後輩の黒瀬くんは、俺にだけ甘い

昨日、俺は男に告白された。俺、男に惚れられる要素どこにもないんだけどな。
「で、この状態はなんだよ!?」
「何って、先輩が可愛いから保護してるんです」
「か…可愛い…って…」
「あ、照れました?」
「照れてない…」
 今俺は、屋上で雅哉の足の間にいる。何でこうなったかというと…。
「先輩!お昼一緒に食べましょ!」
「う、うん」
 昨日の告白があって、気まずくなるのかと思ったら、全然そんなことなくて。なんなら距離近くなってる気がするし。
「先輩、ここ座ってください」
「え、そこ!?」
 提案されたのは、雅哉の足の間だった。誰かに見られたらどうするんだと言いたかったが、口を開く前に手を引かれ気づけば雅哉の足の間にいた。するりと、お腹に雅哉の腕が回され、ゼロ距離になる。
「ちょ、近い」
「いいじゃないですか」
「よくない…誰かに見られたら…」
「あ、凌大じゃん」
「か、要芽……」
 最悪なタイミングだ。こんなところ……。
「要芽先輩?って、雅哉はなに凌大先輩のこと捕獲してるんだよ」
 小泉光輝。雅哉の同級生で親友だ。朝、生徒玄関でたまたま会った時に紹介された。好きなラーメン屋の話で盛り上がり、数分で名前を呼ぶほどに仲良くなれた。
「捕獲じゃねぇ、保護してんの」
「あ、頼まれてた昼食買ってきた」
「サンキュー」
この状況、誰もおかしいと思わないの?嘘でしょ。
「てか、光輝はなんで廣澤先輩と?」
「俺のこと知ってるんだ」
「はい、光咲から色々聞いてるんで」
「色々?」
「ちょ、雅哉、言わなくていいから!」
「光輝、俺のことなんて話してるの?」
 要芽が光咲の顔に自分の顔を近づける。いや、お前らも距離近くね?デキてんの?
「要芽先輩、ち、近いです……」
 恥ずかしそうに顔を赤らめて逃げる光輝。それを追いかける要芽。なぁ、お前ら
「デキてんの?」
「ん?先輩どうしました?」
 雅哉が俺の顔を後ろから覗き込んでくる。近い。恥ずかしくなって、顔を逸らした。
「あいつら、仲良いな」
「まぁ、多分デキてますね」
「やっぱり?」
「知らないっすけど、光輝は廣澤先輩のこと好きだと思いますよ?」
「そっか」
 なんか羨ましいな。人のことを好きになったり、付き合っり。俺には無縁の話。
「無縁にはさせませんよ」
「え?」
「心の声ダダ漏れ。俺言いましたよね?堕とすって」
「そうだけど……今まで無縁だったし」
「元カノとかいないんすか?」
「いないよ。付き合ったことないもん」
「じゃあ、俺が初めてになるってことですね」
「決定してんのかよ」
 雅哉といると、自然と笑える。要芽といる時と同じような、安心感がある。
 その日から、雅哉といることが増えた。もちろん、要芽も光輝も一緒だ。気づいたら、四人一緒にご飯を食べて、一緒に帰る。今までとは違う日常が当たり前になっていた。
 そんなある日、突然の大雨で午後からの授業がなくなった。要芽は、親に迎えに来てもらってるからと先に帰ってしまった。俺も、親に連絡して帰る支度をする。靴を履き替え外に出ると屋根の下に雅哉がいた
「雅哉?」
「あ、先輩。お疲れ様です」
「お疲れ。帰らないの?」
「親に連絡しようと思ったんですけど、今日出張で明日までいないんですよね」
「大変じゃん、どうすんの?」
「んー、走って帰ります」
「いや、雷も鳴ってるし、危ないって」
「でも、」
「じゃあ、俺ん家来る?」
「え?」
「親いないんだろ?さっき、天気予報見たら明日までこの天気らしいし、もしよかったらご飯食べてけば?」
 心臓バクバクで提案した。普段ならこんな提案しない。でも、雅哉はほっとけなかった。風邪ひかれても困るし。
「いいんですか!?」
「うん、今親に聞いてみるから」
 即オッケーだった。俺の親軽いから。それに、後輩を家に連れてくるのはこれが初めてだから、多分嬉しかったんだろうな。絵文字が多い文面で見て取れる。いきなりの雨で傘なんて持っていない俺たちは、親が待つ車まで全速力で走った。案の定、びしょ濡れだ。車の後部座席にふたりで乗り込む。
「あはは、めっちゃ濡れた!」
「先輩、前髪」
「ん?」
 雅哉の顔が近くにある。一瞬、頭が追いつかなくなる。額に張り付いた前髪に雅哉が触れた。
「可愛い」
 雅哉の呟きがトドメを刺した。顔が、真っ赤になったのがわかる。耳が熱くなる。
「な、何」
 聞こえないフリをした。