隣の席だったキミとひみつの合図 ~強い絆と恋の充電。支え合い、乗り越える力がある~

春休みに入って、数日が過ぎた。

制服ではなく私服で集まる五人の姿にも、少しずつ見慣れてきた頃。

駅前のベンチでは、結衣がスマホの画面を見ながら大きく息を吐いていた。

「ねえ、三年のクラス発表っていつだっけ?」

向かいに座る颯人が、呆れたように眉を上げる。

「お前、それ昨日も聞いてただろ」

「だって気になるんだもん!」

「聞くたびに発表が早くなるわけじゃねーから」

「分かってるよ、それくらい!」

隣で聞いていた琉生が吹き出し、乃愛も思わず小さく笑った。

こうして五人で集まれば、春休みになっても何も変わらない。

学校がなくても、同じ教室にいなくても。

いつの間にか、この時間は乃愛にとって当たり前のものになっていた。

「乃愛は?」

突然名前を呼ばれ、乃愛は琉生を見る。

「え?」

「クラス替え。気になんない?」

「……気になるよ」

乃愛は素直に答えた。

三年生になっても、琉生と同じクラスになれるとは限らない。

結衣やひまり、颯人とも別々になるかもしれない。

少し前の自分なら、考えるだけで胸の奥がぎゅっとしていた気がする。

「でも……前ほど怖くないかな」

「なんで?」

琉生が不思議そうに首を傾げる。

その顔を見つめながら、乃愛の脳裏に少し前の出来事が浮かんだ。

何もなかったはずなのに。

ちゃんと伝わった、あの想い。

「……ひみつ」

乃愛が笑うと、琉生は一瞬きょとんとしてから、すぐに笑い返した。

「なんだよ、それ」

そのとき、近くで小さな振動音がした。

ひまりがポケットからスマホを取り出す。

画面を見た瞬間、その表情がほんの少しだけやわらかくなった。

それを見逃さなかった結衣が、すぐさま身を乗り出す。

「ひまり、誰?」

「……直哉くん」

「えっ」

結衣の目がぱっと輝く。

けれど、口を開くより先に、ひまりがにっこりと微笑んだ。

「結衣」

「はい」

「今ここで質問を始めたら、帰るよ?」

「まだ何も言ってないよ⁉」

「顔に全部書いてあるけどな」

颯人の一言に、結衣が勢いよく振り向く。

「颯人は黙ってて!」

「なんで俺なんだよ」

また始まった。

乃愛と琉生が顔を見合わせて笑い、ひまりも困ったように、それでも楽しそうに肩を揺らした。

しばらくして、五人は駅前を離れた。

春休みの街には、冬の冷たさがまだ少しだけ残っている。

けれど風の中には、どこかやわらかな春の匂いも混じっていた。

「三年になってクラス分かれても、お昼は集合だからね!」

歩きながら結衣が振り返る。

「まだ分かれるって決まってねーだろ」

琉生が笑う。

「でも、集合する場所は決めておいてもいいかもね」

ひまりの言葉に、乃愛も頷いた。

「……うん」

次に五人が同じ教室に集まれるかは、まだ誰にも分からない。

それぞれ違う席に座って、違う景色を見ることになるかもしれない。

それでもきっと、誰かが声をかければ。

またこうして、自然と集まるのだろう。

隣の席から始まった繋がりは、もう席だけで結ばれているものではないから。

「乃愛ー! 早くー!」

少し先を歩いていた結衣が、大きく手を振った。

「……今行く!」

乃愛は笑って駆け出す。

「待てって、乃愛」

その隣を、琉生も追いかけた。

いつの間にか、結衣の隣にはひまりが並んでいた。

二人で何かを話しながら歩く、その少し後ろを颯人がついていく。

「ねえ、颯人はどう思う?」

結衣が歩いたまま振り返る。

「知らねーよ。ていうか前見て歩け」

「ちゃんと見てるって!」

「今、俺のほう見てんだろ」

そんな二人のやり取りに、隣のひまりがくすっと笑う。

そこへ乃愛と琉生も追いついて、五人の笑い声が春の風に重なっていった。

誰かが前を歩いたり、少し後ろを歩いたり。

いつも同じ並びではないけれど、気づけばこうして、みんな一緒にいる。

新しい春は、もうすぐそこまで来ていた——。