五人と別れたひまりが家の前まで戻ってくると、ちょうど隣の家の玄関が開いた。
「あ、ひまり。おかえり」
「……直哉くん。ただいま」
「パーティーだったんだろ? 楽しかった?」
「うん。楽しかったよ」
「そっか」
昔から聞き慣れた声に、ひまりの表情が自然とやわらぐ。
隣同士の家。こうして顔を合わせることだって珍しくない。
直哉はふと思い出したように「あ、そうだ」と言うと、手にしていた小さな包みを差し出した。
「はい。今年の」
ひまりは一瞬目を丸くして、それから嬉しそうに笑った。
「……私もあるよ」
鞄から用意していた小さな袋を取り出し、直哉へ差し出す。
「はい。今年の」
「ありがと」
「直哉くんも、ありがとう」
「開けていい?」
「……家に帰ってから」
「なんで?」
「なんとなく」
「なんだそれ」
直哉が笑う。つられるように、ひまりも小さく笑った。
「……今年は何?」
「それこそ帰ってからのお楽しみ」
「さっき私には聞いたのに」
「それとこれとは別」
「ふふっ。なにそれ」
クリスマスにプレゼントを交換するのは、今年が初めてではない。幼い頃から毎年のように繰り返してきた、二人にとっては当たり前のことだった。
それなのに今年は、手の中にある小さな包みが、いつもより少しだけ大切なものに思える。
「でも、今年も交換できてよかった」
「……え?」
「ほら。来年、俺卒業するだろ」
その言葉に、ひまりの胸が小さく揺れた。
分かっていたことだった。
それでも直哉の口から聞くと、春が少しだけ近づいたような気がしてしまう。
「……来年も、する?」
「プレゼント?」
「うん」
「そりゃするだろ」
「でも……学校、違うよ?」
「何言ってんだよ」
直哉はおかしそうに笑うと、ひまりの額へ人差し指を伸ばした。
――つん。
「……っ」
「家、そこじゃん」
指先で軽く押された額を、ひまりは反射的に手で押さえた。
「……分かってるよ」
「学校変わったって、隣なのは変わんないだろ」
「…………」
あまりにも当たり前のように言うから、ひまりはすぐに言葉を返せなかった。
直哉にとっては、きっと何気ない言葉。
昔から家は隣で、学校が変わったくらいで何かが変わるわけじゃない。そう言っているだけなのかもしれない。
それなのに、胸の奥にはじんわりと温かなものが広がっていく。
「……直哉くん」
「ん?」
「子ども扱いしてない?」
「してないって」
「じゃあ、おでこ押さないでよ」
「昔は怒んなかったじゃん」
「……昔と今は違うの」
そう言ってから、ひまりは自分の言葉に少しだけ胸を鳴らした。
――昔と今は、違う。
以前なら、こんなふうに触れられたって気にも留めなかった。けれど今は、もう指先が離れているのに、触れられた額だけが妙に気になってしまう。
直哉はそんなひまりの胸の内など知らないように、いつもの調子で笑った。
「じゃあ、来年もな」
「……うん」
ひまりも笑って頷く。
「来年も」
「おう。じゃ、おやすみ」
「……おやすみ」
直哉が隣の家へ戻ろうと背を向ける。もらったプレゼントを胸元に抱える。
触れられた額には、まだ指先の温もりが残っているような気がした。
――気づけば、声がこぼれていた。
「……直哉くん」
「ん?」
直哉が振り返る。目が合った。
今なら言えるかもしれない。
ずっと胸の奥にしまってきた気持ちを、この人に――。
「…………」
「ひまり?」
けれど、あと少しのところで言葉は止まった。
ひまりは小さく笑って、首を横に振る。
「……ううん。なんでもない」
「そっか」
「うん。……おやすみ」
「おやすみ。またな」
今度こそ、直哉は隣の家へ帰っていった。
ひまりはその背中が見えなくなるまで。
手の中の小さな包みを胸元に抱えて見送った。
プレゼントは渡せた。
けれど、胸の奥にしまった想いまでは、まだ渡せなかった。
ひまりはもう一度、直哉に触れられた額へそっと指を当てる。
そこにはもう何も残っていないはずなのに。
