春光麗らかなその季節に僕は出逢った。暗い僕の心にさした一筋の希望。今年の四月に僕の部屋の隣へ引っ越してきた白ギャルの苗字は、蛇沼というらしい。彼女はまさに僕のタイプ。そんな彼女を一目見ようと、今日も僕は蛇沼ちゃんの帰宅時間に合わせてマンション下の自販機に飲み物を買いに行こうと、外へ出た。すると、蛇沼ちゃんの部屋の外に男が立っているではないか。反射的にそいつの顔を見ると、ジロッと睨まれたのでびっくりして部屋の中に戻ってきてしまった。ちょうど、僕が引っ込んだ数秒後に彼女が帰ってきたのか、きゃっきゃしながら部屋の中に入っていく音がした。
(失恋した……完全に失恋した)
僕は玄関にずるずると座り込んで膝を抱え込み、少しだけ泣くのだった。
しばらく、そのまま動けずに感傷に浸っていた僕の元に編集者からメールが届いた。
[桃山先生!漫画の解像度を上げるために緊縛師さんのところへ取材に行きませんか?]
僕、実は桃山太郎(本名が安土太郎なので)という名前でエロ漫画家をやっているのだが、担当編集者が凄く優しい人で色んな経験をさせてもらっているおかげで界隈では結構、名が売れて来た。しかし、こんな時に取材の話を持ってくるなんてタイミングが悪すぎる。今は失恋のショックでどこにも行きたくないというのに。
[行きたくないです]
なので、申し訳ないが断りを入れさせてもらった。今後一週間は外に出ず、漫画に集中することにしよう。
[本当ですか。残念だな……その緊縛師さん、綺麗な女性なのに。]
[行きます]
───────────
「もう〜なんで事前に今日担当の緊縛師が変わったって教えてくれなかったんですか?」
それは緊縛師がいるスタジオに行く途中に知らされたバッドニュースだった。どうやら、今日取材予定だった女性の緊縛師が体調不良で来れなくなったらしく、急遽、男性に代打を頼んだというのだ。
「それが……今日、体調が悪くなってしまったんです……」
「そんなことなら行かなかったですよ……」
「まあまあ、そう言わずに!」
「まあ、流石に行きますけど……」
「はい、ここ曲がったらもうすぐなので!」
調子いいなあ……と、思いつつ、決して軽くはない足取りでスタジオへ向かった。外見から小綺麗なスタジオに入ると、身長の高い男性の背中が立っているのが見える。その背中はどうも、見たことあるような気がしてならなかった。
(あの背中、もしかして……!?)
「……あっ、今日取材の方々ですよね?」
見たことある背中がパッと振り向くと、やはり先日蛇沼ちゃんの部屋に入っていった彼氏(恐らく)だった。
(やっぱり……!この目つきの悪さ……あいつだ!)
「どうも〜今日、取材させていただく編集者の木村です〜、ほら!桃山先生も挨拶して……!」
「……桃山太郎です……」
俺は極めて不機嫌に小さな声で目を逸らしながら挨拶をした。印象が悪いのは分かっているが、僕はライバル(という割には負けきっているが)に元気良く挨拶するための愛嬌は持ち合わせていない。
「どうも、緊縛師の蛇沼竜也です」
(ん?蛇沼……?名字が蛇沼……?)
「早速、説明からさせていただきますね」
蛇沼が説明している間も僕の思考は止まらなかった。名字が同じ、なんて恋人同士でありえるのだろうか。まあ、ないこともないだろうが、その場合どのくらいの確率で起こることなのだろう。ていうことは……。
(ていうことは、彼氏じゃない!この人は蛇沼ちゃんのお兄さんだ……!絶対!)
「……と、説明はこのくらいにしてどちらか縛られてみますか?」
心の中で勝利のガッツポーズを決めていると、説明が終わったようで蛇沼がこちらに話を振ってきた。
「はい!僕!縛られてみたいです!」
僕は蛇沼ちゃんのお兄さんに気に入られたい一心で勢い良く手を上げ、立候補した。さっきのテンションの差で若干場が引いている気がするが、そんなことは関係ない。とにかく、お兄さんに気に入られて蛇沼ちゃんをゲットするのだ。
「あ、じゃあこちらへ」
蛇沼の横に赤い座布団が敷いてあって僕はそこへ誘導された。素直にそこへ正座すると、蛇沼が手際良く僕を赤い麻縄で縛っていく。数分後にはもう、完全に身動きが取れなくなっていた。僕はマゾなので少し気持ち良くなってきて頭がふわふわした状態で蛇沼の顔を見た。
(ひぃ……!?)
