俺たちの発表は教師陣からのウケも良く、周りの色んな人から労いの言葉を貰った。最優秀探検賞こそ逃したものの、ありがたいことに俺の神社での実体験の語りに感銘を受けたという人もいた。それだけでここまでやり遂げた価値があるというものだ。
それから約1週間が経ったーーー9月27日。
「よし…完成だ!」
時音との思い出を俺視点で描いた小説が、俺たち3人の力によって遂に完成した。時音との思い出が、遂に小説という一つの形に終止し…それは言葉にならない達成感を共にした。3人で小説の編集画面を見つめる。
「大体全部で70000字越え。一本の小説として問題なく公開できるね」
「私もまさか1か月足らずで書き上げられるとは思ってなかったよ」
俺もまさかこんなに早く完成するとは思っていなかった。やはり人数が居れば作業スピードも段違いだ。
「俺の勝手な発案に最後まで協力してくれて本当にありがとうな」
「ちょっとちょっと、感謝するのはまだ早いんじゃない?だってこの小説、タイトルがまだ決まって無いもん」
夢香の指摘を受けてもう一度画面を見る。確かに、タイトル欄が空白のままだった。
「そうだったな。タイトルのことすっかり忘れてた」
小説のタイトル。多くの読者が最初に目にする部分で小説の人気に直接影響するだから、これはよく考えねばならない。
「何か良い案あるか?」
「はいはーい、せっかくだから普段使わないような難しい言葉を使いたい!」
難しい言葉。あまり難しい単語の羅列だと読者が興味を持ってくれなさそうだから、かっこよくて尚且つニュアンスが伝わりやすいような丁度いい塩梅の言葉を探したいところだ。
「僕はタイトル回収がしたいな」
「としみー、タイトル回収って何?」
「例えば最初タイトルを見たときはあまり意味が分からないけど、本編を見た後にタイトルを見返すと意味が分かるみたいな…」
「あーなるほど!かっこいいねそれ」
なるほど、確かに全て読んだ後にタイトルの意味が分かるというのは面白い構成だ。実際にそういう小説は人気が高い傾向にある。
「まぁ、何よりも先に小説の中身を端的に一言で表す必要はあるよな」
「あーそうだね」
この小説は時音との出会い、ひと夏の思い出、別れの一連の流れを描いたものだ。やはり時音の勇姿や温かい思い出という部分に焦点を当てたいと個人的には思う。
思い出、過去、回想、心の中、心の拠り所、簡薙村、村の美しい風景…。
「あっ」
昔どこかで聞いた一つの言葉を思い出す。これこそが…俺たちの小説を、思い出を象徴するんじゃないか?
「虹輝君、思いついた?」
「うん、これはどうかな?」
手元のノートにシャーペンで書き、2人に見せた。
心象風景
「しんしょう…ふうけい?」
「昔聞いたことがある言葉でね。意味を一応改めて調べてみると…人間の心の中に思い描かれたり、記憶や感情として刻み込まれたりしている風景のこと、だってさ」
「おおお、なんかかっこいい」
「時音との日々をこんなに鮮明に文字に起こしても、時音との日々が帰ってくることは無い。それでも…時音と一緒に過ごした夏の日々は、一緒に見た景色は、風景は、交わした言葉は、溢れた笑顔は、祈った未来は…全部、俺たちの心の中で輝き続けている。これが俺たちの心象風景ってことなんだと思う」
2人は俺の発言に目を輝かせていた。
「かっこいいな虹輝、小説家の才能あるだろやっぱり」
「んな大袈裟な…」
今回の小説も3人で共同制作したから書き上げることができたのだ。俺一人で小説を書けるかはまた別問題である。まぁでも…趣味で小説を書くのはアリかもしれない。今回の執筆で、自分の言葉で物語を紡ぐことの楽しさを知った。
「じゃ、俺のもう一つの要望。タイトルの解釈が複数パターンあるのに憧れるんだよな」
そう言いながら先程の紙にタイトルを付け足す。
