立花朝陽がもう一人の僕だなんて、的外れもいいところだ。
確かに僕が背伸びすれば身長は同じぐらいだし、どっちもみんなに人たらしとか言われる。でもとにかく、あいつは僕と違うのだ――やろうとしてること、だいたい全部のやり方が。
二学期の初日は、いつもの喧騒で始まった。久しぶりに会うクラスメイトは、日に焼けていたり、早くも疲れた顔をしていたり、それぞれが過ごした夏を顔に浮かべている。
「晴くんおはよー!」
「おはよ、七瀬さん。あ、髪切ったんだね?」
「あっ、そうなの! 気づいてくれたんだ」
「もちろん。インスタで美容院行ったって言ってたし」
「えー見ててくれたんだ、嬉しい」
にこにこしてる七瀬さんの後ろから、見慣れた長身があくびをしながら登校してきた。……朝陽だ。
「おっ、七瀬。髪切ったの?」
「うん! ちょっとイメチェン」
「へー。めっちゃいいじゃん」
自分の前髪を軽く触って笑ってみせてから、朝陽はなんでもなさそうに僕の方を見た。
「おはよ、晴」
「……おはよう。はい、これ」
僕も、なんでもないみたいに挨拶して、持っていたプリントを朝陽へ渡す。
「新しい時間割。さっき配っといてって先生から渡されたよ。あと、宿題集めて準備室に持ってきてくれって」
「はいよ。まったく、初日から忙しいな」
「しょうがないだろ、委員なんだから」
ため息を交わし合って、僕らは教壇に上がった。
「それじゃ、読書感想文から順番に回してー」
僕の号令で、みんながガヤガヤと宿題を回し始める。集めた束を数えていると、横から時間割の余りが一枚差し出された。なに? あ、一人休みってことか。とすると、未提出はこの二人だ。僕が名簿に丸をつけると、朝陽が二人の名前をコピー用紙に書いて、ノートの束の抜けてる番号のところに差し込んだ。ほんと、こいつとやる作業は楽だ。だから僕も、祭りの時はつい、ああいうことを……。
そこまで考えかけて、僕は素早く首を振った。だめだ。あれについては、考えない方がいい。朝陽だって、休み中は何も言ってこなかったし。
ホームルームが終わると、僕たちはずっしりしたノートとプリントの束を持って、国語科準備室に向かった。中にいた先生が、僕らに気づいて手招きをする。
「おっ、ありがとう。ここに重ねて……いや、二つに分けた方が崩れないか」
「はい、なら半分ここ置きますね」
不安定なノートの山を、朝陽が脇から支えてくれている。僕は半分あたりに指を差し込むと、上の山を持ち上げようと、朝陽の方へかがみ込んだ。
「晴」
「なに? ……あ」
至近距離で目が合ったとたん、僕は思わず動けなくなった。
朝陽も、僕と同じように固まっていた。その顔を見れば、言葉がなくてもすぐにわかる。あの日、あの夜したことは、僕たちにとって……なんでもないことなんかじゃ、全然なかったということを。
ノートの山を手早く直して、僕たちはすぐに準備室を出た。二人とも、一言もしゃべらなかった。そして、一番近くの空き教室に入ったとたん――僕たちはお互いを引き寄せて、どちらからともなくキスしていた。
合わさった唇から、夏の匂いが蘇ってきた。まるで止まっていた時間が動き出したみたいに、あの時の高揚感が一気に戻ってくる。今日の朝陽は、遠慮がなかった。擦り合わせるばかりだった唇の間から、舌が出てきて僕の唇を撫でた。驚いて目を開けると、すぐそこにあるオオカミの目が、僕を揶揄うようにすうっと細まる。
〈これは? やったことないのか?〉
〈馬鹿にすんなよ。あるって〉
〈へえ。さすが人たらし〉
〈なにそれ、自分に言ってんの?〉
無言でお互いを煽りながら、ますます深く舌を絡ませていく。言ってることはほぼ罵詈雑言なのに、完全に通じ合ってることには変わりなくて、それがなによりも心地いい。
ようやく唇を離した時、僕は壁際に背中を預け、息を切らして朝陽を見上げていた。朝陽も、僕を見つめていた。僕は手の甲で口をぬぐって、小さく息を吸った。
「……これも、しぐさ語に入れる?」
朝陽は一瞬黙ってから、ふっと笑った。余裕そうな顔が、かなり腹立つ。
「いいよ。お前がそうしたいなら」
「その言い方やめてよ、連帯責任だろ。僕からしたのは前回だけで……」