すると、なぜか蛇沼は僕を見て元々の目つきの悪さをさらに悪くしてジロジロと見てくる。明らかに顔が怖い。何か作法が間違っていたのだろうか。僕は完全に蛇に睨まれた蛙状態で怖いのに、マゾ気質が災いしてさらにゾクゾクしてしまっていた。
「桃山先生!縛られた感想は!?」
この状況で唯一呑気な木村さんが僕に感想を求めてくるが、そんなの言える状況じゃない。
「……わ、悪くない……です」
(何言ってんだ僕!)
もう、頭も回ってない、下半身の方もそろそろやばい、お兄さんには睨まれている、という最悪の状況で何が悪くないです、なんだよ。そんな緊迫した状況の中、誰かの携帯の着信が鳴り響いた。
「あ、すみません……電話出ま〜す」
その携帯の主は未だ、呑気な木村さんだ。木村さんが電話している間、蛇沼が静かに僕の縄を解いてくれていてその優しい手付きはまさにプロ、という感じで僕は本当に悪くなかった体験だと思った。
「あの、すみません……桃山先生、ちょっと編集長に呼び出されちゃって……お先に帰りますね……!蛇沼さんも今日はありがとうございました!では!」
「ちょ、ちょっと、木村さん……!?」
挨拶だけしてそそくさと、帰っていった木村さん。完全にキレられている僕とキレている蛇沼。この状況で二人きりはまずい。本当にまずい。
「あ、えっ……じゃあ、僕も帰りま……っ!?」
なんとか、この場から去ろうと足を出口の方へ運ぼうとするが、蛇沼に肩を掴まれてそれは叶わなかった。
「え、えっと……なんでしょう……?」
「今のままだと、辛くないですか?」
肩を掴まれたまま、僕は隣を見上げると、蛇沼は貼り付けたような笑顔で僕を見下ろしていた。
(そ、それどういう意味!?このまま生きてても辛いからこ、ころ……!?)
「あ、え、えと……」
「トイレ、行きましょうか」
(み、水責め!?)
ろくに言葉も出ないまま手首を握られて、強制的にトイレへ連れて行かれている僕。ああ、もうここで終わりなのか。もっと、漫画描きたかったな……とか、童貞捨ててみたかったな……とか、そのようなことを考えているうちにトイレの個室へ詰め込まれる。
「すぐ終わるので、目瞑っててください」
(死ぬのこえー……)
とか思いながら足をガクガク震わせていると、後ろに立っている蛇沼がなぜか僕の股間に手を伸ばしてきた。
「え、え?」
蛇沼の謎行動に困惑していると、あれよあれよという間にズボンも下着も脱がされて下半身を丸出しにさせられた。そして、未だ萎えないモノを優しく手で包み込まれてそのまましごかれる。
「あっ、だめだめ……!」
僕が制止の声を上げるも、蛇沼は手を止める気配がなかった。
「ん、っイクっ……」
抵抗虚しく、まんまとイカされてしまった僕は賢者タイムで膨大な思考が頭を巡っていた。
(今、何が起こった……!?え……?もしかして、僕好きな人のお兄さんに抜いてもらった……?)
なぜ、こんなことに……!?考えても仕方のないことが頭を占めていてほぼ思考停止のような状態になってしまった。
「そう言えば、桃山太郎さんってお隣の安土さん……ですよね?」
「え……!?」
やっと、思考停止状態を抜け出して蛇沼の方に向き直ると、今一番気づかれたくないことに触れられてしまう。
「そ、そうです……かね?」
「やっぱり!俺、安土さんが住んでる隣の者の兄なんですけど、先週くらいから家がなくなってしまって……妹の家に居候させてもらってるんです」
「そ、そうなんですね……?」
なぜ、僕達はトイレの中でこんな会話を……?というか、なぜ、蛇沼は普通に喋れるんだ。他人のを抜いたあとだぞ。
「なので、色々とよろしくお願いします……ね?」
(ひ、ひぃ〜〜!!)
