめちゃくちゃ泣きそうだ。もちろん、嬉しくて。
「あらあらあら、まぁ〜プロポーズ?」
「太郎さん、返事は?」
「……僕で良ければ……!」
緊張した面持ちで尋ねてくる竜也だが、僕の返事はもちろんイエスだ。出会いからはありえないくらいにもう、竜也じゃないとダメになってしまったのだから、責任取ってくれないと困る。
「ちょ、ちょっと太郎さん泣かないでよ」
「だ、だって……!」
「もう!いいところ見せてもらっちゃったわね!あら、じゃあ、二人の新居とか探さなきゃじゃない?」
僕たちよりも喜んでるし、僕たちよりも先を考えてくれているお母さん。やっぱり母は強し、ということだろうか。
「あ、確かに」
「そうよね?あんた、いつまでも茉白の部屋には住んでられないのよ?」
「分かってるって!」
お母さんと竜也の会話を見て兄妹だけじゃなく、この家族は暖かいな、と思う。そして、竜也ともそういう家族になりたい、と思うのだった。
────────────
あれから季節は巡り、あっという間に四月。新生活シーズンに差し掛かる直前、新居を決めた我々は引っ越し後の荷解き作業に追われていた。
「あ!これ見て、懐かしい!」
「なになに?ああ、これね、俺達が出会ったときに俺が太郎さんを縛った縄!」
「あの時マジで焦ったな〜」
「だって、編集の方いるのに太郎さん興奮してるんだもん!」
「しょうがないじゃん?竜也の縛り方は上手いから」
「ふふ、ありがとう」
思い出の品や、新生活に必要な新しい物を見て笑い合っていると、あっという間に時間が過ぎていく。僕たちはこれからもこうして二人だけの時間をいつまでもいつまでも大切に縛り付けておくのだろう。
-END-
編集の木村さんと通話を繋ぎながら漫画制作作業中、そう言われたのは竜也と付き合ってから一ヶ月が立つ頃。
「そうですかね?」
「いや絶対そうですよ!やっぱり……」
「え?」
「あの取材のおかげですかね?」
一瞬、竜也と付き合っていることがバレたのかと思ってびっくりしたが、違うと分かってホッと胸を撫で下ろす。
「かもですね……」
(そもそも、僕たちは付き合っているのか?)
行為は何度か重ねているし、デートももちろんするし、手繋ぐし、キスもする。しかし、竜也から付き合おうとか言われてない気がして改めてそう考えるとなんだかソワソワしてきた。
(この状況で付き合ってないとかあるか?)
しかし、明確な答えをもらってない以上、可能性がゼロとは言い難い。悶々としながら手を動かしていると、スマホが着信を知らせた。
「あ、ちょっと電話かかってきたんで切りますね」
「はい!」
着信の主は竜也だった。なんの用だろう。
「もしもし?」
「あ、もしもし、太郎さん?今週のことなんだけど……」
「ああ、水族館行くって話ね、なんかあった?」
なんだか、嫌な予感がする。
「行けなくなった……本当にごめん!埋め合わせはするから!」
「あ、そうなんだ……なんかあるの?」
嫌な予感が的中して楽しみだったデートがなしになってしまった。
「いや、急に親が予定入れてきてさ……ごめんね……」
「大丈夫!親御さんは大事だもんね」
「あっ、じゃあ俺仕事戻るから」
「うん、またね」
また、と言って電話が切れた。仕方ない、仕方ないのは分かっているが、悲しいという感情が襲ってくるのを止められない。
「はぁ〜」
机に顔を伏せながら色々と頭を巡らせてみた。
(もし、明確に付き合ってたら親よりも優先されるのかな……いや、それはないか……僕だって同じ状況になったら親の方を優先しそうだし……)
「ああ!もう〜!」
悩みすぎて頭の中にモヤがかかるようだ。かくなる上はあの子に相談するしか……。
───────────
後日、茉白ちゃんのお店が店休日の時に相談したいことがある、と連絡をしたら二つ返事で駆けつけてくれた。
「お兄、またなんか迷惑かけてないですか?」
茉白ちゃんはお兄さんの話だと分かると、心配そうな顔でこちらを見つめてきた。
「いや、それは大丈夫なんだけど……竜也、僕のことに関して最近何か言ってなかった?」
「へぇ〜安土さん、お兄のこと竜也って呼んでるんだ!」
茉白ちゃんが恋バナをするようなテンションでキャッキャッと盛り上がる。しかし、かつての僕が恋をしていた子に今の恋人の相談をするなんて、しかもそれがこの子のお兄さんだなんて、人生は本当に何があるか分からない。
「あ!で、本題ですよね……う〜ん、最近のお兄の話は安土さんの惚気ばかりなんですよね〜」
「そ、そうなんだ……」
そんなことを聞いて恥ずかしいやら、嬉しいやらで胸中複雑な模様になってしまった。
「安土さん、何か悩んでるんですか?」
「う、うん……大したことじゃないんだけど……」
茉白ちゃんの真剣な面持ちを見ると、話してもいいような雰囲気だったので素直に気持ちを打ち明けた。
「えっ!お兄も安土さんもまだ告白してないんですか!?」
「そうなんだよね……僕から言おうにもタイミングも言い方も分からなくて……」
「なるほど……でも、告白してなくてここまで仲が良いなら……なんかそれはそれで絆……みたいなのが、強い気がしますね!」
「そう、かな?」
絆が強い、と言われて案外、告白しないのも良いのかもな……なんて、都合のいいことを思う僕であった。
「あたし、お兄と安土さんのこと応援してるんで!何かあったらまた相談してください!」
そう言って茉白ちゃんと別れた。そう言えば、今日は元々竜也と水族館に行く日だったな、と思い返した。
(竜也……今何してるんだろ)
竜也に想いを馳せながら今日は暇なので少し、街をぶらぶらしようと商店街の方へと向かった。
買わなきゃいけない物があったのを思い出したので日用品を買ってスーパーから外へ出ると、見慣れた背中が歩いているのを見かけた。
(あれ……?竜也?)
