試合終了の笛が鳴ってからしばらく経っても、琉生の胸にはまだ熱が残っていた。
1対0。
前半から何度もゴールを守った颯人と、最後まで走り続けた仲間たち。
そして、みんなで繋いだボールから生まれた決勝点。
ロッカールームへ戻った選手たちは、ようやく勝利を実感したように、互いの肩を叩き合っていた。
「羽瀬、ナイスゴール!」
「佐々木もナイスパス! あれなかったら決められてねーよ」
「お、今日の羽瀬、謙虚じゃん」
「今日のってなんだよ!」
笑い声が弾ける。
少し前まで、一人で結果を出そうとしていた自分なら、こんなふうには思えなかったかもしれない。
今日の一点は、自分だけの一点じゃない。
それが今は、不思議なくらい素直に嬉しかった。
やがて監督が手を叩き、ロッカールームの空気を引き締める。
「よし。今日はよくやった。ただし、まだ終わりじゃないぞ。次もある。浮かれるのは今日までにしろ」
「はい!」
選手たちの声が揃った。
「着替えたやつから帰っていい。しっかり身体休めとけよ。それから――羽瀬、高城。お前ら二人はちょっと残れ」
「え?」
琉生と颯人が同時に顔を上げる。
周囲の部員たちが「何やったんだよ」と笑いながら出ていく中、颯人が横目で琉生を見た。
「説教なら羽瀬だけでお願いします」
「なんでだよ! 俺、今日決勝点取っただろ!」
「前半あんだけボール取られてたし」
「ぐっ……」
言い返せなくなった琉生に、監督が呆れたように息を吐く。
「説教じゃない。むしろ逆だ」
「……逆?」
二人が顔を見合わせる。
監督は少し間を置いてから、いつもより真剣な表情で口を開いた。
「今日の試合、Jクラブのスカウトが来てた」
「……え」
琉生の表情が止まった。
知ってはいた。
今日、スカウトが来るかもしれないことは。
だからこそ前半、自分を見せなければと焦ってしまったのだから。
けれど、監督が続けた言葉は予想していなかった。
「試合が終わったあと、向こうから声を掛けられた。お前ら二人のプレーをかなり評価してたぞ」
「……二人?」
琉生が隣を見る。
颯人も珍しく目を丸くして、自分を指さした。
「俺も……ですか?」
「ああ。羽瀬だけじゃない。高城、お前もだ」
「……マジか」
颯人が小さく呟く。
その顔には、喜びよりも驚きのほうが強く浮かんでいた。
「もちろん、まだ何かが決まったわけじゃない。お前らはまだ二年だ。ただ、来季に向けて継続して見ていきたいって話だった。これからの成長次第じゃ、練習参加に呼ばれる可能性もある」
琉生は息を呑んだ。
ずっと遠くにあったはずの場所。
いつかそこに立ちたいと思いながら、毎日ボールを追い続けてきた。
その夢へ続く道が、ほんの少しだけ見えた気がした。
隣では、いつも冷静な颯人が黙ったまま監督を見つめている。
琉生とは違い、その表情から何を考えているのかまでは分からない。
「だからって浮かれるなよ」
監督の声に、二人は顔を上げた。
「評価されたってことは、これからも見られるってことだ。今日だけ良ければいいわけじゃない。来年に向けて、今からしっかり準備しておけ」
「……はい!」
琉生が力強く答える。
一拍遅れて、颯人も頷いた。
「はい」
ロッカールームを出た二人は、しばらく無言のまま廊下を歩いた。
いつもならどちらかが何か言うはずなのに、今だけは言葉が出てこない。
やがて琉生が足を止めた。
「……颯人」
「なんだよ」
「俺ら、見られてたんだな」
「……らしいな」
颯人も足を止める。
二人は顔を見合わせた。
小学生のころから、一緒にボールを追いかけてきた。
練習でも試合でも、何度も言い合って、何度も助けられて。
気づけば、隣でサッカーをすることが当たり前になっていた。
その先に何があるのかなんて、今まで二人で話したことはなかったけれど。
今日初めて、その先へ続く道がほんの少しだけ見えた。
次の瞬間、どちらからともなく拳を差し出した。
こつん、と拳が触れる。
「次も守れよ」
「お前が取られなきゃ、もっと楽なんだけどな」
「それ今言う⁉」