念を押す、みたいに顔を近づけられて、迫られたので足をもつれさせながらだが、なんとかあの場から逃げてきた。帰路につきながら色んなことを考えるが、とりあえず今はこれしか思えなかった。
「引っ越そ……」
(失恋した……完全に失恋した)
僕は玄関にずるずると座り込んで膝を抱え込み、少しだけ泣くのだった。
しばらく、そのまま動けずに感傷に浸っていた僕の元に編集者からメールが届いた。
[桃山先生!漫画の解像度を上げるために緊縛師さんのところへ取材に行きませんか?]
僕、実は桃山太郎(本名が安土太郎なので)という名前でエロ漫画家をやっているのだが、担当編集者が凄く優しい人で色んな経験をさせてもらっているおかげで界隈では結構、名が売れて来た。しかし、こんな時に取材の話を持ってくるなんてタイミングが悪すぎる。今は失恋のショックでどこにも行きたくないというのに。
[行きたくないです]
なので、申し訳ないが断りを入れさせてもらった。今後一週間は外に出ず、漫画に集中することにしよう。
[本当ですか。残念だな……その緊縛師さん、綺麗な女性なのに。]
[行きます]
───────────
「もう〜なんで事前に今日担当の緊縛師が変わったって教えてくれなかったんですか?」
それは緊縛師がいるスタジオに行く途中に知らされたバッドニュースだった。どうやら、今日取材予定だった女性の緊縛師が体調不良で来れなくなったらしく、急遽、男性に代打を頼んだというのだ。
「それが……今日、体調が悪くなってしまったんです……」
「そんなことなら行かなかったですよ……」
「まあまあ、そう言わずに!」
「まあ、流石に行きますけど……」
「はい、ここ曲がったらもうすぐなので!」
調子いいなあ……と、思いつつ、決して軽くはない足取りでスタジオへ向かった。外見から小綺麗なスタジオに入ると、身長の高い男性の背中が立っているのが見える。その背中はどうも、見たことあるような気がしてならなかった。
(あの背中、もしかして……!?)
「……あっ、今日取材の方々ですよね?」
見たことある背中がパッと振り向くと、やはり先日蛇沼ちゃんの部屋に入っていった彼氏(恐らく)だった。
(やっぱり……!この目つきの悪さ……あいつだ!)
「どうも〜今日、取材させていただく編集者の木村です〜、ほら!桃山先生も挨拶して……!」
「……桃山太郎です……」
俺は極めて不機嫌に小さな声で目を逸らしながら挨拶をした。印象が悪いのは分かっているが、僕はライバル(という割には負けきっているが)に元気良く挨拶するための愛嬌は持ち合わせていない。
「どうも、緊縛師の蛇沼竜也です」
(ん?蛇沼……?名字が蛇沼……?)
「早速、説明からさせていただきますね」
蛇沼が説明している間も僕の思考は止まらなかった。名字が同じ、なんて恋人同士でありえるのだろうか。まあ、ないこともないだろうが、その場合どのくらいの確率で起こることなのだろう。ていうことは……。
(ていうことは、彼氏じゃない!この人は蛇沼ちゃんのお兄さんだ……!絶対!)
「……と、説明はこのくらいにしてどちらか縛られてみますか?」
心の中で勝利のガッツポーズを決めていると、説明が終わったようで蛇沼がこちらに話を振ってきた。
「はい!僕!縛られてみたいです!」
僕は蛇沼ちゃんのお兄さんに気に入られたい一心で勢い良く手を上げ、立候補した。さっきのテンションの差で若干場が引いている気がするが、そんなことは関係ない。とにかく、お兄さんに気に入られて蛇沼ちゃんをゲットするのだ。
「あ、じゃあこちらへ」
蛇沼の横に赤い座布団が敷いてあって僕はそこへ誘導された。素直にそこへ正座すると、蛇沼が手際良く僕を赤い麻縄で縛っていく。数分後にはもう、完全に身動きが取れなくなっていた。僕はマゾなので少し気持ち良くなってきて頭がふわふわした状態で蛇沼の顔を見た。
(ひぃ……!?)