君との心象風景
「なるほど、”君”の解釈が人それぞれ違くなるかもしれないってことか」
「”君”が時音ちゃんのことを表してるのか主人公のことを表してるのか曖昧なままにしておくのね…すごいねこれ!」
満場一致で小説のタイトルが決まった。いよいよ小説サイトに投稿する。
「できるだけ多くの人に見てもらいたいね」
「3人で力を合わせて書いたんだ。大丈夫さ」
こうして、俺たちの合作小説が完成した。すなわち、時音の功績を世に残すことができたのだ。ここまで長かった。これで本当に、俺たちの夏が終わりを迎えたような気がした。
小説が完成してから3日後のことだった。
「あー虹輝!」
村のあぜ道を散歩していると、偶然俊道と夢香とすれ違った。大して広くもない田舎なのでこういうのは日常茶飯事だ。
「おう、お疲れ」
「いや虹輝君お疲れとか言ってる場合じゃないよ!例の小説サイト、見た?」
「え、何かあったのか?」
夢香は急いでスマホを取り出すと俺に画面を見せてきた。
「君との心象風景、急上昇ランキング3位…!?」
「そう、今朝確認したら私たちの小説が急上昇ランキングに乗ってたんだよ!」
「はあああ!?」
画面を確認させてもらうと、俺たちの小説が既に100人以上もの人に見られているようだった。中にはコメントを付けてくれている人もいる。「ヒロインの時音が未来に帰った後消滅するとは思わなかった!」「簡薙村は実在する場所らしい、今度旅行してみようかな」「やばい切なすぎる」…様々なコメントが寄せられている。
「おいおいマジかよ…本当に色んな人に読まれてるんだ、俺たちの小説」
「そうそう、初投稿でこれは快挙だよね!」
一気に高揚感が押し寄せてくる。時音の生き様を小説に残すという選択肢は、間違ってなどいなかったんだ。
言葉にできないほどの喜びを噛みしめていると、俊道が言った。
「この際だから一気に話しちゃうけど…僕、改めて小説を読み返したんだ。そうしたら一つ気になる点があって…」
「え、何か誤字とかあった?」
「いやそういうのじゃないんだけど…虹輝、一つ確認。時音は、未来に帰った後に消滅するんだよね?」
何故いきなりそんなことを聞くのか真意は分からないが…時音は一度未来世界に帰ってから消滅すると、確かに言っていた。
「だよね。つまり、時音の消滅は僕たちの視点からみた20年後の未来の話ってことだよね」
「まぁそうなるけど…それがどうしたんだ」
「時音が消滅する未来って、本当に変えられないのかな」
心の中の深いある一点に電流が走った。
「…ど、どういうことだ?時音は未来を変えたから神社の力によって消される。それは変えられない事実だ」
「それが20年後の出来事だって言うなら、僕たちがその未来を変えられる可能性があると思うんだ」
「いや…何らかの方法で無理やりにでも時音の運命を捻じ曲げようものなら、今度は俺たちが代償を払わなきゃならない」
「僕たちは本当に代償が必要なのかな」
再び、心のどこかが脈を打つ。
「はぁ?だって、時音が消えたのは事実だ。間違いなくあの神社には人の存在を容易く消す力があるんだ」
「それはさ、未来から来た時音が過去を変えたからじゃない?この時間軸で生きている僕たちが未来を変えるのに、本当に代償は必要だと思う?」
「そ、それは…」
確かに、時音は未来からわざわざ時間を遡って過去の世界に干渉した。その結果未来が大きく変わったため未来人である時音は消滅した。柴戸から見せて貰った資料にも、過去と未来で矛盾が起きないようにするために、歴史を変える者が消滅するのだと書いていた。調査団による追記だったため信憑性は高い。
じゃあ俺たちが自分の住んでいる時間軸で何らかのアクションを起こして未来が変わったとして、そこに矛盾は生まれるのだろうか。いいや、生まれない。だって、今を生きている人間にとって未来は不確定的な物であり、いつだって変わる可能性を秘めているからだ。
