この辺の地域では、灯籠祭が、毎年お盆の時期に開催される。
名の通り、近くを流れる川に灯籠を流すのだ。
しかし多くの人の楽しみはそれが主ではない。
何を隠そう、毎年その周辺で屋台が出るのである。焼きそばにたこ焼き、綿菓子にチョコバナナ・・・・・・他のところと比べても段違いに屋台の種類が多い。
というのも、この地域のイベントはこれしかないため皆張り切っているのだ。
俺も昔は祭りが好きだったが、最近は行っていない。
そもそも人混みが苦手だし、わざわざ行ったところで昔ほど楽しめるとも思えない。
だから、行きたいとも思わない。
先日、佐伯から『一緒に行かない?』とメッセージが来たが、丁重にお断りさせてもらった。
いくら佐伯とだろうが行きたくないものは行きたくないのだ。
・・・・・・そういえば、祭りは今日だったな。
現在時刻十八時。そろそろまつりが始まる頃だ。
きっと佐伯は、他の友達と楽しく屋台を回っていることだろう。そう思うと少しだけ、胸の奥がずきっとした。なぜだ。
暇だ。断ったくせに、特にやることもない。
寝っ転がってスマホをいじるだけ。
SNSを、特になんの感慨もなく眺めていた。と、クラスメイトの投稿を見つける。
確かこいつは・・・・・・佐伯と仲の良い、櫻井、とか言ったっけ。
見ると、女子も男子も含め六人くらいで自撮りをしていた。きっと佐伯もいるのだろう。
と思って写真を開いてみたが、佐伯の姿はない。
こいつらと行ったんじゃないのか。
どこかホッとしている自分がいてなんだか少し嫌になり、枕に顔を押し付けた。
両親とともに夕飯を食べようとしたとき、ピンポーンというインターホンの間抜けな音が響いた。
こんな時間に誰だ。まさか配達員じゃあるまい。
「蒼、出てもらって良い?」
母の人使いの荒さに、今さらながらため息が出る。
「はいはい」
少々面倒だと思いながら、玄関を開けた。
そこにいたのは、浴衣を着て生成色の狐の面を被った男子だった。
え、妖怪か幽霊的な、何かだろうか。
そんなスピリチュアルなことを考えていると、その狐面が話しかけてきた。
「誰かわかる?」
・・・・・・あ、佐伯だ。
声でわかった。というか、何だその格好は。
「佐伯だろ」
「あ、せいかーい」
気の抜けた声を出し、佐伯はお面を外した。
「祭り行ってきた」
「・・・・・・へぇ。誰と?」
聞くつもりはなかったのに、勝手に口を突いて出てしまった。
「ん、一人だけど」
「一人で行ったん?なんか意外だな」
「だって、一ノ瀬にお土産買いたくて」
そう言って佐伯が掲げた袋の中には、焼きそばやらポテトやらチョコバナナやら色々詰まっていた。
「あ・・・・・・サンキュ」
「せっかくなら一緒に食わない?」
確かにそうしたい、が。
「俺今から夕飯なんだけど」
と、不意に母が廊下に顔を出した。
「あら、葵の友達?」
「そうっす。佐伯って言います。いつも仲良くさせてもらってて」
佐伯は愛想よく言った。さすが世渡り上手。
「ちょっと、この人借りてっていいっすか?」
俺を指さす。俺は物か。
「遊び行くの?夜遅いから気をつけてね」
こんな時間から出ていくというのに、母は一切躊躇なく送り出した。
母は普段こんなことは許さない。
きっと母は、俺に友達がいるのを知って嬉しかったのだろう。
「よし、じゃあ行こうぜ」
佐伯に腕を引かれ、俺たちは外へ出た。
連れてこられたのは、誰もいない近くの公園だった。
何の変哲もない、ブランコやベンチがあるだけの、小さな公園。
「なんでここ?」
「誰もいなさそうだったから」
そう言って佐伯が袋から買ったものを取り出す。
「ほら、食おうよ」
佐伯が差し出したのはたこ焼き。
俺は受け取って一つ口に含んだ。