そう言いながら、僕はふと動きを止めた。そういえば、あの時の構図は、僕主導に変わった例のキス写真と、ほぼ同じだった気がする。
「どうした?」
「写真だよ」
僕はスマホを取り出して、カメラロールをぐいぐいと遡った。颯太が転送してきた、最初のキス写真。いま、それは……
「あ! 戻ってる」
「ほんとだ」
写真の中の僕たちは、出会って一週間にして、取っ組み合いの最中だった。僕が朝陽のネクタイを引っ掴み、朝陽が僕の手首へ手をかけている。これがまだ五ヶ月前なんて、ちょっと信じられない。
「良かったな。これ、ずっと戻らなかった、最初のやつだろ?」
「ほんとだよ。マジで大変だった……」
僕は深々とため息をついた。長かった。これで、ようやく全部が元通りに――
「だな。それじゃ……お前と妙な再現させられるのも、これで終わりってことか」
「……そう、みたいだね」
元通りになったはずなのに、僕は妙に胸がざわついていた。そっか。もうこいつと、こんなバカげたことしなくていいのか。
「二学期は文化祭の準備で忙しくなりそうだし、ちょうどよかったじゃん」
「そうだな。いつまでも写真に構ってらんねえし」
頷き合って、空き教室を出る。
もう、写真のために朝陽に触らなくていい。そのことが、なぜか少しも嬉しくなかった。
◇
ホームルームを終えて、職員室に行っていた夏帆が教室に戻ってきたとき、僕らはルーレットの真っ最中だった。スマホアプリの中で円盤の上を針が回転し、打ち込んだ四択のうちの一つに止まる。
「くっそー、ファミレスかー! オレはカラオケが良かったー!」
「勘弁してよ颯太。夏休みのあれ、僕もはや公害だと思ったんだけど」
「うわー、おれこのアイス屋さん気になってたのに」
「なら理央、次はここ行こうぜ。俺もそれ食ってみたい」
「……あんたら、何やってんの?」
「あ、夏帆」
僕は手を上げた。
「お昼ご飯の場所どうするかって決めててさ」
「ふーん。それで、なんでカラオケが選択肢に入るのよ?」
「うるさいな、フードあるんだし別にいいだろ。まったく、これだから名前に夏が二つも入る女は」
「へえ、あんた榎本って漢字かけたのね。風って字が入ってるだけあって何も考えてないのかと思った」
「なんだと、全国の颯太に謝れよ」
大げさに威嚇のポーズをとる颯太に、みんなが笑う。その様子を写真に撮ろうとした理央が、ふと思い出したように僕を見た。
「そういえば、朝撮った写真が、また少し変だったんだけど」
「え……久しぶりだね?」
顔をしかめてみせながらも、僕は思わずほっと息をついていた。やっぱり、まだ終わってなかったんだ。まあ、そもそもの原因がわかってなかったから、そりゃそうだよね。
でも、理央のスマホに写っていたのは、予想外の光景だった。掲示板のお知らせを撮った写真の隅で、写り込んだ僕と朝陽が、嫌悪の表情でお互いに拳を振り上げている。
「……何これ?」
「おっ、今度は不仲写真?」
颯太と夏帆が即座に食いついた。理央が眉を寄せる。
「ちょっと不思議なんだよね。今まで写真は、朝陽たちを……仲よく、させたいんだと思ってたんだけど」
「なんか、一学期のお前らっぽいな。今は全然こんな感じじゃないから、もはや懐かしいわ」
それを聞いて、夏帆がふと考え込んだ。
「もしかしたら……写真は、その時のあんたらに『一番あり得なさそうなポーズ』が映るってことはない?」
「あり得なさそうなポーズ?」
「うん。だから、喧嘩ばっかりだったころは恋人っぽい写真で、今はだいぶ息が合ってきたからこういう写真になった、とか」
「あ……たしかに。だから、再現して『あり得る』状態になったら戻る、ってこと?」
「待てよ、じゃあ今残ってる写真って――?」
「なるほど……」
スマホを確認しようとする颯太を眺めながら、僕は小さく唸った。たしかに今の僕は、さすがにここまで憎らしそうに朝陽へ殴りかかることはないかもしれない。でもそれにしては、最初に戻らなかったキス写真だけ、やっぱりおかしかった気がするんだけど……
そこまで考えて、僕ははっとした。待って、やばい。祭りの時だかさっきだかは知らないけど、あの写真はもう戻っていた。ってことは、今あれを見られたら、僕らが二人の時にキスしてたのが、こいつらにバレるってことで――!