いつものやり取りに戻りながら、二人は仲間たちの待つ外へ向かった。
1対0。
前半から何度もゴールを守った颯人と、最後まで走り続けた仲間たち。
そして、みんなで繋いだボールから生まれた決勝点。
ロッカールームへ戻った選手たちは、ようやく勝利を実感したように、互いの肩を叩き合っていた。
「羽瀬、ナイスゴール!」
「佐々木もナイスパス! あれなかったら決められてねーよ」
「お、今日の羽瀬、謙虚じゃん」
「今日のってなんだよ!」
笑い声が弾ける。
少し前まで、一人で結果を出そうとしていた自分なら、こんなふうには思えなかったかもしれない。
今日の一点は、自分だけの一点じゃない。
それが今は、不思議なくらい素直に嬉しかった。
やがて監督が手を叩き、ロッカールームの空気を引き締める。
「よし。今日はよくやった。ただし、まだ終わりじゃないぞ。次もある。浮かれるのは今日までにしろ」
「はい!」
選手たちの声が揃った。
「着替えたやつから帰っていい。しっかり身体休めとけよ。それから――羽瀬、高城。お前ら二人はちょっと残れ」
「え?」
琉生と颯人が同時に顔を上げる。
周囲の部員たちが「何やったんだよ」と笑いながら出ていく中、颯人が横目で琉生を見た。
「説教なら羽瀬だけでお願いします」
「なんでだよ! 俺、今日決勝点取っただろ!」
「前半あんだけボール取られてたし」
「ぐっ……」
言い返せなくなった琉生に、監督が呆れたように息を吐く。
「説教じゃない。むしろ逆だ」
「……逆?」
二人が顔を見合わせる。
監督は少し間を置いてから、いつもより真剣な表情で口を開いた。
「今日の試合、Jクラブのスカウトが来てた」
「……え」
琉生の表情が止まった。
知ってはいた。
今日、スカウトが来るかもしれないことは。
だからこそ前半、自分を見せなければと焦ってしまったのだから。
けれど、監督が続けた言葉は予想していなかった。
「試合が終わったあと、向こうから声を掛けられた。お前ら二人のプレーをかなり評価してたぞ」
「……二人?」
琉生が隣を見る。
颯人も珍しく目を丸くして、自分を指さした。
「俺も……ですか?」
「ああ。羽瀬だけじゃない。高城、お前もだ」
「……マジか」
颯人が小さく呟く。
その顔には、喜びよりも驚きのほうが強く浮かんでいた。
「もちろん、まだ何かが決まったわけじゃない。お前らはまだ二年だ。ただ、来季に向けて継続して見ていきたいって話だった。これからの成長次第じゃ、練習参加に呼ばれる可能性もある」
琉生は息を呑んだ。
ずっと遠くにあったはずの場所。
いつかそこに立ちたいと思いながら、毎日ボールを追い続けてきた。
その夢へ続く道が、ほんの少しだけ見えた気がした。
隣では、いつも冷静な颯人が黙ったまま監督を見つめている。
琉生とは違い、その表情から何を考えているのかまでは分からない。
「だからって浮かれるなよ」
監督の声に、二人は顔を上げた。
「評価されたってことは、これからも見られるってことだ。今日だけ良ければいいわけじゃない。来年に向けて、今からしっかり準備しておけ」
「……はい!」
琉生が力強く答える。
一拍遅れて、颯人も頷いた。
「はい」
ロッカールームを出た二人は、しばらく無言のまま廊下を歩いた。
いつもならどちらかが何か言うはずなのに、今だけは言葉が出てこない。
やがて琉生が足を止めた。
「……颯人」
「なんだよ」
「俺ら、見られてたんだな」
「……らしいな」
颯人も足を止める。
二人は顔を見合わせた。
小学生のころから、一緒にボールを追いかけてきた。
練習でも試合でも、何度も言い合って、何度も助けられて。
気づけば、隣でサッカーをすることが当たり前になっていた。
その先に何があるのかなんて、今まで二人で話したことはなかったけれど。
今日初めて、その先へ続く道がほんの少しだけ見えた。
次の瞬間、どちらからともなく拳を差し出した。
こつん、と拳が触れる。
「次も守れよ」
「お前が取られなきゃ、もっと楽なんだけどな」
「それ今言う⁉」
いつものやり取りに戻りながら、二人は仲間たちの待つ外へ向かった。