「そう。だから時音が消えることだって、僕たちからしたら不確定的な未来の出来事なんだよ。だったらさ、時音が消滅すると決まったわけではないんだと僕は思う」
それは、俺の今までの常識を一瞬でひっくり返す言葉だった。時音が未来に帰った後、消滅せずに生きられる可能性が、ほんの少しでも存在している。
「私もとしみーからその話を聞いて、なるほどなって思った。未来が既に決まってるはずないもんね。私たちの生き方次第で変わっていくものだと思う」
「でも時音が生きる未来に繋ぐために僕たちが何をすべきなのかは流石に分からないし、未来世界の時音の生存を確認する術もない。僕が言い出しといてなんだけど、机上の空論なのかなやっぱり」
いいや、そんなことはないはずだ。夢香の言う通り、俺たちの生き方次第で未来はいくらだって分岐する。その無数の分岐の中には、時音が笑顔で生きていられるような未来だって存在するはずだ。
とここまで考え、ふと冷静になる。今まで自分らがしてきた行動を振り返る。
「俺たちの行動、既に未来に影響を与えている可能性あるんじゃないか?」
「え?」
「俺たちは、時音のことを小説に残した。しかもそれは多くの人に見られている。神社は時音の存在ごと抹消しようとしているけれど、時音の存在は既に電子小説として刻まれている。それを読んだ読者の記憶の中にも刻まれている。流石の神社でも、人の記憶やインターネットから情報を消すことはできないだろう。だったら、神社は時音の存在を抹消することができない可能性が高い」
「…そうだ、そうだよ!私たちは時音ちゃんの存在を記録に残した!」
正直、確証は湧かない。神社の不思議な力によって人々の記憶から時音の存在が消えて、やっぱり時音が未来で消滅する可能性だって同じくらいある。それでも…俺は自分たちがやってきたことが未来に繋がっているんだと、信じたい。
時音が未来世界で沢山の幸せを享受できる、そんな未来がーーー。
「やることは決まりだね」
俊道が笑みを浮かべながら言った。
「僕たちの小説をまだまだ沢山の人に読んでもらう。そのために宣伝を続ける。時音の生きた証を、1人でも多くの人の心に刻むんだ。そうすれば時音が未来で生きられる可能性は高くなると思う」
「そうだな、まだ時音が未来で生きていると決まったわけじゃない。まだ俺たちにやれることがあるよな」
「探検が終わっても、まだまだ私たちの活動は続きそうだね」
自分たちの小説をより多くの人に読んでもらうという目標が定まった俺たちは、これからも活動を続けることを決意した。決意したからには、やはり言葉にしなければならない。
「そうだ、2人に紹介したい場所があるんだ」
「お、なんだなんだ」
そう言って俺は山へと登る。未来への希望と共に山を登るのは本当に久しぶりだ。神社を横目に通りすぎて抜け道を通り、村を一望できる高台へと着いた。1か月ほど前に独りで来た時以来だ。でも今は、かけがえのない幼馴染たちが隣にいる。
「な、なんだここは!」
「すごい!これって小説の中にも出てきた場所だよね!?本当にあるなんて」
2人は村の景色に呆気にとられていた。思っていた通り、2人をここに連れてくるのは初めてだった。
「柴戸から真実を聞いたのも、この場所だったんだ」
あの時は、本当に目の前が真っ暗になったような感覚に襲われた。そして本当に未来に希望が持てなくなって…それでも夢香と俊道が俺のことを救ってくれた。
俺は本当に色々な人に助けられてばかりだ。だからこそ、今度は俺が。
時音たちに誓うのなら、この場所が相応しいと思った。
「時音!柴戸!」
秋の訪れを感じさせる高い青空の下、俺は叫ぶ。