「朝陽」
「ん? ……うおっ」
颯太がスマホのカメラロールを開くより早く、僕は朝陽の胸ぐらを引っ掴んで、そのまま素早くキスをした。
三人の目が、点になった。いや、正確には朝陽も入れて四人だ。
「……晴?」
「なに?」
僕は、鉄壁のポーカーフェイスで武装した。
「なんかもう、これぐらい別にいいかなって。一回やってるんだし、変に意識してる方が気持ち悪いでしょ?」
「うーん、言われてみれば?」
颯太が、納得したように肩をすくめる。でも、隣の夏帆は、なぜか僕をじっと見つめていた。そのまま、同じく平静を装おうとしている朝陽を見て、また僕を見る。
「ねえ」
夏帆が唐突に口を開いた。
「あんたたちって、もしかして――」
「夏帆」
理央が珍しく、夏帆の腕を掴んだ。
「今日中に聞きたいことあったの忘れてた。ちょっと来てくれる?」
「何よ? 今はそれより――」
「いいから」
理央が夏帆を引きずって、教室を出ていく。去り際に一瞬こっちを見た視線の意味を、僕は意識して考えないようにした。
「朝陽、どうした? なんかニヤニヤして」
「いや」
朝陽は、思いっきり悪い顔をしていた。
「まさか、晴がこんなことするとは思わなかったんだよ。意外と積極的だなって」
「たしかに。って、あー! せっかくなら写真撮っとけばよかった! 晴、もう一回やってくんね?」
「いやだよ。なんで二回もやんなきゃいけないのさ」
「もう二回やってるじゃん。二度あることは三度あるって!」
「やりません! 仏の顔も三度だから」
「え、じゃあ三回目いいってこと?」
「あのさ、意味間違って覚えてるでしょ。三度目はブチギレるってことだよ!」
ぎゃあぎゃあと言い合いながら、鞄を振り上げて颯太を追い回す。朝陽は片手で口元を覆ったまま、目を細めて僕をじっと眺めていた。
確かに僕が背伸びすれば身長は同じぐらいだし、どっちもみんなに人たらしとか言われる。でもとにかく、あいつは僕と違うのだ――やろうとしてること、だいたい全部のやり方が。
二学期の初日は、いつもの喧騒で始まった。久しぶりに会うクラスメイトは、日に焼けていたり、早くも疲れた顔をしていたり、それぞれが過ごした夏を顔に浮かべている。
「晴くんおはよー!」
「おはよ、七瀬さん。あ、髪切ったんだね?」
「あっ、そうなの! 気づいてくれたんだ」
「もちろん。インスタで美容院行ったって言ってたし」
「えー見ててくれたんだ、嬉しい」
にこにこしてる七瀬さんの後ろから、見慣れた長身があくびをしながら登校してきた。……朝陽だ。
「おっ、七瀬。髪切ったの?」
「うん! ちょっとイメチェン」
「へー。めっちゃいいじゃん」
自分の前髪を軽く触って笑ってみせてから、朝陽はなんでもなさそうに僕の方を見た。
「おはよ、晴」
「……おはよう。はい、これ」
僕も、なんでもないみたいに挨拶して、持っていたプリントを朝陽へ渡す。
「新しい時間割。さっき配っといてって先生から渡されたよ。あと、宿題集めて準備室に持ってきてくれって」
「はいよ。まったく、初日から忙しいな」
「しょうがないだろ、委員なんだから」
ため息を交わし合って、僕らは教壇に上がった。
「それじゃ、読書感想文から順番に回してー」
僕の号令で、みんながガヤガヤと宿題を回し始める。集めた束を数えていると、横から時間割の余りが一枚差し出された。なに? あ、一人休みってことか。とすると、未提出はこの二人だ。僕が名簿に丸をつけると、朝陽が二人の名前をコピー用紙に書いて、ノートの束の抜けてる番号のところに差し込んだ。ほんと、こいつとやる作業は楽だ。だから僕も、祭りの時はつい、ああいうことを……。
そこまで考えかけて、僕は素早く首を振った。だめだ。あれについては、考えない方がいい。朝陽だって、休み中は何も言ってこなかったし。
ホームルームが終わると、僕たちはずっしりしたノートとプリントの束を持って、国語科準備室に向かった。中にいた先生が、僕らに気づいて手招きをする。
