十二月に入ると、街はあっという間にクリスマスの色に染まっていった。
駅前には大きなツリーが飾られ、商店街には赤や緑の飾りが並ぶ。
吐く息も白くなるほど冷え込んだクリスマス当日、乃愛たち五人は約束していたパーティーを開いていた。
「メリークリスマース!」
結衣の元気な声に合わせて、五人のグラスが軽く触れ合う。
テーブルには、みんなで持ち寄ったお菓子や料理が所狭しと並んでいた。
乃愛が作ってきた料理を口にした琉生が「やっぱ乃愛の料理うまい!」と嬉しそうに笑えば、乃愛の頬がほんのり赤くなる。
その隣では結衣と颯人がいつものように言い合い、ひまりがくすくすと笑っていた。
プレゼント交換では、誰に何が当たったのかでひとしきり盛り上がった。
特別なことをしているはずなのに、不思議といつもの五人だった。
笑って、からかって、また笑う。
二学期にはいろいろなことがあった。合唱コンクールも、琉生と颯人の公式戦も。
それぞれに悩んだり立ち止まったりしながら、それでもこうして五人で同じ時間を過ごしている。
乃愛は楽しそうに笑うみんなを見ながら、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。
そして――楽しい時間ほど、過ぎていくのは早かった。
*―*―*
「楽しかったー!」
外へ出るなり、結衣が大きく伸びをした。
「橘、一番騒いでたもんな」
「高城くんだって結構笑ってたじゃん」
「笑ってねーよ」
「笑ってたって!」
白い息を弾ませながら歩く二人を見て、乃愛とひまりが顔を見合わせて笑う。
しばらく五人で歩いていたものの、帰る方向が違うため、途中で別れることになった。
「じゃあ、またね」
「おう。よいクリスマスをー!」
「もう十分クリスマス過ごしたでしょ」
琉生の声に結衣が笑い、五人はそれぞれ手を振った。
乃愛と琉生は駅前のほうへ。ひまりは自宅へ向かう道へ。
そして結衣と颯人は、同じ方向へ並んで歩き出した。
「ほんっと楽しかったね」
「ああ」
「来年もやりたいなー。今度はもっと大きいケーキにしない?」
「まだ食う気かよ」
「来年の話でしょ!」
結衣が頬を膨らませる。
颯人は呆れたように息を吐いたものの、その口元には小さく笑みが浮かんでいた。
「ほら。やっぱり笑ってる」
「……うるさい」
「高城くんってさ、絶対自分で思ってるより笑ってるよ?」
「誰のせいだよ」
「え?」
結衣がきょとんとして、それから楽しそうに笑った。
その顔を見た瞬間だった。
颯人の足が、ほんの少しだけ遅くなる。
今日一日、楽しかった。五人で騒いで、くだらないことで笑って。
それだけなら、いつもと変わらないはずなのに。
なぜだろう。
思い返そうとすると、やけに結衣の声ばかりが残っている。
公式戦の日、スタンドから聞こえた気がした自分の名前。
いつの間にか結衣を目で追っていたこと。
言い合えば面倒なくせに、いないと妙に物足りないこと。
目の前で笑う結衣を見ているうちに、今まで名前のなかったものが、ひどくあっさり一つに繋がった。
「あぁ……」
「ん?」
「俺、お前のこと好きなんだな」
「…………え?」
結衣の足が止まった。
颯人も数歩先で立ち止まる。
「…………」
「…………」
「えええっ⁉」
「声でかい」
「だ、だって今! 高城くんが……す、好きって……!」
「ああ。言ったな」
「なんでそんな普通なの⁉」
颯人はそこでようやく、自分が何を口にしたのかを改めて理解した。
心臓は思った以上に速く鳴っている。
けれど、不思議と取り消したいとは思わなかった。
「俺も今気づいた」
「い、今⁉」
「うん」
「そんなことある⁉」
「実際あったんだから仕方ないだろ」
あまりにもいつも通りの口調で返されて、結衣は言葉を失う。
颯人はそんな彼女を見つめると、今度はさっきよりはっきりと言った。
「でも、気づいたからには訂正する気ないから」