「時音と柴戸が生きていられる未来に、絶対繋ぐから!俺が、俺たちが2人の未来を変えるから!」
晩夏の村を視界に捉えながら、俺は未来に誓いを建てた。
完
それから約1週間が経ったーーー9月27日。
「よし…完成だ!」
時音との思い出を俺視点で描いた小説が、俺たち3人の力によって遂に完成した。時音との思い出が、遂に小説という一つの形に終止し…それは言葉にならない達成感を共にした。3人で小説の編集画面を見つめる。
「大体全部で70000字越え。一本の小説として問題なく公開できるね」
「私もまさか1か月足らずで書き上げられるとは思ってなかったよ」
俺もまさかこんなに早く完成するとは思っていなかった。やはり人数が居れば作業スピードも段違いだ。
「俺の勝手な発案に最後まで協力してくれて本当にありがとうな」
「ちょっとちょっと、感謝するのはまだ早いんじゃない?だってこの小説、タイトルがまだ決まって無いもん」
夢香の指摘を受けてもう一度画面を見る。確かに、タイトル欄が空白のままだった。
「そうだったな。タイトルのことすっかり忘れてた」
小説のタイトル。多くの読者が最初に目にする部分で小説の人気に直接影響するだから、これはよく考えねばならない。
「何か良い案あるか?」
「はいはーい、せっかくだから普段使わないような難しい言葉を使いたい!」
難しい言葉。あまり難しい単語の羅列だと読者が興味を持ってくれなさそうだから、かっこよくて尚且つニュアンスが伝わりやすいような丁度いい塩梅の言葉を探したいところだ。
「僕はタイトル回収がしたいな」
「としみー、タイトル回収って何?」
「例えば最初タイトルを見たときはあまり意味が分からないけど、本編を見た後にタイトルを見返すと意味が分かるみたいな…」
「あーなるほど!かっこいいねそれ」
なるほど、確かに全て読んだ後にタイトルの意味が分かるというのは面白い構成だ。実際にそういう小説は人気が高い傾向にある。
「まぁ、何よりも先に小説の中身を端的に一言で表す必要はあるよな」
「あーそうだね」
この小説は時音との出会い、ひと夏の思い出、別れの一連の流れを描いたものだ。やはり時音の勇姿や温かい思い出という部分に焦点を当てたいと個人的には思う。
思い出、過去、回想、心の中、心の拠り所、簡薙村、村の美しい風景…。
「あっ」
昔どこかで聞いた一つの言葉を思い出す。これこそが…俺たちの小説を、思い出を象徴するんじゃないか?
「虹輝君、思いついた?」
「うん、これはどうかな?」
手元のノートにシャーペンで書き、2人に見せた。
心象風景
「しんしょう…ふうけい?」
「昔聞いたことがある言葉でね。意味を一応改めて調べてみると…人間の心の中に思い描かれたり、記憶や感情として刻み込まれたりしている風景のこと、だってさ」
「おおお、なんかかっこいい」
「時音との日々をこんなに鮮明に文字に起こしても、時音との日々が帰ってくることは無い。それでも…時音と一緒に過ごした夏の日々は、一緒に見た景色は、風景は、交わした言葉は、溢れた笑顔は、祈った未来は…全部、俺たちの心の中で輝き続けている。これが俺たちの心象風景ってことなんだと思う」
2人は俺の発言に目を輝かせていた。
「かっこいいな虹輝、小説家の才能あるだろやっぱり」
「んな大袈裟な…」
今回の小説も3人で共同制作したから書き上げることができたのだ。俺一人で小説を書けるかはまた別問題である。まぁでも…趣味で小説を書くのはアリかもしれない。今回の執筆で、自分の言葉で物語を紡ぐことの楽しさを知った。
「じゃ、俺のもう一つの要望。タイトルの解釈が複数パターンあるのに憧れるんだよな」
そう言いながら先程の紙にタイトルを付け足す。
君との心象風景
「なるほど、”君”の解釈が人それぞれ違くなるかもしれないってことか」