「おっ、ありがとう。ここに重ねて……いや、二つに分けた方が崩れないか」
「はい、なら半分ここ置きますね」
不安定なノートの山を、朝陽が脇から支えてくれている。僕は半分あたりに指を差し込むと、上の山を持ち上げようと、朝陽の方へかがみ込んだ。
「晴」
「なに? ……あ」
至近距離で目が合ったとたん、僕は思わず動けなくなった。
朝陽も、僕と同じように固まっていた。その顔を見れば、言葉がなくてもすぐにわかる。あの日、あの夜したことは、僕たちにとって……なんでもないことなんかじゃ、全然なかったということを。
ノートの山を手早く直して、僕たちはすぐに準備室を出た。二人とも、一言もしゃべらなかった。そして、一番近くの空き教室に入ったとたん――僕たちはお互いを引き寄せて、どちらからともなくキスしていた。
合わさった唇から、夏の匂いが蘇ってきた。まるで止まっていた時間が動き出したみたいに、あの時の高揚感が一気に戻ってくる。今日の朝陽は、遠慮がなかった。擦り合わせるばかりだった唇の間から、舌が出てきて僕の唇を撫でた。驚いて目を開けると、すぐそこにあるオオカミの目が、僕を揶揄うようにすうっと細まる。
〈これは? やったことないのか?〉
〈馬鹿にすんなよ。あるって〉
〈へえ。さすが人たらし〉
〈なにそれ、自分に言ってんの?〉
無言でお互いを煽りながら、ますます深く舌を絡ませていく。言ってることはほぼ罵詈雑言なのに、完全に通じ合ってることには変わりなくて、それがなによりも心地いい。
ようやく唇を離した時、僕は壁際に背中を預け、息を切らして朝陽を見上げていた。朝陽も、僕を見つめていた。僕は手の甲で口をぬぐって、小さく息を吸った。
「……これも、しぐさ語に入れる?」
朝陽は一瞬黙ってから、ふっと笑った。余裕そうな顔が、かなり腹立つ。
「いいよ。お前がそうしたいなら」
「その言い方やめてよ、連帯責任だろ。僕からしたのは前回だけで……」
そう言いながら、僕はふと動きを止めた。そういえば、あの時の構図は、僕主導に変わった例のキス写真と、ほぼ同じだった気がする。
「どうした?」
「写真だよ」
僕はスマホを取り出して、カメラロールをぐいぐいと遡った。颯太が転送してきた、最初のキス写真。いま、それは……
「あ! 戻ってる」
「ほんとだ」
写真の中の僕たちは、出会って一週間にして、取っ組み合いの最中だった。僕が朝陽のネクタイを引っ掴み、朝陽が僕の手首へ手をかけている。これがまだ五ヶ月前なんて、ちょっと信じられない。
「良かったな。これ、ずっと戻らなかった、最初のやつだろ?」
「ほんとだよ。マジで大変だった……」
僕は深々とため息をついた。長かった。これで、ようやく全部が元通りに――
「だな。それじゃ……お前と妙な再現させられるのも、これで終わりってことか」
「……そう、みたいだね」
元通りになったはずなのに、僕は妙に胸がざわついていた。そっか。もうこいつと、こんなバカげたことしなくていいのか。
「二学期は文化祭の準備で忙しくなりそうだし、ちょうどよかったじゃん」
「そうだな。いつまでも写真に構ってらんねえし」
頷き合って、空き教室を出る。
もう、写真のために朝陽に触らなくていい。そのことが、なぜか少しも嬉しくなかった。
◇
ホームルームを終えて、職員室に行っていた夏帆が教室に戻ってきたとき、僕らはルーレットの真っ最中だった。スマホアプリの中で円盤の上を針が回転し、打ち込んだ四択のうちの一つに止まる。
「くっそー、ファミレスかー! オレはカラオケが良かったー!」
「勘弁してよ颯太。夏休みのあれ、僕もはや公害だと思ったんだけど」
「うわー、おれこのアイス屋さん気になってたのに」
「なら理央、次はここ行こうぜ。俺もそれ食ってみたい」
「……あんたら、何やってんの?」
「あ、夏帆」
僕は手を上げた。
「お昼ご飯の場所どうするかって決めててさ」
「ふーん。それで、なんでカラオケが選択肢に入るのよ?」
「うるさいな、フードあるんだし別にいいだろ。まったく、これだから名前に夏が二つも入る女は」