「……え?」
「俺、橘が好きだよ」
さっきまで騒がしかった結衣が、今度こそ黙り込んだ。
頬がみるみる赤くなっていく。
「……で、橘は?」
「えっ」
「俺のこと、どう思ってんの」
「い、今聞くの⁉」
「今言ったんだから、今聞くだろ」
「そういう問題⁉」
結衣は困ったように視線を泳がせる。
いつもならいくらでも言葉が出てくるのに、今は何を言っても違う気がした。
体育祭で支えてもらったときも。
思わず名前を叫んでしまったときも。
公式戦で、必死にゴールを守る姿を見つめていたときも。
気づけばいつも、この人のことが気になっていた。
「……高城くんといると、むかつくこと多いし」
「おい」
「最後まで聞いて!」
「……はいはい」
結衣は一度息を吸う。そして今度は逃げずに、颯人を見た。
「でも……一緒にいるの、好き」
颯人の目がわずかに見開かれる。
「だから、その……私も」
結衣の声が少しだけ小さくなった。
「高城くんが、好き」
冬の夜に、二人の白い息が静かにほどけていく。
颯人はしばらく結衣を見つめてから、ふっと笑った。
「じゃあ、一個だけ」
「……なに?」
「高城くん、そろそろやめない?」
「えっ?」
「試合のときは呼べてただろ。颯人って」
「なっ……! あれは勝手に出ただけで……!」
「じゃあ今度は、ちゃんと呼んで」
「…………」
「ほら」
結衣はますます顔を赤くして、しばらく口を開いたり閉じたりしていたが、やがて観念したように小さく息を吐いた。
「……颯人」
「ん」
短く返した颯人の口元が、ほんの少しだけ上がる。
ようやく聞けた、とでも言いたげな、妙に満足そうな顔だった。
「……何その顔」
「別に」
「絶対笑ってる!」
「帰るぞ、結衣」
「――っ!」
今度は結衣が立ち止まる番だった。
けれど颯人は振り返らず、そのまま歩いていく。
「ちょ、ちょっと待ってよ、颯人くん!」
慌てて追いかける結衣の声に、颯人の口元がもう一度わずかに緩んだ。
駅前には大きなツリーが飾られ、商店街には赤や緑の飾りが並ぶ。
吐く息も白くなるほど冷え込んだクリスマス当日、乃愛たち五人は約束していたパーティーを開いていた。
「メリークリスマース!」
結衣の元気な声に合わせて、五人のグラスが軽く触れ合う。
テーブルには、みんなで持ち寄ったお菓子や料理が所狭しと並んでいた。
乃愛が作ってきた料理を口にした琉生が「やっぱ乃愛の料理うまい!」と嬉しそうに笑えば、乃愛の頬がほんのり赤くなる。
その隣では結衣と颯人がいつものように言い合い、ひまりがくすくすと笑っていた。
プレゼント交換では、誰に何が当たったのかでひとしきり盛り上がった。
特別なことをしているはずなのに、不思議といつもの五人だった。
笑って、からかって、また笑う。
二学期にはいろいろなことがあった。合唱コンクールも、琉生と颯人の公式戦も。
それぞれに悩んだり立ち止まったりしながら、それでもこうして五人で同じ時間を過ごしている。
乃愛は楽しそうに笑うみんなを見ながら、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。
そして――楽しい時間ほど、過ぎていくのは早かった。
*―*―*
「楽しかったー!」
外へ出るなり、結衣が大きく伸びをした。
「橘、一番騒いでたもんな」
「高城くんだって結構笑ってたじゃん」
「笑ってねーよ」
「笑ってたって!」
白い息を弾ませながら歩く二人を見て、乃愛とひまりが顔を見合わせて笑う。
しばらく五人で歩いていたものの、帰る方向が違うため、途中で別れることになった。
「じゃあ、またね」
「おう。よいクリスマスをー!」
「もう十分クリスマス過ごしたでしょ」
琉生の声に結衣が笑い、五人はそれぞれ手を振った。
乃愛と琉生は駅前のほうへ。ひまりは自宅へ向かう道へ。
そして結衣と颯人は、同じ方向へ並んで歩き出した。