「”君”が時音ちゃんのことを表してるのか主人公のことを表してるのか曖昧なままにしておくのね…すごいねこれ!」
満場一致で小説のタイトルが決まった。いよいよ小説サイトに投稿する。
「できるだけ多くの人に見てもらいたいね」
「3人で力を合わせて書いたんだ。大丈夫さ」
こうして、俺たちの合作小説が完成した。すなわち、時音の功績を世に残すことができたのだ。ここまで長かった。これで本当に、俺たちの夏が終わりを迎えたような気がした。
小説が完成してから3日後のことだった。
「あー虹輝!」
村のあぜ道を散歩していると、偶然俊道と夢香とすれ違った。大して広くもない田舎なのでこういうのは日常茶飯事だ。
「おう、お疲れ」
「いや虹輝君お疲れとか言ってる場合じゃないよ!例の小説サイト、見た?」
「え、何かあったのか?」
夢香は急いでスマホを取り出すと俺に画面を見せてきた。
「君との心象風景、急上昇ランキング3位…!?」
「そう、今朝確認したら私たちの小説が急上昇ランキングに乗ってたんだよ!」
「はあああ!?」
画面を確認させてもらうと、俺たちの小説が既に100人以上もの人に見られているようだった。中にはコメントを付けてくれている人もいる。「ヒロインの時音が未来に帰った後消滅するとは思わなかった!」「簡薙村は実在する場所らしい、今度旅行してみようかな」「やばい切なすぎる」…様々なコメントが寄せられている。
「おいおいマジかよ…本当に色んな人に読まれてるんだ、俺たちの小説」
「そうそう、初投稿でこれは快挙だよね!」
一気に高揚感が押し寄せてくる。時音の生き様を小説に残すという選択肢は、間違ってなどいなかったんだ。
言葉にできないほどの喜びを噛みしめていると、俊道が言った。
「この際だから一気に話しちゃうけど…僕、改めて小説を読み返したんだ。そうしたら一つ気になる点があって…」
「え、何か誤字とかあった?」
「いやそういうのじゃないんだけど…虹輝、一つ確認。時音は、未来に帰った後に消滅するんだよね?」
何故いきなりそんなことを聞くのか真意は分からないが…時音は一度未来世界に帰ってから消滅すると、確かに言っていた。
「だよね。つまり、時音の消滅は僕たちの視点からみた20年後の未来の話ってことだよね」
「まぁそうなるけど…それがどうしたんだ」
「時音が消滅する未来って、本当に変えられないのかな」
心の中の深いある一点に電流が走った。
「…ど、どういうことだ?時音は未来を変えたから神社の力によって消される。それは変えられない事実だ」
「それが20年後の出来事だって言うなら、僕たちがその未来を変えられる可能性があると思うんだ」
「いや…何らかの方法で無理やりにでも時音の運命を捻じ曲げようものなら、今度は俺たちが代償を払わなきゃならない」
「僕たちは本当に代償が必要なのかな」
再び、心のどこかが脈を打つ。
「はぁ?だって、時音が消えたのは事実だ。間違いなくあの神社には人の存在を容易く消す力があるんだ」
「それはさ、未来から来た時音が過去を変えたからじゃない?この時間軸で生きている僕たちが未来を変えるのに、本当に代償は必要だと思う?」
「そ、それは…」
確かに、時音は未来からわざわざ時間を遡って過去の世界に干渉した。その結果未来が大きく変わったため未来人である時音は消滅した。柴戸から見せて貰った資料にも、過去と未来で矛盾が起きないようにするために、歴史を変える者が消滅するのだと書いていた。調査団による追記だったため信憑性は高い。
じゃあ俺たちが自分の住んでいる時間軸で何らかのアクションを起こして未来が変わったとして、そこに矛盾は生まれるのだろうか。いいや、生まれない。だって、今を生きている人間にとって未来は不確定的な物であり、いつだって変わる可能性を秘めているからだ。