「へえ、あんた榎本って漢字かけたのね。風って字が入ってるだけあって何も考えてないのかと思った」
「なんだと、全国の颯太に謝れよ」
大げさに威嚇のポーズをとる颯太に、みんなが笑う。その様子を写真に撮ろうとした理央が、ふと思い出したように僕を見た。
「そういえば、朝撮った写真が、また少し変だったんだけど」
「え……久しぶりだね?」
顔をしかめてみせながらも、僕は思わずほっと息をついていた。やっぱり、まだ終わってなかったんだ。まあ、そもそもの原因がわかってなかったから、そりゃそうだよね。
でも、理央のスマホに写っていたのは、予想外の光景だった。掲示板のお知らせを撮った写真の隅で、写り込んだ僕と朝陽が、嫌悪の表情でお互いに拳を振り上げている。
「……何これ?」
「おっ、今度は不仲写真?」
颯太と夏帆が即座に食いついた。理央が眉を寄せる。
「ちょっと不思議なんだよね。今まで写真は、朝陽たちを……仲よく、させたいんだと思ってたんだけど」
「なんか、一学期のお前らっぽいな。今は全然こんな感じじゃないから、もはや懐かしいわ」
それを聞いて、夏帆がふと考え込んだ。
「もしかしたら……写真は、その時のあんたらに『一番あり得なさそうなポーズ』が映るってことはない?」
「あり得なさそうなポーズ?」
「うん。だから、喧嘩ばっかりだったころは恋人っぽい写真で、今はだいぶ息が合ってきたからこういう写真になった、とか」
「あ……たしかに。だから、再現して『あり得る』状態になったら戻る、ってこと?」
「待てよ、じゃあ今残ってる写真って――?」
「なるほど……」
スマホを確認しようとする颯太を眺めながら、僕は小さく唸った。たしかに今の僕は、さすがにここまで憎らしそうに朝陽へ殴りかかることはないかもしれない。でもそれにしては、最初に戻らなかったキス写真だけ、やっぱりおかしかった気がするんだけど……
そこまで考えて、僕ははっとした。待って、やばい。祭りの時だかさっきだかは知らないけど、あの写真はもう戻っていた。ってことは、今あれを見られたら、僕らが二人の時にキスしてたのが、こいつらにバレるってことで――!
「朝陽」
「ん? ……うおっ」
颯太がスマホのカメラロールを開くより早く、僕は朝陽の胸ぐらを引っ掴んで、そのまま素早くキスをした。
三人の目が、点になった。いや、正確には朝陽も入れて四人だ。
「……晴?」
「なに?」
僕は、鉄壁のポーカーフェイスで武装した。
「なんかもう、これぐらい別にいいかなって。一回やってるんだし、変に意識してる方が気持ち悪いでしょ?」
「うーん、言われてみれば?」
颯太が、納得したように肩をすくめる。でも、隣の夏帆は、なぜか僕をじっと見つめていた。そのまま、同じく平静を装おうとしている朝陽を見て、また僕を見る。
「ねえ」
夏帆が唐突に口を開いた。
「あんたたちって、もしかして――」
「夏帆」
理央が珍しく、夏帆の腕を掴んだ。
「今日中に聞きたいことあったの忘れてた。ちょっと来てくれる?」
「何よ? 今はそれより――」
「いいから」
理央が夏帆を引きずって、教室を出ていく。去り際に一瞬こっちを見た視線の意味を、僕は意識して考えないようにした。
「朝陽、どうした? なんかニヤニヤして」
「いや」
朝陽は、思いっきり悪い顔をしていた。
「まさか、晴がこんなことするとは思わなかったんだよ。意外と積極的だなって」
「たしかに。って、あー! せっかくなら写真撮っとけばよかった! 晴、もう一回やってくんね?」
「いやだよ。なんで二回もやんなきゃいけないのさ」
「もう二回やってるじゃん。二度あることは三度あるって!」
「やりません! 仏の顔も三度だから」
「え、じゃあ三回目いいってこと?」
「あのさ、意味間違って覚えてるでしょ。三度目はブチギレるってことだよ!」
ぎゃあぎゃあと言い合いながら、鞄を振り上げて颯太を追い回す。朝陽は片手で口元を覆ったまま、目を細めて僕をじっと眺めていた。
