隣の席だったキミとひみつの合図 ~強い絆と恋の充電。支え合い、乗り越える力がある~

スタンドを埋める観客の声が、秋空の下に響いていた。

全国大会へ繋がる選手権予選の決勝トーナメント。

ピッチの向こうには相手チームが並び、スタンドには応援に駆けつけた生徒や保護者たちの姿がある。

その一角には、乃愛、結衣、ひまりの三人もいた。

「うわ……思ってたより人多い」

周囲を見回した結衣が、少し圧倒されたように呟く。

「昨日、最前列で応援するって言ってたの誰だっけ?」

「それとこれとは別なの!」

ひまりに返しながらも、結衣の視線はすぐにピッチへ戻っていく。

乃愛も、選手たちの中から琉生を探した。

いつものユニフォーム姿。

けれど今日は、その背中が少しだけ遠く見える。

(琉生くん……)

昨日、教室で繋いだ手の温もりを思い出す。

『明日、見ててな』

もちろん。

今日もちゃんと、見ている。

やがて選手たちがそれぞれの位置につき、開始の笛が鳴った。

その瞬間――。

スタンドの空気が、一気に変わった。

*―*―*

「琉生!」

味方から届いたボールを受け、琉生は前を向いた。

すぐに相手のディフェンダーが二人、左右から距離を詰めてくる。

(抜ける!)

ボールを前へ運び、一人目の脇を抜こうとする。

しかし――。

「っ!」

もう一人の足が伸び、ボールを奪われた。

「戻れ!」

一気に相手のカウンターが始まる。

琉生もすぐに追いかけるが、相手は速い。

ボールは前線へ運ばれ、そのままシュートが放たれた。

「颯人!」

ゴール前で颯人が地面を蹴る。

伸ばした両手がボールを弾き、ゴールの外へ逸らした。

「っしゃ!」

すぐに立ち上がった颯人が、前線へ向かって声を張る。

「琉生! 焦んな! 周り使え!」

「……分かってる!」

そう返しながら、琉生は奥歯を噛んだ。

分かっている。

昨日までだって、仲間と声を掛け合ってプレーできていた。

それなのに――。

(今日、見られてるんだぞ)

スタンドのどこかには、スカウトがいるかもしれない。

一つでも多く、自分のプレーを見せたい。

一点でも、自分が取らなければ。

その思いが強くなるほど、視界は少しずつ狭くなっていった。

再びボールが回ってくる。

また二人に囲まれる。

それでも琉生は自分で突破しようとして、ボールを失った。

そしてまた、相手の攻撃。

「高城!」

味方の声が飛ぶ。

ゴール前へ鋭いボールが入る。

颯人は一歩前へ出ると、相手より先に身体を伸ばしてボールを抱え込んだ。

「ナイス、颯人!」

「っしゃあ!」

歓声が上がる。

けれど、颯人は喜ぶより先に前を向いた。

「まだ終わってねえぞ! 切り替えろ!」

その声に仲間たちが応え、再び走り出す。

それでも前半、琉生たちは最後まで相手のゴールを破れなかった。

スコアは――0対0。

颯人が何度もゴールを守り続け、どうにか繋いだまま試合を折り返した。

*―*―*

後半に入っても、緊迫した時間が続いた。

一点。

たった一点で、試合の流れが大きく変わる。

だからこそ、両チームとも譲らない。

「来るよ……!」

スタンドで乃愛が思わず身を乗り出した。

相手のパスが琉生たちの守備の間を抜ける。

その先へ走り込んだフォワードが、ボールを受けた。

ゴールとの間にいるのは――颯人だけ。

「高城くん……!」

乃愛の隣で、結衣が両手をぎゅっと握る。

相手がボールを運ぶ。

颯人が少しずつ前へ出る。

一対一。

相手の足が、ボールの下へ入った。

「――颯人ー!! 守ってーー!!」

結衣の声が、スタンドの大歓声に重なった。

いくつもの声が入り混じる中、届いたかどうかなんて分からない。

それでも――。

「……っ」

颯人には、一瞬だけ聞こえた気がした。

(……結衣?)

そう思ったのは、ほんの一瞬。

相手の右足が振り抜かれる。

「っ!」

颯人は地面を蹴った。

身体を横へ投げ出し、伸ばした指先がボールに触れる。

わずかに軌道を変えたボールが――ゴールポストの外へ弾かれた。

「……っしゃあ!」

颯人が芝の上で拳を握る。

次の瞬間、スタンドから大歓声が上がった。

「止めた……」

結衣が目を見開く。

「止めた! やったぁぁ!」

思わず乃愛とひまりの腕を掴んで飛び跳ねる。

「結衣、痛い痛い」

「ご、ごめん! でも今の見た!?」

「見てたよ」

ひまりが笑いながら答える。

颯人は立ち上がると、ユニフォームについた芝を払い、ふとスタンドへ顔を向けた。

もちろん、この距離では結衣の姿なんてはっきり見えない。

それでも――。

ほんの少しだけ、その口元が緩んだ。