すると、なぜか蛇沼は僕を見て元々の目つきの悪さをさらに悪くしてジロジロと見てくる。明らかに顔が怖い。何か作法が間違っていたのだろうか。僕は完全に蛇に睨まれた蛙状態で怖いのに、マゾ気質が災いしてさらにゾクゾクしてしまっていた。
「桃山先生!縛られた感想は!?」
この状況で唯一呑気な木村さんが僕に感想を求めてくるが、そんなの言える状況じゃない。
「……わ、悪くない……です」
(何言ってんだ僕!)
もう、頭も回ってない、下半身の方もそろそろやばい、お兄さんには睨まれている、という最悪の状況で何が悪くないです、なんだよ。そんな緊迫した状況の中、誰かの携帯の着信が鳴り響いた。
「あ、すみません……電話出ま〜す」
その携帯の主は未だ、呑気な木村さんだ。木村さんが電話している間、蛇沼が静かに僕の縄を解いてくれていてその優しい手付きはまさにプロ、という感じで僕は本当に悪くなかった体験だと思った。
「あの、すみません……桃山先生、ちょっと編集長に呼び出されちゃって……お先に帰りますね……!蛇沼さんも今日はありがとうございました!では!」
「ちょ、ちょっと、木村さん……!?」
挨拶だけしてそそくさと、帰っていった木村さん。完全にキレられている僕とキレている蛇沼。この状況で二人きりはまずい。本当にまずい。
「あ、えっ……じゃあ、僕も帰りま……っ!?」
なんとか、この場から去ろうと足を出口の方へ運ぼうとするが、蛇沼に肩を掴まれてそれは叶わなかった。
「え、えっと……なんでしょう……?」
「今のままだと、辛くないですか?」
肩を掴まれたまま、僕は隣を見上げると、蛇沼は貼り付けたような笑顔で僕を見下ろしていた。
(そ、それどういう意味!?このまま生きてても辛いからこ、ころ……!?)
「あ、え、えと……」
「トイレ、行きましょうか」
(み、水責め!?)
ろくに言葉も出ないまま手首を握られて、強制的にトイレへ連れて行かれている僕。ああ、もうここで終わりなのか。もっと、漫画描きたかったな……とか、童貞捨ててみたかったな……とか、そのようなことを考えているうちにトイレの個室へ詰め込まれる。
「すぐ終わるので、目瞑っててください」
(死ぬのこえー……)
とか思いながら足をガクガク震わせていると、後ろに立っている蛇沼がなぜか僕の股間に手を伸ばしてきた。
「え、え?」
蛇沼の謎行動に困惑していると、あれよあれよという間にズボンも下着も脱がされて下半身を丸出しにさせられた。そして、未だ萎えないモノを優しく手で包み込まれてそのまましごかれる。
「あっ、だめだめ……!」
僕が制止の声を上げるも、蛇沼は手を止める気配がなかった。
「ん、っイクっ……」
抵抗虚しく、まんまとイカされてしまった僕は賢者タイムで膨大な思考が頭を巡っていた。
(今、何が起こった……!?え……?もしかして、僕好きな人のお兄さんに抜いてもらった……?)
なぜ、こんなことに……!?考えても仕方のないことが頭を占めていてほぼ思考停止のような状態になってしまった。
「そう言えば、桃山太郎さんってお隣の安土さん……ですよね?」
「え……!?」
やっと、思考停止状態を抜け出して蛇沼の方に向き直ると、今一番気づかれたくないことに触れられてしまう。
「そ、そうです……かね?」
「やっぱり!俺、安土さんが住んでる隣の者の兄なんですけど、先週くらいから家がなくなってしまって……妹の家に居候させてもらってるんです」
「そ、そうなんですね……?」
なぜ、僕達はトイレの中でこんな会話を……?というか、なぜ、蛇沼は普通に喋れるんだ。他人のを抜いたあとだぞ。
「なので、色々とよろしくお願いします……ね?」
(ひ、ひぃ〜〜!!)
念を押す、みたいに顔を近づけられて、迫られたので足をもつれさせながらだが、なんとかあの場から逃げてきた。帰路につきながら色んなことを考えるが、とりあえず今はこれしか思えなかった。
「引っ越そ……」