何をしているのかと、眺めていると、隣には親ではなさそうな清楚っぽい女の人がいた。
(え……?今日親と用事があるって……)
不安になって後をつけた。女の人の方は後ろ姿しか見えないが、なんだかベタベタして仲が良さそうだ。
(何なんだよ……)
母親かとも思ったが、明らかに恋人のような距離感だし、行く店行く店、デートのようなラインナップで完全に浮気としか思えない。
(僕とは所詮、遊びだったのか……)
がっかり、とか悲しい、とか怒り、とかを通り越して納得の感情すら浮かんできて家に帰ろうと、踵を返した。
「あれ?太郎さん?」
「……!?」
頭上から声がしてゆっくりと振り返ると、さっきの女の人と一緒にいる竜也が僕を見ていた。
「え……何で泣いてるの?」
竜也に言われて気づいたが、頬には生ぬるい雫が滴っていた。
「お前のせいじゃん……」
「え?なんで?俺のせいってどういうこと?」
「もういい!お前なんか嫌いだ!」
「ま、待って!」
勢い任せに走り出すが、追いかけてきた竜也により、手首を掴まれてそこに留まることになってしまった。
「どうしたの?太郎さん!ちゃんと話して?」
「浮気野郎に話すこととかない」
「浮気?なに?……ああ!あれ母さんだよ!」
「嘘……嘘言うな!あんな若いお母さんいるわけないだろ!」
「じゃあ、写真見せるよ!……これ、はい」
竜也からスマホを渡されて見せられたのはさっきの女の人によく似た人と子供時代の竜也と茉白ちゃんらしき幼い兄妹の写真。
「え……これ……」
「母さん!こっち来て!ほら、似てるでしょ?」
キョトン顔の女の人……基、竜也母とスマホの画面を見比べると、確かに同一人物だった。
「もう〜ほんと……!うちの竜也が何か迷惑かけたりしてないかしら?」
そう言うお母さんの口調は数時間前に会ったばかりの茉白ちゃんの口ぶりそっくりで血は争えないな、と思った。
「いや……全然!こちらこそ見苦しい姿をお見せしてすみません……」
「いや〜いいのよ?もうドラマ見てるみたいで私興奮しちゃった!」
「母さん!」
「あら!ごめんなさいね?それで二人はお付き合いしてるの?」
「え、えっと……」
寛容なお母さんで良かった、と思う反面、早速痛いところを突かれて少しドギマギしてしまう。
「してるよ」
「え?」
「あら、いいじゃない〜」
「この場を借りて言う、太郎さん、好きです、愛してます、俺とずっと一緒にいてください」
「た、竜也……!」
急にプロポーズのようなことを言い出す、竜也。お母さんは女子高生のようにはしゃいでいるし、僕はめちゃくちゃ泣きそうだ。もちろん、嬉しくて。
「あらあらあら、まぁ〜プロポーズ?」
「太郎さん、返事は?」
「……僕で良ければ……!」
緊張した面持ちで尋ねてくる竜也だが、僕の返事はもちろんイエスだ。出会いからはありえないくらいにもう、竜也じゃないとダメになってしまったのだから、責任取ってくれないと困る。
「ちょ、ちょっと太郎さん泣かないでよ」
「だ、だって……!」
「もう!いいところ見せてもらっちゃったわね!あら、じゃあ、二人の新居とか探さなきゃじゃない?」
僕たちよりも喜んでるし、僕たちよりも先を考えてくれているお母さん。やっぱり母は強し、ということだろうか。
「あ、確かに」
「そうよね?あんた、いつまでも茉白の部屋には住んでられないのよ?」
「分かってるって!」
お母さんと竜也の会話を見て兄妹だけじゃなく、この家族は暖かいな、と思う。そして、竜也ともそういう家族になりたい、と思うのだった。
────────────
あれから季節は巡り、あっという間に四月。新生活シーズンに差し掛かる直前、新居を決めた我々は引っ越し後の荷解き作業に追われていた。
「あ!これ見て、懐かしい!」
「なになに?ああ、これね、俺達が出会ったときに俺が太郎さんを縛った縄!」
「あの時マジで焦ったな〜」
「だって、編集の方いるのに太郎さん興奮してるんだもん!」
「しょうがないじゃん?竜也の縛り方は上手いから」
「ふふ、ありがとう」
思い出の品や、新生活に必要な新しい物を見て笑い合っていると、あっという間に時間が過ぎていく。僕たちはこれからもこうして二人だけの時間をいつまでもいつまでも大切に縛り付けておくのだろう。
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