あ、これヤバいやつだ。
「・・・・・・っ、あつっ」
思いの外まだ中の生地が熱く、猫舌の俺はハフハフ言いながらなんとか飲み込んだ。
「危なかった・・・・・・」
深刻な顔で呟く俺を見て、佐伯はけらけら笑った。
「おもろっ。動画撮っとけばよかった」
「お前、発想がサイテーだな」
「もしかしてそれ、褒めてる?」
一切悪びれることのないその態度に、俺も力が抜けた。
「まあ、美味いよ・・・・・・わざわざ買ってきてくれて、ありがとな」
「いーよいーよ。一ノ瀬と祭り楽しみたかったし」
・・・・・・こういうことをサラッと言えるとこ、本当にムカつく。
なんで佐伯は、他の友達と一緒に回らなかったのだろう。
どうしてわざわざ土産を買ってまで俺のとこへ来たのだろう。
考えてもわからない無数の問いが、俺の頭の中をグルグルしていた。
そんな考え事をしていると、口にぐっと渦巻きポテトを押し付けられた。
「さっきから食ってないじゃん。たくさん買っちゃったんだから、しっかり消費してくれよ」
俺が佐伯を睨んだが、当の本人はけらけら笑って全く反省の色が見えない。
「そんな顔しても、食うまでやめてやんねーぞ」
仕方なく口を開き渦巻きポテトを頬張る。
なんとも言えない敗北感。さっきのとは、別ベクトルでムカつく。
よし、仕返しやってやるか。
俺は偶然近くにあったチョコバナナを手に取ると、佐伯の口元へ押し付けた。
「さっきの仕返し」
「・・・・・・っ、やったな?」
ふっと笑って、佐伯はそれにがっと食らいついた。これこそ餌付けみたいだ。
口周りにチョコがつくのをお構いなしで食べている。
と思ったら、ぱっと顔を上げた。
「美味しいよ」
祭りには行かなかったけど。こんな夜も悪くない。
チョコバナナのコーティングが口周りに付いたまま楽しそうに笑っている佐伯を見て、俺はふとそう思った。
名の通り、近くを流れる川に灯籠を流すのだ。
しかし多くの人の楽しみはそれが主ではない。
何を隠そう、毎年その周辺で屋台が出るのである。焼きそばにたこ焼き、綿菓子にチョコバナナ・・・・・・他のところと比べても段違いに屋台の種類が多い。
というのも、この地域のイベントはこれしかないため皆張り切っているのだ。
俺も昔は祭りが好きだったが、最近は行っていない。
そもそも人混みが苦手だし、わざわざ行ったところで昔ほど楽しめるとも思えない。
だから、行きたいとも思わない。
先日、佐伯から『一緒に行かない?』とメッセージが来たが、丁重にお断りさせてもらった。
いくら佐伯とだろうが行きたくないものは行きたくないのだ。
・・・・・・そういえば、祭りは今日だったな。
現在時刻十八時。そろそろまつりが始まる頃だ。
きっと佐伯は、他の友達と楽しく屋台を回っていることだろう。そう思うと少しだけ、胸の奥がずきっとした。なぜだ。
暇だ。断ったくせに、特にやることもない。
寝っ転がってスマホをいじるだけ。
SNSを、特になんの感慨もなく眺めていた。と、クラスメイトの投稿を見つける。
確かこいつは・・・・・・佐伯と仲の良い、櫻井、とか言ったっけ。
見ると、女子も男子も含め六人くらいで自撮りをしていた。きっと佐伯もいるのだろう。
と思って写真を開いてみたが、佐伯の姿はない。
こいつらと行ったんじゃないのか。
どこかホッとしている自分がいてなんだか少し嫌になり、枕に顔を押し付けた。
両親とともに夕飯を食べようとしたとき、ピンポーンというインターホンの間抜けな音が響いた。
こんな時間に誰だ。まさか配達員じゃあるまい。
「蒼、出てもらって良い?」
母の人使いの荒さに、今さらながらため息が出る。
「はいはい」
少々面倒だと思いながら、玄関を開けた。
