後宮で再会した彼が溺愛してくる件について

明日には刃流と式を挙げる。
緊張や恥ずかしさが心の中で渦を巻いている。しかし、そう感じているのは私だけらしい。刃流はノリノリで式の準備をしているのだから。
「ちょ…刃流…どうして刃流が張り切っているの…?」
私が今わきした表情で聞くと、刃流ではなく、側近の笛坂さんが答えた。
「それは…聖良様を斉王様の正妻として大々的に宣言するためでございます。天津様と薄宮様のこともあり、聖良様をよく思わないものもいます。その人たちの不安を解消するために、大々的かつ華やかな式を行うのです」
そう言われて私は納得するような納得できないような複雑な気持ちになる。刃流は横で満面の笑みを浮かべている。
(でも…なんで刃流が張り切るの…)
私は最初からそう言ってくれれば私もそうやって動くのにと思った。刃流に信頼されていない感じがして少し心の中がモヤッとする。
「…最初からそう言ってくれれば、私だって協力したのに…」
私がそう呟いてその場を立ち去ろうとすると、刃流が背後から抱きしめてきた。
「……きつい」
私がそう言うと、刃流は首を振った。
「きつくない!」
刃流がそう言ったので私は笑いそうになった。
(…でも、私は刃流に怒ってるの!!)
私は心の中でそう宣言する。すると、刃流が私を抱きしめたままこちらに顔を寄せてきた。
「……俺は、聖良のこと大好きだよ…後宮に来たばかりの聖良を苦しませたくなくて、勝手に準備した…」
刃流が私を抱きしめたままそう言った。その言葉を聞いて、心の中のモヤが晴れた気がする。それと同時に刃流の優しい心遣いを知ることができて、心がポカポカと温かい。
「でも…刃流から相談が欲しかったなぁ……」
私がそう呟くと、刃流は優しい笑顔を浮かべて、
「これから相談するよ…どっちみち、聖良に相談しないといけないこと、たくさんあったし…」
刃流の言葉を聞いて、私は頷く。刃流のことを信じたいと思った。
(え…でも、この刃流が私と仲が良かったはるだとは言えないんじゃ……だって、引き取られてから何があったのか…教えてくれないし……)
「…っごめん!午後からにして…っ」
私がそう言うと、突き放された刃流は悲しそうな顔をしていた。別に刃流を傷つけるつもりなんてさらさらなかった。
(刃流が本当のことを話してくれるまで…!)
私は心の中でそう決めた。

部屋に戻って何時間経ったのかわからない。突然、扉のノック音が聞こえ、私は布団から跳ね起きたのだった。
「はい…」
私が出ると、そこには刃流がいた。私は一瞬で扉を閉めようとしてしまう。すると、その扉を刃流が押さえつけたのだ。
「なっ…」
私が呆然としていると、刃流は私を抱きしめた。私は刃流の腕の中にすっぽり入ってしまうが、必死で拒否する。
「どうして…」
刃流は悲しそうな表情だった。
「どうして拒否するの…?さっきから聖良、おかしいよ…?」
刃流にそう言われて私は本当のことを話さざるをえなくなった。ここまできたら心の内を話してしまうしかないだろう。
「あなたが…私が想っている"はる"じゃないかもしれないから…あなたが嘘をついているだけかもしれない…だってあなたは過去のことを一切話してくれないじゃない……」
私がそう言うと、刃流は私を強く抱きしめた。そして、
「ごめん…」
と言った。その"ごめん"にはいろいろな意味が含まれている気がした。
「…聖良、よく聞いて。俺は貴族様の養子になったんだ。それからも聖良のことを忘れられなくて…そしたら貴族様が『勉強して大臣などの地位を授かれば、自由に探せるだろうよ』と教えてくれたんだ…だから俺は必死に勉強して…今に至る」
そう言われたが、私はまだ信じられない。
「それがっ…嘘かもしれないじゃん…!」
私がそう言うと、刃流はゆっくりと口を開いた。
「…鶯が 鳴かぬ夜暗し 寂しけり」
そう言われて私は目を見開く。
「それ…」
「あのときの聖良と聖良の一句が忘れられなかった…ずっとずっと大好きだった…聖良、結婚してください」
刃流が頭を下げたのだ。私は声が出ないくらい驚いた。あのときの、適当に作っていた一句を刃流が覚えていたなんて…。
「やっぱり…はるなのね…あなたはあのときのはるなのね…!」
私が涙を流しながらそう言うと、刃流は私を抱きしめた。
あのときの日々が思い起こされるようだった。

私は式でずっと嬉しい気持ちでいっぱいだった。
「これから、僕と一緒に歩んでくれますか…?」
そう聞かれて私は笑顔で、
「はい」
と答えた。

莉亜さんに「後宮に行かない?」と聞かれたときには断ってしまおうと思っていた。
しかし、後宮に来たことで刃流と出会えた。しかも、子供の頃から10年経っての再会。これ以上幸せなことはないだろう。
しかし、刃流はあくまで大臣という立場。よく思わない人もいっぱいいるだろう。
でも、刃流となら歩んで行ける。
「刃流…!」
私が声をかけると、刃流は笑顔で振り返った。そして、
「聖良、かわいすぎる」
と言った。
「んぇ…っ」
私は顔を赤くする。刃流はけらけらと笑っているが。

私は今日も彼に溺愛されている。優しい溺愛だ。