徒歩三秒

 今度の引越し先はどこだと思う?

 彼女から楽しそうなメッセージが届いていた。
 ちょうど僕は駐輪場を出てマンションの共用廊下を歩いていた。人感センサーの照明が一歩遅れて点いていく。

「うちから近い?」

「徒歩三秒!」

「近っ」

「隣の部屋が空けば徒歩ゼロ秒」

「それもう、僕ん家じゃん」

 ドアを開けた瞬間、届いたメッセージに固まる。

「つまり……同棲だね♡」

 狭い玄関の鏡の前で、顔を赤くした自分と目が合う。
 キッチンの窓から差し込む光が小さなダイニングテーブルにさしていた。
 力尽きて途中で止まったお掃除ロボット。
 二人がけのソファには脱ぎ捨てた寝巻き。

「早く会いたいな」

 僕は隣の部屋の壁を見て微笑む。

「僕も」

  徒歩三秒、か。
  彼女が送ったメッセージをもう一度見た。

  送信時刻は二年後の今日。

  会えるのは近くてまだまだ遠いな。