そこにいたのは、浴衣を着て生成色の狐の面を被った男子だった。
え、妖怪か幽霊的な、何かだろうか。
そんなスピリチュアルなことを考えていると、その狐面が話しかけてきた。
「誰かわかる?」
・・・・・・あ、佐伯だ。
声でわかった。というか、何だその格好は。
「佐伯だろ」
「あ、せいかーい」
気の抜けた声を出し、佐伯はお面を外した。
「祭り行ってきた」
「・・・・・・へぇ。誰と?」
聞くつもりはなかったのに、勝手に口を突いて出てしまった。
「ん、一人だけど」
「一人で行ったん?なんか意外だな」
「だって、一ノ瀬にお土産買いたくて」
そう言って佐伯が掲げた袋の中には、焼きそばやらポテトやらチョコバナナやら色々詰まっていた。
「あ・・・・・・サンキュ」
「せっかくなら一緒に食わない?」
確かにそうしたい、が。
「俺今から夕飯なんだけど」
と、不意に母が廊下に顔を出した。
「あら、葵の友達?」
「そうっす。佐伯って言います。いつも仲良くさせてもらってて」
佐伯は愛想よく言った。さすが世渡り上手。
「ちょっと、この人借りてっていいっすか?」
俺を指さす。俺は物か。
「遊び行くの?夜遅いから気をつけてね」
こんな時間から出ていくというのに、母は一切躊躇なく送り出した。
母は普段こんなことは許さない。
きっと母は、俺に友達がいるのを知って嬉しかったのだろう。
「よし、じゃあ行こうぜ」
佐伯に腕を引かれ、俺たちは外へ出た。
連れてこられたのは、誰もいない近くの公園だった。
何の変哲もない、ブランコやベンチがあるだけの、小さな公園。
「なんでここ?」
「誰もいなさそうだったから」
そう言って佐伯が袋から買ったものを取り出す。
「ほら、食おうよ」
佐伯が差し出したのはたこ焼き。
俺は受け取って一つ口に含んだ。
あ、これヤバいやつだ。
「・・・・・・っ、あつっ」
思いの外まだ中の生地が熱く、猫舌の俺はハフハフ言いながらなんとか飲み込んだ。
「危なかった・・・・・・」
深刻な顔で呟く俺を見て、佐伯はけらけら笑った。
「おもろっ。動画撮っとけばよかった」
「お前、発想がサイテーだな」
「もしかしてそれ、褒めてる?」
一切悪びれることのないその態度に、俺も力が抜けた。
「まあ、美味いよ・・・・・・わざわざ買ってきてくれて、ありがとな」
「いーよいーよ。一ノ瀬と祭り楽しみたかったし」
・・・・・・こういうことをサラッと言えるとこ、本当にムカつく。
なんで佐伯は、他の友達と一緒に回らなかったのだろう。
どうしてわざわざ土産を買ってまで俺のとこへ来たのだろう。
考えてもわからない無数の問いが、俺の頭の中をグルグルしていた。
そんな考え事をしていると、口にぐっと渦巻きポテトを押し付けられた。
「さっきから食ってないじゃん。たくさん買っちゃったんだから、しっかり消費してくれよ」
俺が佐伯を睨んだが、当の本人はけらけら笑って全く反省の色が見えない。
「そんな顔しても、食うまでやめてやんねーぞ」
仕方なく口を開き渦巻きポテトを頬張る。
なんとも言えない敗北感。さっきのとは、別ベクトルでムカつく。
よし、仕返しやってやるか。
俺は偶然近くにあったチョコバナナを手に取ると、佐伯の口元へ押し付けた。
「さっきの仕返し」
「・・・・・・っ、やったな?」
ふっと笑って、佐伯はそれにがっと食らいついた。これこそ餌付けみたいだ。
口周りにチョコがつくのをお構いなしで食べている。
と思ったら、ぱっと顔を上げた。
「美味しいよ」
祭りには行かなかったけど。こんな夜も悪くない。
チョコバナナのコーティングが口周りに付いたまま楽しそうに笑っている佐伯を見て、俺はふとそう思った。