「そう。だから時音が消えることだって、僕たちからしたら不確定的な未来の出来事なんだよ。だったらさ、時音が消滅すると決まったわけではないんだと僕は思う」
それは、俺の今までの常識を一瞬でひっくり返す言葉だった。時音が未来に帰った後、消滅せずに生きられる可能性が、ほんの少しでも存在している。
「私もとしみーからその話を聞いて、なるほどなって思った。未来が既に決まってるはずないもんね。私たちの生き方次第で変わっていくものだと思う」
「でも時音が生きる未来に繋ぐために僕たちが何をすべきなのかは流石に分からないし、未来世界の時音の生存を確認する術もない。僕が言い出しといてなんだけど、机上の空論なのかなやっぱり」
いいや、そんなことはないはずだ。夢香の言う通り、俺たちの生き方次第で未来はいくらだって分岐する。その無数の分岐の中には、時音が笑顔で生きていられるような未来だって存在するはずだ。
とここまで考え、ふと冷静になる。今まで自分らがしてきた行動を振り返る。
「俺たちの行動、既に未来に影響を与えている可能性あるんじゃないか?」
「え?」
「俺たちは、時音のことを小説に残した。しかもそれは多くの人に見られている。神社は時音の存在ごと抹消しようとしているけれど、時音の存在は既に電子小説として刻まれている。それを読んだ読者の記憶の中にも刻まれている。流石の神社でも、人の記憶やインターネットから情報を消すことはできないだろう。だったら、神社は時音の存在を抹消することができない可能性が高い」
「…そうだ、そうだよ!私たちは時音ちゃんの存在を記録に残した!」
正直、確証は湧かない。神社の不思議な力によって人々の記憶から時音の存在が消えて、やっぱり時音が未来で消滅する可能性だって同じくらいある。それでも…俺は自分たちがやってきたことが未来に繋がっているんだと、信じたい。
時音が未来世界で沢山の幸せを享受できる、そんな未来がーーー。
「やることは決まりだね」
俊道が笑みを浮かべながら言った。
「僕たちの小説をまだまだ沢山の人に読んでもらう。そのために宣伝を続ける。時音の生きた証を、1人でも多くの人の心に刻むんだ。そうすれば時音が未来で生きられる可能性は高くなると思う」
「そうだな、まだ時音が未来で生きていると決まったわけじゃない。まだ俺たちにやれることがあるよな」
「探検が終わっても、まだまだ私たちの活動は続きそうだね」
自分たちの小説をより多くの人に読んでもらうという目標が定まった俺たちは、これからも活動を続けることを決意した。決意したからには、やはり言葉にしなければならない。
「そうだ、2人に紹介したい場所があるんだ」
「お、なんだなんだ」
そう言って俺は山へと登る。未来への希望と共に山を登るのは本当に久しぶりだ。神社を横目に通りすぎて抜け道を通り、村を一望できる高台へと着いた。1か月ほど前に独りで来た時以来だ。でも今は、かけがえのない幼馴染たちが隣にいる。
「な、なんだここは!」
「すごい!これって小説の中にも出てきた場所だよね!?本当にあるなんて」
2人は村の景色に呆気にとられていた。思っていた通り、2人をここに連れてくるのは初めてだった。
「柴戸から真実を聞いたのも、この場所だったんだ」
あの時は、本当に目の前が真っ暗になったような感覚に襲われた。そして本当に未来に希望が持てなくなって…それでも夢香と俊道が俺のことを救ってくれた。
俺は本当に色々な人に助けられてばかりだ。だからこそ、今度は俺が。
時音たちに誓うのなら、この場所が相応しいと思った。
「時音!柴戸!」
秋の訪れを感じさせる高い青空の下、俺は叫ぶ。
「時音と柴戸が生きていられる未来に、絶対繋ぐから!俺が、俺たちが2人の未来を変えるから!」
晩夏の村を視界に捉えながら、俺は未来に誓いを建てた。
完