なぜだか今夜は、いつもより少しだけ温かかった——。
「あ、ひまり。おかえり」
「……直哉くん。ただいま」
「パーティーだったんだろ? 楽しかった?」
「うん。楽しかったよ」
「そっか」
昔から聞き慣れた声に、ひまりの表情が自然とやわらぐ。
隣同士の家。こうして顔を合わせることだって珍しくない。
直哉はふと思い出したように「あ、そうだ」と言うと、手にしていた小さな包みを差し出した。
「はい。今年の」
ひまりは一瞬目を丸くして、それから嬉しそうに笑った。
「……私もあるよ」
鞄から用意していた小さな袋を取り出し、直哉へ差し出す。
「はい。今年の」
「ありがと」
「直哉くんも、ありがとう」
「開けていい?」
「……家に帰ってから」
「なんで?」
「なんとなく」
「なんだそれ」
直哉が笑う。つられるように、ひまりも小さく笑った。
「……今年は何?」
「それこそ帰ってからのお楽しみ」
「さっき私には聞いたのに」
「それとこれとは別」
「ふふっ。なにそれ」
クリスマスにプレゼントを交換するのは、今年が初めてではない。幼い頃から毎年のように繰り返してきた、二人にとっては当たり前のことだった。
それなのに今年は、手の中にある小さな包みが、いつもより少しだけ大切なものに思える。
「でも、今年も交換できてよかった」
「……え?」
「ほら。来年、俺卒業するだろ」
その言葉に、ひまりの胸が小さく揺れた。
分かっていたことだった。
それでも直哉の口から聞くと、春が少しだけ近づいたような気がしてしまう。
「……来年も、する?」
「プレゼント?」
「うん」
「そりゃするだろ」
「でも……学校、違うよ?」
「何言ってんだよ」
直哉はおかしそうに笑うと、ひまりの額へ人差し指を伸ばした。
――つん。
「……っ」
「家、そこじゃん」
指先で軽く押された額を、ひまりは反射的に手で押さえた。
「……分かってるよ」
「学校変わったって、隣なのは変わんないだろ」
「…………」
あまりにも当たり前のように言うから、ひまりはすぐに言葉を返せなかった。
直哉にとっては、きっと何気ない言葉。
昔から家は隣で、学校が変わったくらいで何かが変わるわけじゃない。そう言っているだけなのかもしれない。
それなのに、胸の奥にはじんわりと温かなものが広がっていく。
「……直哉くん」
「ん?」
「子ども扱いしてない?」
「してないって」
「じゃあ、おでこ押さないでよ」
「昔は怒んなかったじゃん」
「……昔と今は違うの」
そう言ってから、ひまりは自分の言葉に少しだけ胸を鳴らした。
――昔と今は、違う。
以前なら、こんなふうに触れられたって気にも留めなかった。けれど今は、もう指先が離れているのに、触れられた額だけが妙に気になってしまう。
直哉はそんなひまりの胸の内など知らないように、いつもの調子で笑った。
「じゃあ、来年もな」
「……うん」
ひまりも笑って頷く。
「来年も」
「おう。じゃ、おやすみ」
「……おやすみ」
直哉が隣の家へ戻ろうと背を向ける。もらったプレゼントを胸元に抱える。
触れられた額には、まだ指先の温もりが残っているような気がした。
――気づけば、声がこぼれていた。
「……直哉くん」
「ん?」
直哉が振り返る。目が合った。
今なら言えるかもしれない。
ずっと胸の奥にしまってきた気持ちを、この人に――。
「…………」
「ひまり?」
けれど、あと少しのところで言葉は止まった。
ひまりは小さく笑って、首を横に振る。
「……ううん。なんでもない」
「そっか」
「うん。……おやすみ」
「おやすみ。またな」
今度こそ、直哉は隣の家へ帰っていった。
ひまりはその背中が見えなくなるまで。
手の中の小さな包みを胸元に抱えて見送った。
プレゼントは渡せた。
けれど、胸の奥にしまった想いまでは、まだ渡せなかった。
ひまりはもう一度、直哉に触れられた額へそっと指を当てる。
そこにはもう何も残っていないはずなのに。
なぜだか今夜は、いつもより少しだけ温かかった——。