「ほんっと楽しかったね」
「ああ」
「来年もやりたいなー。今度はもっと大きいケーキにしない?」
「まだ食う気かよ」
「来年の話でしょ!」
結衣が頬を膨らませる。
颯人は呆れたように息を吐いたものの、その口元には小さく笑みが浮かんでいた。
「ほら。やっぱり笑ってる」
「……うるさい」
「高城くんってさ、絶対自分で思ってるより笑ってるよ?」
「誰のせいだよ」
「え?」
結衣がきょとんとして、それから楽しそうに笑った。
その顔を見た瞬間だった。
颯人の足が、ほんの少しだけ遅くなる。
今日一日、楽しかった。五人で騒いで、くだらないことで笑って。
それだけなら、いつもと変わらないはずなのに。
なぜだろう。
思い返そうとすると、やけに結衣の声ばかりが残っている。
公式戦の日、スタンドから聞こえた気がした自分の名前。
いつの間にか結衣を目で追っていたこと。
言い合えば面倒なくせに、いないと妙に物足りないこと。
目の前で笑う結衣を見ているうちに、今まで名前のなかったものが、ひどくあっさり一つに繋がった。
「あぁ……」
「ん?」
「俺、お前のこと好きなんだな」
「…………え?」
結衣の足が止まった。
颯人も数歩先で立ち止まる。
「…………」
「…………」
「えええっ⁉」
「声でかい」
「だ、だって今! 高城くんが……す、好きって……!」
「ああ。言ったな」
「なんでそんな普通なの⁉」
颯人はそこでようやく、自分が何を口にしたのかを改めて理解した。
心臓は思った以上に速く鳴っている。
けれど、不思議と取り消したいとは思わなかった。
「俺も今気づいた」
「い、今⁉」
「うん」
「そんなことある⁉」
「実際あったんだから仕方ないだろ」
あまりにもいつも通りの口調で返されて、結衣は言葉を失う。
颯人はそんな彼女を見つめると、今度はさっきよりはっきりと言った。
「でも、気づいたからには訂正する気ないから」
「……え?」
「俺、橘が好きだよ」
さっきまで騒がしかった結衣が、今度こそ黙り込んだ。
頬がみるみる赤くなっていく。
「……で、橘は?」
「えっ」
「俺のこと、どう思ってんの」
「い、今聞くの⁉」
「今言ったんだから、今聞くだろ」
「そういう問題⁉」
結衣は困ったように視線を泳がせる。
いつもならいくらでも言葉が出てくるのに、今は何を言っても違う気がした。
体育祭で支えてもらったときも。
思わず名前を叫んでしまったときも。
公式戦で、必死にゴールを守る姿を見つめていたときも。
気づけばいつも、この人のことが気になっていた。
「……高城くんといると、むかつくこと多いし」
「おい」
「最後まで聞いて!」
「……はいはい」
結衣は一度息を吸う。そして今度は逃げずに、颯人を見た。
「でも……一緒にいるの、好き」
颯人の目がわずかに見開かれる。
「だから、その……私も」
結衣の声が少しだけ小さくなった。
「高城くんが、好き」
冬の夜に、二人の白い息が静かにほどけていく。
颯人はしばらく結衣を見つめてから、ふっと笑った。
「じゃあ、一個だけ」
「……なに?」
「高城くん、そろそろやめない?」
「えっ?」
「試合のときは呼べてただろ。颯人って」
「なっ……! あれは勝手に出ただけで……!」
「じゃあ今度は、ちゃんと呼んで」
「…………」
「ほら」
結衣はますます顔を赤くして、しばらく口を開いたり閉じたりしていたが、やがて観念したように小さく息を吐いた。
「……颯人」
「ん」
短く返した颯人の口元が、ほんの少しだけ上がる。
ようやく聞けた、とでも言いたげな、妙に満足そうな顔だった。
「……何その顔」
「別に」
「絶対笑ってる!」
「帰るぞ、結衣」
「――っ!」
今度は結衣が立ち止まる番だった。
けれど颯人は振り返らず、そのまま歩いていく。
「ちょ、ちょっと待ってよ、颯人くん!」
慌てて追いかける結衣の声に、颯人の口元がもう一度わずかに緩んだ。

